第198話、わたくし、『艦○れ』や『アズ○ン』の存在自体を知ったのは、つい最近ですの。

「……姫、今日も何て、麗しいの♡」


「……姫、どこまで可愛くなれば、気が済むんだ♡」


「……姫、まさに神の手による、奇跡の美の結晶ね♡」


「……姫、あのクールで無表情なところが、堪らないわあ♡」


「……姫、しかも絹糸のようなはくはつに、初雪のごとき穢れなき素肌という、全身まっ白け♡」


「……姫、それでいて端麗な小顔の中の瞳だけが、あたかも鮮血のごとく真っ赤っかなんて♡」


「……姫、そして何よりも、気高く気品に満ちていながら、七歳ほどの幼さであるところが、もう♡」




「「「──ああ、我らが姫、アグネス=チャネラー=サングリア様に、栄光あれ♡♡♡」」




 そして大歓声に包み込まれる、いまだHRホームルーム前の早朝の、聖レーン転生教団直営の『魔法令嬢育成学園』の、五年D組の教室。


 ここ最近ときたら毎日のようにして、このような異様な熱気に包まれた、『馬鹿騒ぎ』が繰り返されていたのだ。




 ……どうして、こんなことに、なってしまったのだろう。




 もはや『狂信的』なまでに自分を崇め奉るクラスメイトたちの人だかりの中においても、普段の冷静沈着な姿勢を崩すことなく無言で座り続けている、アグネスちゃん本人のほうを見やりながら、今のところ正常な意識を保っている少数派の生徒側にいる、私ことアルテミス=ツクヨミ=セレルーナを始めとする、『魔法令嬢、ちょい悪シスターズ』のメンバー全員は、大きくため息をついたのであった。




   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑




「……ほんと、夢の中では、あんなに可愛らしい『人魚姫』だった、アグネスちゃんが、どうしてこんな『ちょっと危ない新興宗教団体の教祖様』みたいに、なってしまったのかなあ」




 神聖なる学び舎において、あまりにも異常極まる光景を目の当たりにさせられて、心底辟易となり、つい口走ってしまった愚痴の言葉を、すかさず聞きとがめる、私と同じ『魔法令嬢、ちょい悪シスターズ』のメンバーたち。


「……夢の中だと?」


「ああ、うん、ヨウコちゃん。なぜだかここ数日にわたって、アグネスちゃんが人魚姫になる夢ばかり見ていたの」


「ははん、確かにアグネスはんは、『姫』と呼ぶにふさわしいまでに、高貴で可憐な容姿をしとるからなあ……」


「そうなのよ、ユーちゃん! しかも夢の中では十四歳くらいに成長していて、絵本やアニメのお姫様そのものだったんだよ!」


「まあねえ、あの子の全身まっ白けで瞳だけ紅いところなんかは、ちょっと奇抜だけど、異世界ファンタジー系のWeb小説あたりだったら、十分お姫様で通用するでしょうねえ」


「うん、相変わらずメアちゃんたら、たとえがいかにもメタっぽいけど、その通りだよねえ!」


「……それで、その夢の中では、アルテミスさん自身は、どんな役所だったのですの?」


「──うっ」


 さ、さすがは、百合に関しては右に出る者はいない、『ゆりゆり魔法令嬢』のタチコちゃん、鋭いところを突いてくるじゃないの⁉




「……ええと、『セイレーン』とも呼ばれている、『海底の魔女』をっていました」




「「「「…………」」」」


 一瞬メンバーの全員が呆気にとられて、沈黙に包まれるものの、


「「「「ぶはっ!!!」」」」


 まるで口の中のものをすべて吹き出すかのように、どっと笑声を放つ、魔法令嬢たち。


「わはは、アルテミスが、海底の魔女だと?」


「そらあ、可愛らしい魔女はんも、いたもんやなあ!」


「なになに、人魚姫に、『人間にしてやる代わりに、おまえの声をいただくよ』とか、脅したわけ?」


「むしろ、人魚たちから集団で、苛められそうに見えるのですけどw」


 そのように口々に人を馬鹿にしたようなことを言って、再び笑い声を上げる、熱い絆で結ばれているはずの仲間たち。


「……むう〜、何よ、馬鹿にしてえ! わたくしだって、やる時にはやる──」




 ちょっと待って、『人魚の集団』、ですって?




 今現在の、アグネスちゃんを『姫』呼ばわりして盲目的に崇め奉っている、クラスメイトたちの有り様って、唯一生殖能力を持つ『人魚姫』を、自分たち一族の次代の『女王蜂』のようにして崇拝している、その他の自我こころの無い人魚たちのようなものじゃないの⁉




「ね、ねえ、みんなは今のアグネスちゃんを見て、何も感じない? 例えば、私の夢の中に出て来た、『人魚姫』とか『海底の魔女』とか『セイレーン』とか『深海棲種』とか言った、キーワードを聞いて、何かを連想しない?」


「「「「──っ」」」」


 私の言葉を聞いて、途端に表情を一変させるメンバーたち。


 どうやら私の意図するところを、汲み取ってもらえたようだ。


「し、『深海棲種』に」


「『姫』に」


「『セイレーン』って」


「ま、まさか、それって⁉」


 うんうん、その通り、やはり誰だって気がつくよね、聖レーン転生教団との、あまりにもあからさまな共通項が、あることを──




「「「「『艦○れ』──いや『アズ○ン』、そのままじゃないか⁉」」」」




 ……………………………………は?




「そうだよ、『深海棲種』とか『セイレーン』とか言ったら、ドンピシャだよな」


「そして、『姫』と言えば当然、『ほっ○ちゃん』や!」


「そもそも、はくはつ赤目の幼女であるところで、気づくべきだったのよ!」


「『ほっ○ちゃん』の瞳は赤と言うよりも、オレンジと言った感じですが、そこら辺は誤差の範囲でしょう」




「「「「そうかそうか、アグネスちゃんは、『ほっ○ちゃん』だったから、あんなにも大人気なんだ、納得したあ〜」」」」




「──納得するな! 何でそんな危険極まりない、結論に至るのよ⁉」




 クソたわけどもに対するわたくしの一喝が、教室中に響き渡り、途端に沈黙に包み込まれる。


「本作の作者が、『艦○れ』とか『アズ○ン』の存在を知ったのは、ここ最近のことに過ぎず、アグネスちゃんの外見とか年齢の設定は、それよりもずっと前に定められていたし、『聖レーン転生教団』に至っては、『聖レーン教団』の名称で、作者の別作品において、『艦○れ』や『アズ○ン』と言うゲームアプリ自体が制作される以前から、ちゃんと登場していたんだから!」


「……何か、言い訳臭いよなあ」


「──どこがよ⁉」


「大体が、教団──特に教皇アグネスはん関連においては、その容姿とか年格好とか深海棲種とか聖レーンとか、あまりにも『ほっ○ちゃん』と、類似点があり過ぎると思うんやけどなあ」


「──だから、あくまでも偶然だと、言っているでしょう⁉」


「それに、人魚が人間になれるところも、『艦む○め』と『深海○姫』との裏設定を、窺わせるところがあるしねえ」


「──むしろそれは、オリジナルのおとぎ話としての、『人魚姫』の設定でしょうが⁉」


「いやそもそも、『艦○れ』なのか『アズ○ン』なのか、統一すべきなのでは?」


「──知らないわよ⁉ 第一そのどちらでもないんだから!」




「「「「ほんとかねえ……」」」」




「本当だってば! あなたたちも本作の登場人物だったら、もっと作者のことを、信じてやりなさいよ⁉」


 大体あの作者自身の日頃の行いが悪いから、こんな疑いをかけられることになるのよ! ある意味、自業自得だわ!




「……まあ、『艦○れ』とか『アズ○ン』とかのことを置いといても、現在のアグネスが、まさしく『人魚姫』そのままに、『お姫様』扱いされているのは、間違いないよな」


「案外、クラスメイトのほとんどの子たちも、アルテミスはんと同じような夢を、のかも知れへんな」


「夢を見せられていたって………………まさか⁉」


「……つまり、『悪役令嬢』の差し金──かも知れないって、言うわけですの?」


 ──っ。そうか!


 そもそも、わたくし自身があのいかにも意味深な、摩訶不思議な夢を見ていたのも、『悪役令嬢』による、何らかの『精神攻撃』だったかも知れないんだ。




 今更になって、『魔法令嬢』として、まず最初に危惧すべき事柄にようやく思い至った、わたくしの胸中を代弁するかのようにして、我ら『魔法令嬢、ちょい悪シスターズ』のリーダーたるヨウコちゃんが、最後にビシッと締めくくった。




「とにかく、現在のこのクラスの状況は、あまりにも異常すぎる。確かに夢の中での精神操作と言えば、『悪役令嬢』の十八番おはこであり、きゃつらの関与の可能性はけして否定できず、これよりは以前よりも増して、アグネス嬢の言動をその一挙手一投足に至るまで、注意深く見守るべきであろうよ」

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