第193話、わたくし、『世界の作者』になれても、あまりいいことは無いと思いますの。

 メイ=アカシャ=ドーマンは、アルテミス=ツクヨミ=セレルーナを裏切る。




 メイ=アカシャ=ドーマンは、アルテミス=ツクヨミ=セレルーナを裏切る。




 メイ=アカシャ=ドーマンは、アルテミス=ツクヨミ=セレルーナを裏切る。




 メイ=アカシャ=ドーマンは、アルテミス=ツクヨミ=セレルーナを裏切る。


 …………………………………………………………………………………ヤメロ。


 メイ=アカシャ=ドーマンは、アルテミス=ツクヨミ=セレルーナを裏切る。


 …………………………………………………………………………ヤメロヤメロ。


 メイ=アカシャ=ドーマンは、アルテミス=ツクヨミ=セレルーナを裏切る。


 …………………………………………………………………ヤメロヤメロヤメロ。


 メイ=アカシャ=ドーマンは、アルテミス=ツクヨミ=セレルーナを裏切る。


 …………………………………………………………ヤメロヤメロヤメロヤメロ。


 メイ=アカシャ=ドーマンは、アルテミス=ツクヨミ=セレルーナを裏切る。


 …………………………………………………ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ。


 メイ=アカシャ=ドーマンは、アルテミス=ツクヨミ=セレルーナを裏切る。


 …………………………………………ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ。


 メイ=アカシャ=ドーマンは、アルテミス=ツクヨミ=セレルーナを裏切る。


 …………………………………ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ。


 メイ=アカシャ=ドーマンは、アルテミス=ツクヨミ=セレルーナを裏切る。


 …………………………ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ。


 メイ=アカシャ=ドーマンは、アルテミス=ツクヨミ=セレルーナを裏切る。


 …………………ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ。


 メイ=アカシャ=ドーマンは、アルテミス=ツクヨミ=セレルーナを裏切る。


 …………ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ。


 メイ=アカシャ=ドーマンは、アルテミス=ツクヨミ=セレルーナを裏切る。


 …ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ。




 メイ=アカシャ=ドーマンは、アルテミス=ツクヨミ=セレルーナを裏切る。




 ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ。




 メイ=アカシャ=ドーマンは、




「──もう、やめろおおおおおおおおお!!!」




 自分の叫び声で目覚めてみれば、着ている衣服が、下着どころか、パジャマに至るまですべて、あたかも海で溺れたかのように、汗びっしょりにとなっていた。




「……チッ、巫女姫でもあるまいし、『夢告げ』かよ? ──いや、これはもう、『精神攻撃』の領域よね」




 すでに白み始めた、窓の外の空を見上げながら、大きくため息をつくや、バスルームで汗を流し落とすために、ベッドから降り立つ。


「……とにかく、このまま放っておくわけには、いかないわね」




 ──何せ『強力なる正夢体質』である『語り部』が見た夢は、たとえ本人にとってどんなに不本意なものであろうとも、高い確率で現実化してしまうのだ。




「……取り急ぎ、『あいつ』に、知らせておくか」




 そのようにつぶやきつつ、私は愛用のワインレッドの量子魔導クォンタムマジックスマートフォンを、手に取った。




   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑




『……何やっているのよ、あなたたち? もう、呆れて物が言えないわ。住んでいる世界は違えど、あなたたちってとどのつまりは、「同一人物」なんでしょうが?』


 スマホの画面内に姿を現している、禍々しくも可憐なる漆黒のゴスロリドレスを十三、四歳ほどの華奢な肢体にまとった、闇夜を思わす黒髪黒目ながらも、どことなくエキゾチックな妖艶なる小顔をした少女──の皮を被った、希代のトリックスター『なろうの女神』の、心底あきれ果てたかのような物言いに、私はついムキになって言い返した。




「そういう言い方はやめてって、何度も言っているでしょう? それでなくても、最近では自分の意思が、どこまでが本物で、どこからが『彼』──『ゲンダイニッポン』のうえゆうによる精神操作だか、わからなくなってきているというのに⁉」




『あちゃー、これは想像以上に、重症ねえ。だったらあなたも、やり返せばいいじゃないの?』


「だから今やそれすらも、『彼の誘導によるもの』に思えて、仕方なくなってしまっているのよ!」


『あー、これぞ『語り部同士の相互依存状態』の、弊害ってやつ? 何と言ってもお互いに、「作者」であると同時に、相手の自作の小説の「登場人物」でもあるという、完全にねじれた関係にあるからねえ……』


「……まあ、それこそが『語り部』──つまりは『世界の作者』としての、世界そのものを意のままにできる、強大なる異能の力の代償と言われれば、それまでなんだけど、こうも何度も何度も夢の中で『精神攻撃』を受け続けると、いい加減耐えきれなくなるわけなのよ」


『とはいえ、「正夢体質ゆえに、あくまでも精神的にとはいえ、世界を強制的に改変できる語り部」同士なんだから、祐記としては、自分自身の世界のほうを、何とかして意のままにしたい場合には、当然あなたの夢を操作せざるを得ないでしょうけどね』




「量子論や集合的無意識論、そして何より『ギャルゲ論』に則れば、たとえ『世界の作者』としての力を持っていようが、真の意味で世界を改変することはできないはずだけど、現在の私たちみたいに、『お互いに、作者であり、登場人物でもある』関係にあれば、例えば上無祐記のほうは、ゲンダイニッポンにおけるWeb作家である彼自身の、『こちらの世界を描いた作品そのもの』を書き換えるのではなく、その作品の中の『私』こと、メイ=アカシャ=ドーマンの『夢の内容』を、自分の望み通りに描写することによって、私の語り部としての『強力無比なる正夢効果』を発揮させて、『現実』においてもほぼ望み通りに推移させることができるという、ある意味『裏技』的コントロールの仕方があるのよねえ」




『ほんと、語り部が正夢体質だからこそ、「世界の作者」であり得ることの特質を巧みに利用した、裏技中の裏技よねえ。──つまり、あなたもこの裏技を使えば、祐記をいくらでも精神操作できるんだから、思う存分仕返しをすればいいじゃない?』


「だから、そんなことをしたら、文字通り『泥仕合』になってしまって、キリがないでしょうが⁉ 今回の件だってそもそもが、『彼』の早とちりから始まっているんだし!」


『え、そうなの?』


「何でもアルテミスお嬢様が、量子魔導クォンタムマジックスマートフォンを使って、あちらの世界の自分自身の『多世界同位体』であられる、明石あかしつきよみ嬢に電話して、自分と詠嬢の秘められた関係を暴露して、私や『彼』のもくろみを白日の下にさらそうとしたらしいんだけど、うちの世界のアルお嬢様は、いまだ私たちの策謀については、何一つ気づかれていないのよ⁉」


『あら、そうだったっけ?』


「つまり、『彼』の世界に電話したのは、『別の可能性の世界のアルお嬢様』だったわけで、私はとんだとばっちりってことなのよ!」


『あ、そうか、それこそこれまで何度も述べてきたけれど、二つの世界間においては、お互いにいかなる時点にでもアクセスできるんだから、現時点よりも未来に位置するアルテミスが、ゲンダイニッポンの詠嬢に電話することだってあり得るんだ』


「……それで、アルお嬢様がそんなやけっぱちな行動に走られたのも、実は今回の『彼』の夢の中での精神操作によって、私が本当にお嬢様を裏切ってしまったからなんて理由だったら、目も当てられないわよ」


『ほんと大変ねえ、語り部と言うだけで、自分がまだ行っていない、未来の出来事についても、こうして糾弾されかねないなんてね』


「全然割が合わなくて、嫌になっちゃうわよ。『世界の作者』とか言ったところで、相手の世界を描いた自作の小説に、複雑な仕掛けを施して、あくまでも間接的に自分の願望のほんの一部を、どうにかこうにか実現しているだけなのにさ」


『だったら、夢の中の精神操作なんて真に受けないで、放置しておけばいいじゃないの?』


「そんな単純な話じゃないから、わざわざあなたを呼び出して相談しているんじゃないの⁉ 語り部の『正夢効果』が発動したら、夢の内容に何らかの関わり合いがある人物においては漏れなく、集合的無意識に強制的にアクセスさせられて、語り部が夢で見たのと同じ『記憶と知識』を与えられることによって、ほぼ夢の中と同様の言動を行うことになるんですからね⁉」


『それだって、あくまでも「精神的」効果に限定されているんだから、別に大したことにはならないんじゃない?』


「ところがどっこい、知能の低いいまだ年若いドラゴンなんかに、夢の中で人間に対する憎悪の心を増大させるとともに、具体的に実在の街を炎のブレスで丸焼きにするように行動させておいたら、目覚めた後も夢の記憶に完全に支配されて、実際にその街を焼き払うことだって、十分あり得るでしょうが⁉」


『──おおっ、それってもはや、けしてできなかったはずの、「物理的世界の改変」そのものじゃないの⁉ さすがは「世界の作者」、やり方次第では、世界のことわりすらもねじ伏せることができるのね!』


「何、感心しているのよ? 本当にそんなことになったら、目も当てられないじゃないの⁉ あんたも一応女神様なんだから、ちゃんと事前に善処しておきなさいよ!」


『へ? どうやって』




「私自身も含めて、今回私が見た夢に何らかの関わりを持つ人たちの、集合的無意識とのアクセス状態を、キャンセルしてもらいたいの。そうすれば全員共が、『夢の記憶の束縛』から解放されるからね。『夢の主体の代行者エージェント』であるあなたなら、お茶の子さいさいでしょう?」




『……はあ〜、相変わらず、人使いの荒いことで。まあ、いいでしょう。すべての世界の安寧も、あらゆる「女神という概念」の集合体である、私の使命だしね。──でも、「語り部同士の共食い」も、いい加減にしておいてちょうだいよ? あなたたちはちゃんと自覚していないようだけど、「語り部」のさじ加減一つで、世界の一つくらい丸々消滅しかねないんだから、何事にも常に慎重に対応してもらいたいものだわね』

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