第192話、【GW特別編】わたくし、悪役令嬢ワリーさん、今異世界にいるの。(その11)

「そうだ、ふみよ! どうして私、自分の双子の姉のことを、今までずっと忘れ果てていたの⁉ ねえ、教えて、ゆう! 私は録の死に、どういう風に関わっていたわけ⁉」




「──いけません、それ以上、思い出しては」




 ……え?


「ど、どういうこと、思い出すなって? やはり私から『録の記憶』を奪ったのは、あなただったの?」




「いいえ、『録お嬢様の記憶』を、のは、よみお嬢様、あなた自身だったのです」




 ……何……です……って……。


「な、何で、私が自ら、録の記憶を、封印したりしたわけ⁉」


「それだけ当時の詠お嬢様は、苦しみ続けておられたのですよ。──もはや自分の正気を、保てないほどにね。だから心の奥底に、すべてを封印なされたのです。生涯でただ一度だけ、巫女姫の力を使うことによってね」


「……じゃあ、もしも無理やり、封印した記憶を、甦らせようとしたら」


「今度こそ、心が完全に、壊れてしまうでしょうね」


 ──!




「……本当に、今回は、危ないところでした。結局あの『アルテミス』が、何者かはわかりませんが、詠お嬢様の心の急所を的確に突いてきたことを考えれば、まったくの無関係の人物ということは無いでしょう。やはりこの世界と何らかの関連性のある、異世界の住人であることには間違いなく、お嬢様の封印された『記憶』をこじ開けることで、自らの世界に何らかの変化を及ぼさせることこそが、狙いだったかと思われます」




   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑




『……まったく、この「大嘘つき」さんめが、何を自分のあるじである「よみお嬢様」に対して、大ぼらぶっこいているのよ?』




 お嬢様に暇乞いの挨拶をして本家の屋敷を辞した後で、市街地へと続く海沿いのローカル列車に揺られていたら、早速僕のスマホへと、『真のすべての黒幕』である、『なろうの女神』からの音声通話の着信があった。




「──大嘘つきとは、心外な。さっきの会話において、僕は何一つ、虚偽の発言はしていないけど?」


『いけしゃあしゃあとまあ、「絶対に伝えなければならない『真実』を、わざと黙っておくこと」も、広い意味では虚言に当たるのよ?』


「へえ、何だいその、『真実』って?」




『もちろん、通常なら、自作の小説そっくりそのままの世界であろうとも、何の影響も与えることができないけれど、「異世界において、『作者』の力を持つ主人公が、この現実世界をそっくりそのまま小説として描いており、しかもその小説の中に存在している「うえ祐記」という名の主人公にも、「作者」としての力があることとにする」といった内容の小説を、この現実世界においてあなたが作成すれば、あなた自身と、あなたの自作の「わたくし、悪役令嬢ですの!」という作品の中に描かれた異世界に存在する、あなたの分身的存在である「メイ=アカシャ=ドーマン」との両方共が、「世界の作者」としての力を持つことになり、自らの世界においては「内なる神インナー・ライター」として、お互いの世界に対しては「外なる神アウター・ライター」として、振る舞っていけるということよ♫』




「……へえ、そいつはすごいねえ、その『上無祐記』や『メイ=アカシャ=ドーマン』とかいった人物は、自分の世界においてはもとより、お互いの世界にとっても、まさに『神様』そのままな存在なんだろうなあ…………ところで、『世界の作者』の手による小説と、実際の異世界との間には、『一対一』の関係に無いことや、世界というものはけして改変されることはなく、別の世界と入れ替わるだけ──と言った、さっきの話とは矛盾しているようだけど?」




『そんなことはないわ。この現実世界に干渉する「外なる神アウター・ライターとしてのメイ」と、あなたが「作者」として干渉する異世界に「内なる神インナー・ライターとして存在するメイ」とが、まったく別の存在であり、こうして無数の世界の中に存在している無数のあなたとメイとが、順繰りに一方通行的に多重的に、「外なる神アウター・ライターとしての力」を及ぼしていくといった流れであれば、さっきのあなたのご高説と、まったく矛盾することは無くなるでしょう?』


 ……なるほど、さすがはWeb小説における、すべての『女神という概念』の集合体である、『なろうの女神』、弁が立つことで。


 確かに、常に『新たなる世界』とそこに存在している『新たなる相手』に影響を与え続けているとなると、一つの世界に対してしつこくずっと改変を加えているわけでは無くなるので、先ほどの話とは何の齟齬も生じないわけだ。


『つまりあなたとメイとは、現実の存在でありながら同時に、相手の立場からすれば、単なる「小説の登場人物」にもなってしまうわけなのよ。──ただし、「創作物フィクションのキャラクター」でもあり得るからこそ、自作の小説を巧みに記述することによって、別世界側の「作者」をうまく誘導することで、間接的に自分自身や自分の世界そのものにも、「世界の作者」としての力を行使することさえもできるのよねえ』


「……とはいえ、僕はもちろん、メイ嬢にしたって、単なる『小説の登場人物』というわけではなく、自分自身の認識では、あくまでも『現実の存在』なのであって、何から何まで思い通りに操られるわけではないんだけどね」


『例えば、今回アルテミス嬢が、いきなり現実世界に、電話なんかをかけてきたこととか?」


「──ああ、メイのやつ、一体何を考えてやがるんだ? 詠お嬢様をごまかすのに、大変だったじゃないか!」




「──それは当然、今あなたが言った通りよ。あの子もあの子の世界においては、れっきとした「現実の存在」なんだから、何から何まであなたのシナリオ通りに動いてくれるとは限らず、今回のような予想外な行動をとることだってあり得るわよ。まああなたもこれに懲りて、いくら作者とはいえ、自作の異世界の人たちのことを、単なる「操り人形ノンプレイヤーキャラクター」と見なしたりせずに、もっと真摯な対応を心掛けることね♡』

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