第191話、【GW特別編】わたくし、悪役令嬢ワリーさん、今異世界にいるの。(その10)

「そ、そうか、確かにあなたは以前、『一瞬のみの時点』に過ぎない『真の世界』というものは、ひらがな五十音で言えば、『あ』とか『い』とかの一文字でしかなく、それに対して私たちが普通認識している『一般的な世界』のほうは、小説のプロットや料理のレシピのような『一定の法則』に則して結びつけられた、『真の世界の』みたいなものだったんだっけ。──よって逆に言えば、まさにこの『一般的な世界』を体現しているのが、小説等の創作物というわけかあ……」


「惜しい、大体合ってますが、ちょっとばかり違いますよ?」


「へ? 何が」


「小説は『一般的な世界』ではなく、『真の世界の』である『一般的な世界』の、そのまたなのです♡」


「なっ⁉」




「何かアルテミス嬢のお説では、『世界の作者』が自作の小説を書き換えると、それに対応する世界が改変されるとか言っているらしいけど、この『真の世界とは、ひらがな一文字に過ぎない』論に則れば、作者が自作の小説を書き換えたら、『一般的な世界』においては、その構成パーツである無数の『真の世界』を結びつける『プロット』が変わるだけで、『真の世界であるひらがな一文字』はもちろん、けして『ひらがなの集合体である一般的な世界』そのものを書き換えるわけではなく、言わば自作の対象を、『集合体としての一般的な世界』に、入れ替えるようなものでしかないのですよ」




「えっ、作者による『世界の書き換え』って、『改変』ではなく、別の世界に入れ替えることだったの⁉」


「これぞまさに、『世界というものは初めから全部揃っており、そして最後までずっとすべて揃っているので、途中で改変したり消去したり新造したりはできない』そのものなのです。──だって、『真の世界』は『ひらがな一文字』のようなものであり、『一般的な世界』のほうも、そんな『ひらがな一文字』の何種類かをある一定の法則で結びつけているだけで、けしてその世界そのものを改変する必要はなく、一部の『ひらがな』を入れ替えることによって、明確なる『別の世界』にしてしまえばいいんですよ」


「あー、そういえばそうだったわよねえ。世界を創造するとか改変するとか言っても、世界そのもの──究極的には『ひらがな』に変更を加えるわけではなくて、複数のひらがなを結びつけて文章──時間の流れストーリーのある『一般の世界』を新たに創造したり、見かけ上改変を加えるには、小説におけるプロットや料理におけるレシピのような『結合ルール』を変えたりするだけでよかったんだっけ」


「ここまで言えば、たとえ僕がアルテミス嬢の言う『外なる神アウター・ライター』的立場にあろうとも、自分自身ではただ単に自作の小説を創作したり書き換えているだけで、それにそっくりそのままの異世界を創出する可能性が生じたり、一見改変されたようにして別の世界に入れ替わったりしようとも、そこには僕の意思なぞ微塵も介在していないことが、ご理解いただけたことかと思いますけど?」


「……ええ、まあ」


「ついでに申しておきますけど、僕は『世界の作者』なんて大それた存在であるかどうかと言う意味合いにおいては、『外なる神アウター・ライター』どころか『内なる神インナー・ライター』でもありませんからね」


「えっ、そうなの⁉」


「この『内なる神インナー・ライター』についても、アルテミス嬢の言葉には、『詭弁』や『放言』としか思えないものがありまして、もし仮に僕が本当に、己の夢の中に出て来た人物全員を強制的に集合的無意識にアクセスさせて、僕が夢で見た通りに行動させることのできる、『強力無比な正夢体質』だったとしても、そもそも『夢が現実となる』には、本人の意思なぞ介在せず、文字通り『偶然のいたずら』によって進行する、ゲームで言うなら『パッシブスキル』のようなものに過ぎず、よって別にその過程においては『小説を書く』というアクションなぞ必要とせず、『正夢体質』と『作者としての力』には、実は何の関係も無かったりするのですよ」


「ああーっ、まったくおっしゃる通りではないの⁉ 私ったらどうして、『外なる神アウター・ライター』に引き続いて、『正夢体質』までも、『世界の作者』としての力の一部と思い込んでいたんだろう?」


「それだけアルテミス嬢が言葉巧みに、お嬢様に『世界の作者』などといった、とても現実にいるとは思えない眉唾物の存在を、あたかも僕自身であるかのように思い込ませて、自分の都合のいいようにあなたを誘導するために、僕をそのための最大の障害となる、『諸悪の根源』であるかのように位置づけたってわけなんですよ」


「……つまり私は、『異世界の自分自身』とか名乗る、正体不明の人物に、騙されていたってこと?」


「それが証拠に、現時点においては、その『アルテミス』嬢からの、いわゆる『異世界通信』は、途絶えてしまっているんじゃないですか?」


「──っ。ど、どうして、そのことを⁉」


「そりゃあ、そろそろ頃合いかと思ったからですよ。実際お嬢様だって、こうして僕に『事実確認』をしたくらいですしね。『真の黒幕』としては、まさしく『潮時』でしょう。──彼女の目的も、すでに果たされていることですしね」


「……アルテミスの、目的?」




「あなたに、『ふみお嬢様』のことを思い出させる、『切っ掛け』を与えることですよ」




 ──‼

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