第179話、わたくし、まさか自分が『おねロリ』の『おね』のほうになるとは、思いませんでしたの。
「──もうっ、いい加減にしてください!」
もはや我慢の限界に達した私は、ベタベタとまとわりついてくる、そのクラスメイトの少女を腕を振り払った。
「……あ、ごめんなさい、アグネスちゃん。うっとうしかった?」
するといかにも申し訳なそうに、こちらをおどおどしながら見つめてくる、
その、自分よりも三歳も年下の相手に対して、いかにも媚びるような態度が更に癪に障り、珍しくも声を荒げてしまう。
「だから、気安く人のこと、アグネス『ちゃん』なんて、勝手に呼ばないでくださいって、言っているでしょう?」
「ああっ、ごめん! もしかして、『アグネス=チャン』で、一つの名前だったの? だったら
「何その、『昭和のお約束』ネタ⁉ 私はあくまでも、昨日今日出会ったばかりの相手を、馴れ馴れしく『ちゃん』付けで呼ぶなって言っているんですよ⁉」
「そ、そうだよね、七歳の幼女がいきなり国会とかで、『幼女問題』を熱く語り始めたりしたら、それはそれで怖いよね」
「──おい、そのネタ、いい加減にやめろ!」
私が転入してからようやく二日目の、聖レーン転生教団直属の『魔法令嬢』育成学園の、お昼休み中の初等部5年D組の教室にて。
他人との関わり合いを極力排すことを旨とする私としては、一人優雅に食事や休憩を楽しむはずが、なぜかおかしなことになっていた。
──そう、ほんの数日前に会ったばかりの年上の同級生が、あたかも数年来の親友や、実の姉や親戚のお姉さんであるかのように、何かにつけてうざったく世話を焼いてきたのである。
「……せっかくあのように、いかにも意味深に『謎の魔法令嬢』として登場したというのに、あなたには警戒心というものが無いのですか?」
「うん、すごかったよね、アグネスちゃん、あんなに手強かった『ゴブリンの悪役令嬢』を、赤子の手をひねるようにして、やっつけてしまうなんて!」
「──もうっ! そういうことを言っているのではありません! あなたたち『魔法令嬢、ちょい悪シスターズ』によって占有されていたはずの、夢の世界の中のバトルフィールドに、どうしてまったくの部外者である私が突然現れたのかとか、確かに皆さんのピンチを救って差し上げたけど、何の断りもなく『
肩で「ゼイゼイ」と荒く息をしながら、一気にまくし立てれば、さすがの天然銀髪魔法令嬢も、目を丸くして言葉を失った………………………………りは、しなかった。
「すごい、すごいよ、アグネスちゃん! 良くそんな長文を、一息で言えたね⁉」
「──やかましいわ、このボケ娘が⁉」
ついにキャラ崩壊してしまう、一応設定上は、『クールビューティ美幼女』だったはずの私。
そのようにもはや我慢の臨界点を超えて、憤りを隠せないでいると、唐突に後方より鳴り響いてくる、別の少女たちの笑声。
「──あはは、アルやんの猛アタックに、さしもの『謎の転校生』も、たじたじやな」
「……しかしそれにしても、アルテミスがこんなにも『世話焼き』だったとは、意外だな」
「ほら、アルちゃんて私たちと同い年なのに、どうしても『末っ子感』がにじみ出て、これまでは一方的に『可愛がられる』立場だったところに、文字通りの『妹分』ができて、はしゃいでいるんじゃないの?」
「……う〜ん、どうしてでしょう、あくまでも普通の
──っ。
つまりこの人、私のことを、『子供扱い』しているってわけ⁉
「もう、やめてくださいってば! 私はあなたの、『妹』でも何でも無いのですから!」
「うんうん、わかっているよ、『飛び級生』としては、同級生から『子供扱い』されるのが、何よりもコンプレックスなんだよね!」
だから、違うって、言っているでしょうが!
「……何を知った風なことを、少なくとも
「えっ、何か言った?」
「……いえ、別に、何でもありません」
「もうっ、何か困ったことや疑問に思うことがあったら、遠慮なく、この『お姉さん』に相談してね!」
「ちょっ、だから何ですぐに、抱きついてくるんですか⁉ それに誰が誰の、『お姉さん』だと言うのです!」
「うおっ、美幼女同士の熱烈なる『
「……
「とはいえ、銀髪金目の天使みたいなアルちゃんが、
「──これは
ちょっと、そこの外野ども! 好き放題言うんじゃないわよ!
このように『
☀ ◑ ☀ ◑ ☀ ◑
「──ここで突然ではありますが、今回から『新コーナー』を始めたいかと思います!」
「ど、どうした、アルテミス、いきなり? これまでのストーリーの流れを完全に無視して、わけのわからないことを言い出したりして」
「おや、これはルイ王子、大変お久し振りでございます。──いえね、この土日は本作の作者にとって、唯一の『第7回ネット小説大賞』一次選考通過作である、『ケンブリッジ大学史学部シリーズ』の強化イベントとして、マラソン連続投稿を行っていた煽りを食って、本作を二、三回ほど休んでしまったゆえに、そのお詫びとして、今回に限り、このような『新たなる番外コーナー』を設けたといった次第ですの」
「……ああ、まあな。久し振りの更新がたった二千字足らずで終わったんじゃ、読者の皆様も納得してくれないだろうしな。──それで、『新コーナー』と言っても、一体何をやるつもりなんだ?」
「──ええ、ここいらで一度『初心に返る』意味合いも含めまして、最近の『悪役令嬢』系の作品の傾向を再調査して、学ぶべき点があれば、積極的に本作に取り入れて行こうかと思いますの!」
「……………………」
「あ、あれ、ルイ王子? 何もコメントは無いのですか?」
「つまり作者のやつが、何か『悪役令嬢』系の新作を読んで、影響をモロに受けた──というわけだな?」
「──ギクッ!」
「……まったくもう、自分も一応はWeb作家のくせに、単純なやつめ。──それで、どんな作品から、影響を受けたんだ?」
「そ、それがですねえ、メインヒロインのさる御令嬢と、最大の攻略対象の第一王子様の二人を、主にフィーチャーした作品でして」
「ふむふむ」
「何と驚いたことに、その第一王子様ったら、いつでもどこでものべつ幕無しに、御令嬢を見つけ次第、本人の意思を無視して抱きしめてくるんですよ」
「…………うん?」
「とにかくそのシーンて、すごくインパクトがあって、作者がすっかり感化されてしまって、早速本作にも取り入れようと思ったわけなのです。──ということで、さあ、どうぞ、
「──いやいやいや、ちょっと待って!
「え? 『犯罪者』、とは?」
「確かにおまえは『悪役令嬢』だけど、いまだ10歳の
「あら、
「え、そうなの?」
「……まあ、王子様のほうも、幼児ですけど」
「それだったら、別に構わない…………って、どうなんだろうね? いくら幼児同士でも、相手の了承を得ないで抱きついたりしたら、セクハラか、パワハラでは?」
「そこは
「……この御時世に、無茶しやがるぜ。まあ、いい、あくまでも他人様の作品だ。これ以上は、コメントを控えさせていただこう」
「それもそうですわね。──ちなみにこの場においては、
「……とか何とか言いながら、その右手に握っているのは、一体何なんだ?」
「え? ご覧の通り、『防犯ベル』ですけど?」
「──通報する気、満々じゃねえか⁉ 誰が抱きついたりするか!」
「……やれやれ、とんだチキン野郎のせいで、せっかくの企画がぽしゃってしまいましたが、また機会がありましたら同様のコーナーを設けようかと思いますので、何か面白い『悪役令嬢』や『乙女ゲーム転生』モノの新作等がございましたら、ご遠慮なくどしどしお知らせください」
「おいおい、こんないろんな意味で危険なコーナーを、性懲りもなく続ける気かよ⁉」
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