第145話、わたくし、名探偵はむしろ、『専守防衛』に徹するべきかと思いますの。
「……ええと、お話のほうは、一応理解いたしましたけど、先ほどチラリと言及なされた『選択肢』とは、具体的にはどのようなものなのでしょうか?
なぜか
……って、一体何よ、これって。
『メイド少女』だの『魔王探偵幼女』だの、字面だけ見ると、いかにも馬鹿げた三流ラノベみたいになっているんですけど。
「……あー、それは、ある意味当然のことでしてねえ」
こちらがいろいろと胸中で思いを巡らせていると、メイド姿をした『解説役担当キャラ』さんが、一転していかにもばつの悪そうな顔となった。
「先ほど『選択肢』と申しましたが、それは話の流れ上ゲームになぞらえるために、あえて誇張して言っただけで、正確に言うと微妙に異なりますし、それにそもそも私たちのような『探偵役』には、原則的に必要の無い機能なのですよ。──まあ、『ゲンダイニッポン』の格言で言うように『百聞は一見にしかず』ってことで、まずはご自分の目で見てもらいましょう。そのスマホのカメラをうちのアルテミスお嬢様のほうに向けながら、画面の下方左隅にある、『選択肢』と表示されてあるボタンをタップしてみてください」
ここは一応素直に、言われた通りに、やってみると──
「な、何ですか、これって⁉」
現在私の手の内のマットブラックのスマホの液晶画面には、以下にように、『選択肢』と言うにはあまりに多くの項目が、やけに細々とした%数値とともに表示されていた。
具体的に言うと、『刺殺、33%』、『撲殺、20%』、『絞殺、15%』、『銃殺、12%』、『毒殺、10%』等々といったふうに、あたかもミステリィ小説等でお馴染みの、典型的な『殺害方法』に始まり、『自殺、5%』、『事故死、3%』、『過労死、1%』、『病死、1%』、『老衰、10%』等々といったふうな、『他殺』以外のものに至るまで、いかにも物騒極まりない文字列が、これでもかと言わんばかりに並べ立てられていたのだ。
「何って、ご覧の通り、各種の『死因』とその実現確率を、それぞれ事細かに%表示してあるわけですよ」
「死因って、ええっ? あなたの御主人様──『
「いえいえ、実はですねえ、あなたご自身にスマホを向けた場合にも、おそらく同じような感じになるかと思われますよ?」
「はあ? 私がですかあ? 私は一応魔王ですので、こういったミステリィ小説的な死に方ではなくて、もっとこう、勇者様に『押し倒される』とか、『食われる』といった感じで、昇天(意味深)してしまうのではないでしょうか?」
「……
「──なっ、ま、『ませガキ魔王』ですってえ⁉」
……いや、確かに、つい自分の願望が混ざってしまいましたが。
「ま、冗談はさておきまして、あなたのおっしゃるように、『まるでミステリィ小説の登場人物のような死因みたい』になるのも、実は至極当然なことでしかないのですよ。何せ現在の状況ってまさしく、ミステリィ小説そのままの『連続猟奇殺人事件』が、絶賛継続中なのですからね」
あ。
「しかもあなたやうちのお嬢様は、一応『探偵
……ああ、なるほど、確かにこれ以降、なにがしかの犯罪を犯そうと思っている方にとっては、『探偵キャラ』なんて、目の上のたんこぶ以外の何者でもありませんからね。
「まあ、お話のほうは、どうにか納得できましたけど、この死因のリストは具体的には一体どのようにして、ゲームにおける『選択肢』として活用して、事件の解決に役立てていけばいいのですか?」
「う〜ん、確かに最終的には、この『死因リスト』こそが、あなたやお嬢様が真に目標とすることに、大いに役立ってくれるわけなのですが、先ほどもチラリと申しましたが、実はこれって基本的には、我々『探偵サイド』の者たちのための機能では無いのですよ」
「へ? 『探偵サイド』ためでは無いとしたら、一体どなたのどのような目的のための機能なのです?」
あくまでも私は、至極当然な質問をしたつもりであった。
しかしその時メイドさんの、まるで真珠のごとき小ぶりで
「やだなあ、『探偵サイド』では無いとしたら、当然『犯人サイド』に決まっているではないですかあ。──そうなのです、この『死因リスト』こそは、次の『加害予定者』が、自分が殺害しようと心に決めている『被害予定者』を、どのような手段でもって犯行に及ぶかを考察する際に、犯行の成功率をできるだけ高めるために、参考にするわけなのですよ」
……何……です……って……。
「何せこの『死因リスト』こそは、常にその時点において、『どのような死因』が──つまりは、『どのような殺害方法』が、より『実現率』が──つまりは、『成功率』が高いか、細かい数値で表示してくれるのですからね、これから犯行に及ぼうとしている方にとっては、非常に参考になることでしょうよ」
「ちょ、ちょっと、お待ちください! どうして転生教団が、我々に今回の事件を解決するために与えたスマホに、むしろ犯人側に利する機能がついているのですか⁉ まさか教団は、実はこのまさしくあなたの言うところの、『現実世界をミステリィゲームに変えることのできる魔法のスマホ』を、私たち『探偵サイド』だけでなく、『加害予定者』をも含む事件関係者全員に与えていて、むしろこの事件の場そのものを本当に、あたかもミステリィゲームそのままにしてしまおうとでも、思っているのではありますまいな⁉」
「あはは、まさか、どこかの三流メタミステリィ小説でもあるまいしい。──実はですねえ、この『死因リスト』って使い方によっては、『犯人サイド』よりも、我々『探偵サイド』にとっての最大の目的の成就のためにこそ、大いに役立ってくれるのですよ」
「……『探偵サイド』にとっての最大の目的って、つまりは、今回の事件の『真相と真犯人』の究明に、役に立つってことですか? この『死因リスト』が?」
「そこが、あなたが勘違いされているところでして、今回の事件における、私たち『探偵サイド』の最大の目標って、別に『真相と真犯人の究明』なんかじゃ無いでしょうが?」
「はあ?」
ミステリィ小説的事件における『探偵
「……やれやれ、本当に忘れてしまったのですかあ? ちゃんと思い出してください、聖レーン転生教団が私たちに、その『属性表示スマホ』を貸し与えた際に依頼したのは、けして『事件の解決』なんかではなく、ウミガメ家の次期当主にして、教団にとっても将来の有力なる
…………あ。
「そういえば、そうでした! わ、私ったら、一体何を血迷って、何が何でも『真相と真犯人』を究明してやろうと、ムキになっていたのでしょう⁉」
「実は、あなたが度を超したミステリィマニアであられて、十中八九『名探偵』を気取って、事件の解決に乗り出されることは、教団の司教様から前もって伺っておりましたので、あなたの暴走を抑えることも、私たち主従に依頼されていた任務の一つでもあったわけなのですよ」
なっ、つまりは、私が自ら『名探偵』として出しゃばって、失敗して赤っ恥をかくことは、最初から織り込み済みだったというわけ⁉
……うぐぐ、これって間違いなく、教団の現教皇である、アグネスお姉様の差し金ねえ⁉
「そ、それで、具体的にはこの『死因リスト』を、オトネ嬢を守るために、どのように活用していくわけなの? 人を殺すために役立つ機能が、人を守るためにも役立つなんて、にわかには信じられないのですけど?」
私はこれ以上自らの、文字通り厚顔無恥なるスタンドプレイを追及される前に、さっさと本題を進めることにした。
そんな私の打算を知ってか知らずか、嬉々として解説を再開する、『蘊蓄大好き♡』メイド少女。
「例えばですねえ、今回の『次期当主後見人決定会議』の参加者のうちの、どなたかの『死因リスト』において、刺殺と絞殺と撲殺との三つに限って、おのおの25%以上という高確率を示していて、他の死因が軒並み2、3%程度の低確率しか無かったとしたら、どのように思われますか?」
「それはその方が、この実質的にはバトルフィールドと化している次期当主後見人決定会議において、近々刺殺か絞殺か撲殺かのいずれかの手段によって、殺される可能性が高いってことではありませんの?」
「それでは仮にその情報を、あなたからそれとなく当人に教えてあげたなら、果たしてどうなさるでしょうねえ?」
「まあ当然、自分の死が間近に迫っているかも知れないことを知らされて、最初はパニックになられるとは思いますけど、心を落ち着かせて冷静になってからは、常に注意を払って刺殺や絞殺や撲殺に遭わないように気をつけるようになられるのではないでしょうか? 何せそれらにさえ用心しておけば、他の死因で死ぬ可能性はほとんど無いのだから、下手に他人から殺されることは無くなり……………って。あっ、そういうことですか⁉」
「ええ。この死因リストを他者を殺すためではなく、むしろそのように他者から身を守るために使えば、ほぼ完璧な『
……そうか、この選択肢によって知り得た、オトネ嬢の死因の実現可能性に応じて、適切なる対応策を講じていけば、彼女のことをほぼ完璧に守ってやれるというわけですか。
「わかりました、以降は自分だけ『名探偵』になって大活躍してやろうなんて、身分不相応な野望は捨てて、私もオトネ嬢の身の安全の維持こそに、全力を尽くしていきたいかと存じます」
「それは願ってもないことでございます。──なあに、常に事件の中心におられるオトネ嬢を、最後まで守り抜いてこそ、自然と事件が解決されて、すべての真相も白日の下にさらされるというもの。その際には名探偵としての栄誉は、すべてあなた様のものとなさって結構ですので、どうぞ心置きなく、任務に励んでください」
「いえいえ、もはや『名探偵』がどうのとか、こだわるつもりはございませんので、是非力を合わせて、オトネ嬢の無事を守りましょう」
そのように笑顔で言い合って、固く握手を交わす、魔王幼女とメイド少女。
──だから、まったく気がつかなかったのである。
この場においては、最後の最後まで沈黙を守り続けていた、メイド少女の
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