第128話、わたくし、『アニマ』が夢の存在であるなら、ヤルことは一つだと思いますの♡
「……『エイちゃん』、ですか?」
「そうよ、『ホルテン』なんて呼ぶよりも、よほど可愛らしいでしょう?」
「はあ……」
知らぬ間に私こと、ホワンロン空軍最新鋭ジェット戦闘機隊大隊長の、アイカ=エロイーズ男爵令嬢をストーキングしていたらしい、愛機
それで、「この
「……それで、何で『エイ』なのです?」
「ほら、Ho229は全翼機だから、何となく『
「あー……」なるほど。
見えるわ──と言うよりも、そっくりだわ、カイトとかエイに。
「それに『エイちゃん』って、何だかご利益がありそうな名前じゃない? 元祖『成り上がり』というか、『ジャパニーズドリーム』というか、『ロケンロー!』というか、『60になっても70になっても現役バリバリで頑張れる』というか、『武道館コンサートを100回以上もやっている』というか、『イチ○ーさんと仲良し』というか」
「──おいっ、『あのお方』をネタにすると、熱狂的ファンの皆様の反応がヤバイから、その辺でやめとけ!」
それに確か、ベストセラーになった『成り○がり』も、角○文庫で出していたから、『カク○ム』様的にもヤバいからな。
「何よりあなただって、その子に『呼び名』がないと、いろいろと困るでしょ?」
「へ? そりゃあ、名前を知っていたほうが、何かと便利だと思うけど、何で
妙な言い回しに、思わず問い返せば、元帥のほうはいかにもあきれ果てたかのように、大きくため息をついた。
「何言っているのよ、あなたの愛機の『アニマ』なんだから、これからこの子のことは、あなたがお世話をしてあげなくてはならないのよ?」
何ですとー⁉
☀ ◑ ☀ ◑ ☀ ◑
──という次第で、
何やら大変なお役目を、いきなり拝命したわけだけど、
それはあくまでも、『限定的な話』に過ぎなかった。
何でも『アニマ』たちは本体であるそれぞれの戦闘機から、一定の距離以上離れることはできず、基本的にはこのホワンロン王国空軍基地の隊員宿舎(俗称『隊舎』)以外だと、実体化なし得ないとのことであり、しかも今回の騒ぎのすべてが、ミルク元帥の
よって私のように学業を優先することを許されている将校に関しては、当直任務のために隊舎に寝泊まりする際にのみ、お世話をしてあげればいいとのことであった。
「……まあ、外見は幼い女の子を姿をしているからといって、その本質は『戦闘機』なんだ、物も食べなければ睡眠も必要ないって話だし、別にそんなに手をかけることもなく、ただ側に置いていればそれでいいんだろう」
そんなことを独り言ちながら私は、その日もいつものごとく、さっさと一人眠りについた。
一つ部屋の中で、どんなに『恐ろしいモノ』と同居しているのか、自覚も無しに。
そう、それから真夜中過ぎなって初めて、王国屈指の魔導力の持ち主として、類い稀なる『第六感』が働くまで、私は我が身に迫る『危機』に、まったく気づけずにいたのだ。
最初は、ほんのちょっとした、違和感を覚えただけであった。
何か、くすぐったいと言うか、生ぬるいと言うか……。
「──ちょ、ちょっと、あんた、何をしているのよ⁉」
ついに堪りかねて、目を覚ませば、びっくり仰天。
何とあの幼い少女の姿をした『アニマ』が、眠っている間に私を完全に裸に剥いて、その小さなピンク色の舌を、身体中に這わせていたのである。
「ああっ、今度は、そんなところを⁉ や、やめ──」
私の『敏感な部分』を、執拗に責め立ててくる、生ぬるく湿った舌先。
その絶妙な舌さばきは、とても見かけ上五歳にも満たない幼子ができる、
もはや全身に力が入らず、止め立てすることも叱りつけることもなし得ないままに、完全に身を任せていれば、こちらを勝ち誇っているかのように見下ろしている、二つの
昼間は感情をまったく窺わせず、冷え切った闇色に染まっていた瞳が、今では愉悦の笑みすらたたえて、人にあらざる縦虹彩の
──そしてそれは間違いなく、『捕食者』の目をしていたのだ。
「『ホルテン』⁉ 駄目よ! やめなさい!」
ようやく、まともに言葉を発することができたものの、すでに完全に全身から力が抜け落ちていて、自分の身体の上に覆い被さっている、ほんの四、五歳ほどの矮躯を、払いのける気力すら残っていなかった。
まさしく、すべては、夢の中での、出来事であるかのように。
「……ちょっと、待って、夢、ですって?」
考えてみれば、『アニマ』とは、
「……もしかして、この子自身も
そんなことになったら堪ったものではないと、なけなしの力をかき集めて、渾身の体当たりを食らわせるや、あたかも文字通りに夢幻のように、幼女の身体が忽然と消え去ってしまい、ターゲットを失った私の身体はそのまま、ベッドの上から転げ落ちてしまう。
「くっ、卑怯だぞ、『ホルテン』! …………って、あれえ?」
気がつけば私は、王宮内の広大なる客間の中で、紛う方なく一人っきりとなっていた。
「……まさか、『ホルテン』がここにいたことさえも、夢だったりとか?」
あまりの静寂さに、ついポロリと楽観的な言葉を、述べてしまうものの、
それが単なる現実逃避の、『希望的観測』でしかないのは、私自身も重々承知していた。
──なぜなら、現在の私は、まるで先程見た夢の中の出来事にそのままに、身体中のエネルギーを吸い取られてしまったかのように、ベッドから起き上がる力すら、まったく残ってはいなかったのだから。
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