第103話、わたくし、ちょい悪令嬢ですの! その1、大魔導士の闇。
「──先生、質問があります」
「うん、何かね? アルテミス君」
「先生は『大魔導士』であらせられますけど、普通の『魔導士』の方とは、どう違うのでしょうか?」
「ほっほっほっ、もちろんわしのような大魔導士のほうが、そこいらの魔導士なんかよりも、比べ物にならないほどすごい、『大魔法』を使えるわけなのじゃよ」
「え、でも、普通の魔導士の方でも、一発で国同士の戦争の勝敗を左右しかねない、『戦略級』の大魔法を使える場合もあるではありませんか?」
「──ぐっ、た、確かに、そういった才能ばかりが突出した若造もいない
こともないが、『大魔導士』と呼ばれるまでの風格と重みを獲得するには、何よりも年齢と経験が必要なのじゃ!」
「……え、才能よりも、年令や経験のほうが重要だと、おっしゃるのですか?」
「そ、そうじゃ!」
「…………」
「な、何じゃ、何か疑念でも、あると言うのか⁉」
「あ、いえ、先生のお歳からしたら、年齢が重要であるのは、納得できますけど……」
「そうじゃろう、そうじゃろう、魔法といえども、人生経験こそが、何よりも肝要なのじゃからな」
「──と申しますか、むしろ先生の場合、歳を重ねておられながらも、経験のほうがまったくお有りでは無いので、大魔導士になられることができたのでは?」
「………………は? ──な、何を、馬鹿なことを⁉ わしよりも数多の経験を重ねてきた魔導士なぞ、この王国にはおらぬわ!」
「う〜ん、でも先生は、そのお歳になられるまで、一度もご結婚をなされていないのでしょう?」
「結婚? ああ、まあそうじゃな。特別な大魔法を使うには、何よりも心身が清らかでなくてはならぬからな」
「ふむふむ、と言うことは、結婚どころか、男女交際自体を、なされたことが無いと?」
「──うっ。……も、もちろんじゃ! わしは、王国一の、大魔導士じゃからな!」
「確か先生は、すでに還暦を迎えておられましたよね?」
「う、うむ、去年60の誕生日だったが、それが何か?」
「──わかりました」
「は?」
「実は『ゲンダイニッポン』には、面白い『都市伝説』がございまして」
「ほう?」
「それによると、別に魔法の才能が無くても、女性経験の無いまま30歳を超えると、誰でも『魔法使い』になれるそうなんですよ」
「──っ」
「そこで一つの仮説が成り立つのですが、この剣と魔法のファンタジー世界においても、30歳を超えても童貞であった方がまず、普通の『魔導士』になられて、そして更に、先生みたいに60歳を超えてもなお童貞であられるような非常に希少な方のみが、『大魔導士』になられるのではないでしょうか?」
「いやいやいやいや、何そのトンデモ理論は? そんなことで、魔導士や大魔導士になれるはずはないだろうが⁉」
「でも、現在の『魔導士』と『大魔導士』との差異がはっきりしない状況においては、先生ご自身の『そっちの方面』の経験値(の無さ)を鑑みるに、非常に妥当なる考察と思われるのですが?」
「妥当なわけあるか! わしが大魔導士であることと、『彼女いない歴=年齢』であることとは、何の関係も無いわ! …………………………な、無いよね? わしはあくまでも、才能と努力とで、大魔導士になったんだよね? 60まで童貞だったから、『名誉童貞』みたいな感じで、大魔導士になれたんじゃないよね?」
「先生」
「な、何じゃ、まだ、何かあるのか⁉」
「童貞であられること自体は、否定なさらないのですね(クスッ)」
「──うわああああああああああああああああああああんっ!!!」
「あっ、先生、まだ授業中ですよ、どこに行かれるのですか?」
「……おい、せめて、そっとしてやれよ」
「あら、ルイ王子、そんな同情心たっぷりな悲痛な表情をなされて、どうしたのです?」
「同情もするよ! このクラスの男子生徒全員が、同じ思いだよ! 何でおまえはすでに老境にさしかかった人生の大先輩に対して、男性としての尊厳を傷つけるようなことが平気でできるんだよ⁉ しかも、『女性経験』とか『童貞』とか、平気で口に出して! 本当におまえは、いまだ
「年齢とか、家柄とかは、関係ありませんわ」
「……何だと?」
「
「何かむちゃくちゃカッコいいこと言っているけど、実際にやっているのは、単なる老年教師に対するセクハラだろうが⁉ せめて使う言葉くらい選べよ!」
「……やけに、そこにこだわりますわねえ。ひょっとして、
「──俺の
「申し訳ございません、
「いや、先生の心を折っちゃ、駄目だからな⁉ それに何だよ、『ちょい悪令嬢』って?」
「『悪』とは本来、己が『正しい』と思ったものが、たとえ大多数にとっての『正義』に反するものであろうとも、けして自分の意見を曲げず、むしろ他者を力でねじ伏せてでも、己の『正義』を貫いていく、真に『強き者』のことなのです! ──つまり、『悪役令嬢』とは、『悪の力で正義を為すことのできる、真の求道者』なのであり、その雛形である『ちょい悪令嬢』は、残念ながら未熟ゆえに力足らず、『悪の力で悪を為すことしかできない』ままなのでございます」
「駄目じゃん!」
「まあまあ、先程の話ではございませんが、何よりも経験と修練こそが肝要なのです。これからも懲りることなく、
「いきなり何の脈略もなく、メタ的な紹介コーナーに突入しやがった⁉」
「……ところで、やはり王子も、『魔導士』志望であられるのでしょうか? もちろんゆくゆくは、『大魔導士』にも?」
「何俺、60になるまで、彼女できないの? ──やめろよ、おまえ一応予知能力者である、『
「うふふふふ、王子がどんな大魔法を使えるようになられるのか、今から楽しみですわ♡」
「──いやああああああっ⁉ やめてえええええええ!」
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