第104話、わたくし、ちょい悪令嬢ですの! その2、奴隷制の正体。

「──アグネス聖下たん、アグネス聖下たん


「……何じゃ、ホワンロン王国のの巫女姫? ──つうか、貴様までも、我のことを、『アグネスたん』と呼ぶんじゃない!」


「いいではありませんか、これは前回から始まりました、作中作的ショートショート連作なのですから、全キャラともニックネーム呼びでも。わたくしのこともどうぞ、『アルテミス』でも『公爵令嬢』でも『悪役令嬢』でもなく、『ちょい悪令嬢』とお呼びください♡」


「──呼ぶか! せめて『悪役令嬢』ならまだわかるが、何じゃ、『ちょい悪令嬢』って? 意味不明だわ⁉」


「そうですかあ? 10歳児であるわたくしのロリっぽさを、読者様によりアピールできるかと思うんですけど」


「そういう趣旨の命名だったのか……。しかし、あまり読者に媚びすぎるのも、感心せぬぞ?」


「だって、こうしてわたくしがロリであることを自ら連呼しなければ、今ひとつ読者様に伝わっていないような……」


「……それってやはり、この作品の作者の描写力自体に、問題が」


「──駄目です! それ以上言っては! 消されますよ⁉」


「おっと、いかんいかん。戯言たわごとはこれくらいにして、とっとと本題に入るとしよう。──それで、一体何の用なのじゃ? わざわざ量子魔導クォンタムマジックチャットまで利用して、我と二人だけで話がしたいとは?」




「もちろん、このたび聖レーン転生教団領内で極秘に設けられた、『奴隷制』についてですよ」




「──っ。貴様、どうして知っておる! それは我が教団における、最高機密なんじゃぞ⁉」


「まあまあ、そこのところは、『蛇の道は蛇』ってことで。──それで、どうなんですか?」


「……むう、そもそも『の巫女姫』を始め、『境界線の守護者』や『勇者』に、果ては『作者』に至るまで、全知の具現たる『集合的無意識』に自由自在にアクセスできる、ホワンロン王国の人間に、隠し立てをしたところで無駄に過ぎぬか。──いいじゃろう、認めようではないか、貴様の言う通り、ほんの数週間前に我が教団内にて、あくまでもとして、『奴隷制』を施行したばかりじゃ」


「……テストケース、ですか? ──いや、それにしても、何よりも平等と隣人愛こそを尊ぶ教団が、何ゆえ『奴隷制』なぞを? 第一この件については、我が『異世界裁判』において、徹底的に論議を行い、『異世界において現に存在している奴隷制については、諸事情を鑑み全否定することはないが、新たに設置することは原則的に赦さない』と、結論づけておるのですが?」


「それはあくまでも、我ら『異世界人』側の立場に立った、『通常的理念』に基づいた見解じゃろうが? それに対して今回教団領内で新設した奴隷制は、『ゲンダイニッポン人』側の立場に立った、『Web小説的理念』に基づいたものなのじゃよ」


「な、何ですかその、『Web小説的理念』って?」


「貴様らも『異世界裁判』とやらにおいて述べていたではないか、『Web小説のお約束的パターンとして、主人公が奴隷の少女を奴隷商から強引に奪い取り、ちゃっかりと自分のハーレム要員にしてしまい、歪んだ偽善的英雄行為と性奴隷入手願望を満たすためにこそ、異世界には奴隷制が存在しているのだ』と」


「──ちょっと、そんなことのために、わざわざ奴隷制なんかを、新たに設けられたと言うのですか⁉」


「そうじゃよ? 何せ我が転生教団の第一の教義は、『転生者とこの世界の人間を理想的に融合させて、真の英雄を創出する』ことなのじゃからな。そのためには『ゲンダイニッポン』からの異世界転生をより促進する必要があり、場合によっては同じく教団における重要教義である、平等や隣人愛を少々犠牲にすることすら厭わぬつもりじゃ」


「で、でも、肝心の『奴隷』のほうは、どうなされるのです? 現在この大陸には奴隷制を施行している国家なぞは無いし、よそから購入するなんてこともできず、だからと言って一般市民の方を、教団が奴隷に堕としたりした、大問題になりますよ⁉」




「──心配ご無用。何せ奴隷のほうも、『転生者』を使っておるからな」




「…………………は? ──いやいや、何ですかそれ⁉ 『転生者』の奴隷に対する、歪んだ英雄願望や入手欲を満たすために奴隷制を設けているのに、『転生者』自身を奴隷にしては駄目でしょうが?」


「おや、の巫女姫殿──もとい、ちょい悪令嬢殿は、ご存じないのか? 『転生者』には、最初から『英雄』であることを望む輩ばかりではなく、『成り上がり』願望や『不幸なヒロイン』願望にこそ基づいて、あえて異世界転生したばかりのスタート時点においては、『奴隷に身を堕とす』ことも大歓迎な輩も、大勢いることを」


「………あ。そ、そういえば」


「それこそ最近腐るほど、目にしておることじゃろう。『おっさん』や『悪役令嬢』とかが、無実の罪をでっち上げられて、奴隷に身を堕とすというパターンを。もちろん彼らには『転生者』として、無敵のチート能力やずば抜けた知能や身体能力を与えられているので、いつまでも奴隷階級に甘んじておることなぞなく、見事な『下克上』を果たし、それまで自分を蔑んでいたやつらに対し『ざまぁ』して、盛大なカタルシスによって、読者を圧倒的に魅了してしまうって寸法じゃよ」


「そうでしたそうでした、むしろ『転生者』の皆さんには大人気でした、『奴隷からの成り上がり』パターンて」


「よって、奴隷制と言ったところで、何も問題は無いのじゃ。何せ転生者同士で、自給自足しているようなものじゃからな。しかも肝心の『転生者の精神体』の受け皿についても、我が教団の敬虔なる信徒から希望者を募っとるし、他の国家には何の迷惑もかけておらぬわ」


「い、いや、問題はあるのでは?」


「ほう、何がじゃ?」


「だって、『ハーレム要員入手欲』や『下克上願望』を満たすためには、その相手が自分と同じ『転生者』では駄目じゃないですの?」


「いやもちろん、お互いに『転生者』同士であることは、秘密にさせておく方針じゃぞ?」


「はあ?」


「何せ『英雄』願望の『転生者』のほうはご多分に漏れず、『ゲンダイニッポン』においては、非モテのヒキニートの穀潰しじゃったのだし、『奴隷』のほうも、『おっさん』は冴えないアラフォーのブラック企業の社畜じゃったのだし、『悲劇のヒロイン』は乙女ゲーム厨の孤独な非モテのアラサーOLじゃったのだし、お互いの素性がバレたら完全に幻滅してしまって、すべてが台無しではないか?」


「……うえー、つまり外見上は美青年ヒーローと美少女ヒロインでありながら、その正体は非モテの陰キャ同士に他ならず、当人たちはそれを知らずに乳繰り合っているわけですの? もはや吐き気しかもよおしませんわ」




「うん、だから、この件については、絶対に秘密じゃからな? 何せ『異世界転生』作品は、夢と希望こそがすべてじゃからな☆」




「……いやむしろ、夢も希望も無いような。どうしよう、これから先異世界転生作品を、素直に額面通りに受け容れて、楽しむことなんてできなくなってしまいましたわ」

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