第102話、わたくし、『ちょい悪令嬢』になりましたの。【100回記念特別編】(その3)

ちょい悪令嬢「──さて、今回も前回及び前々回に引き続き、連載第100話達成を記念して、いわゆる『乙女ゲームの世界に転生したつもりになっていても、別に何から何までゲームの知識通りにいくとは限らないんだぞ?』こそをフィーチャーした、一連のエピソードについての反省点と補足説明とを、皆さんと熱く語り合っていく、『ボイスチャット座談会特別編』の第3回目を、わたくしこと『ちょい悪令嬢』を司会に、いつもの量子魔導クォンタムマジックチャットルームより、いつものメンバーにスペシャルゲストの方をお迎えしてお送りいたします!」




かませ犬「……ええとそれで、前回はおまえがいかにも思わせぶりに、『乙女ゲームの世界に転生すること自体が、あらゆる意味で不可能なのです』って言ったところで、終わったんだっけ?」


ちょい悪令嬢「ええ、今回はこのことについて、スペシャルゲストであられる、乙女ゲーム脳令嬢さんとの対話形式にて、詳細に語っていこうかと思います!」


乙女ゲーム脳令嬢「……私と、ですか?」


ちょい悪令嬢「はい、この世界が本当に、乙女ゲーム『わたくし、悪役令嬢ですの!』の中の世界なのか、そうじゃないのかについては、あなたこそが一番気になっているでしょうしね」


乙女ゲーム脳令嬢「はあ、それについては、一応本編中に真王子様のほうから、概略だけはお伺いしておりますけど……」


ちょい悪令嬢「どういった風にですか?」


乙女ゲーム脳令嬢「……ええと、本当にゲームの世界なんかに転生した場合には、プログラミングされたデジタルデータとなってしまい、自分の意思なんてなくなるから、現在ちゃんと意思を持っている私は、けしてゲームの世界に転生したのでは無く、言わば『ゲームそっくりの異世界』に転生したのであって、そして異世界といえども現実の世界に変わりなく、未来には無限の可能性があり得るから、断じてゲームのシナリオ通りは行かない──ということでした」


ちょい悪令嬢「あなたはその説明で、ちゃんと納得できたのかしら?」


乙女ゲーム脳令嬢「──ううっ、い、一応、そのつもりですけど……」


ちょい悪令嬢「……そのご様子では、いまいち納得されていないようですわね」


乙女ゲーム脳令嬢「ご、ごめんなさいっ」


ちょい悪令嬢「いえいえ、これまでずっと、それこそWeb小説あたりのセオリー通りに、乙女ゲームへの転生だと思っていたところ、いきなり全否定されて、何だか小難しい講釈を突き付けられたんですから、戸惑うのも当然ですよ」


乙女ゲーム脳令嬢「ええ、まさか『悪役令嬢系』のWeb小説の主役兼語り手を担っていて、突然『これは乙女ゲームではないのだ』とか言われて、一体何十年前の、トラウマメタ映画かと思いましたよ」


ちょい悪令嬢「『ホーリー・マ○ンテン』ですね」


乙女ゲーム脳令嬢「おおっ、一応私のほうは『前世の記憶』的に、現代日本人としての知識があるから知っていたけど、まさか生粋の異世界人である、あなたまでもご存じとは⁉」


ちょい悪令嬢「気が合いますね♡ とはいえ、アレハンドロ・ホド○フスキー監督の作品なんて、『ゲンダイニッポン人』であられても、よほどのカルト映画マニアの方でないと、ご存じないのでは? それにあなただってれっきとした、『生粋の異世界人』であられますので、お間違いなく」


乙女ゲーム脳令嬢「あ、いけない……」


ちょい悪令嬢「うふふ、そのうちちゃんと、自覚なされますよ。それよりも、早速本題に入りましょう。──実のところ乙女ゲーム脳令嬢さんは、いまだにこの世界が、乙女ゲームでは無いことに、納得なさっていないんですよね?」


乙女ゲーム脳令嬢「……ええ、まあ、正直に申せば。だって、こんなにもゲームのシナリオ進行そのままですので、いくら何でも無関係とは思えないんですよ」


ちょい悪令嬢「う〜ん、それって、元々あなたがやり込んでいた乙女ゲーム『わたくし、悪役令嬢ですの!』自体が、『なろうの女神』がこの世界をモデルにして創ったものだということも、あるんですけどねえ……」


乙女ゲーム脳令嬢「ええっ、そんな『神様の御業だから何でもアリ』みたいな解答じゃ、私はともかく、読者の皆様が納得しませんよ⁉」


ちょい悪令嬢「もちろん、一般的理論によっても、ちゃんとご説明いたしますとも! ──しかも、現代物理学の中核をなす量子論の基本原則というよりも、もはやほんの子供でも知っている、常識中の常識に基づいて!」


乙女ゲーム脳令嬢「常識中の常識って?」


ちょい悪令嬢「『この現実世界の未来には、無限の可能性があり得る』というやつですよ。この『未来の可能性』というものは、量子論や集合的無意識論においては、『別の可能性の世界』──いわゆる『平行世界』のようなものと見なせて、言わば現在我々のいるこの現実世界以外にも、ではありますが、無数の別の世界が存在することになるのです」


乙女ゲーム脳令嬢「はあ……」


ちょい悪令嬢「とするとですねえ、あなたが『ゲンダイニッポン』でやり込んでおられた、乙女ゲーム『わたくし、悪役令嬢ですの!』とそっくりそのままの世界も、『ゲンダイニッポン』以外の無限の別の世界の中に、存在していることになるんですよ。何せ『無限』と言うことは『何でもある』と言うことですので、その中には『すべてが含まれている』わけですからね」


乙女ゲーム脳令嬢「えっ、でも、さっきあなた、むしろこの世界をモデルにして、ゲームが創られたのだと、おっしゃっていたではないですか⁉」


ちょい悪令嬢「それはあくまでも、この世界を視点にした解釈であって、『ゲンダイニッポン』のほうを視点にすれば、当然、『ゲンダイニッポン』のゲームのほうが『オリジナル』になるのです」


乙女ゲーム脳令嬢「はあ? 視点を変えるだけで、『どちらがオリジナルか?』が、入れ替わってしまうですって⁉」


ちょい悪令嬢「はい、そもそも世界と言うものは、現在目の前にある世界ただ一つだけなのであり、後はあくまでも『可能性のみの世界』が無限に存在しているだけですもの」


乙女ゲーム脳令嬢「え……」


ちょい悪令嬢「更に申せば、現実か可能性のみかにかかわらず、ありとあらゆる世界というものは、最初からすべて揃って存在しているのですから、どちらがオリジナルコピーかなんてのは、本当のところは区別する意味は無いのです」


乙女ゲーム脳令嬢「ええっ⁉」


ちょい悪令嬢「まあ、いきなりこんな学術的理論を突き付けられても、すぐには飲み込めないかと思われますので、ここはとにかく、『乙女ゲームそのままの異世界であろうが、異世界そのままの乙女ゲームであろうが、どちらにしろれっきとして存在し得ることについては、現代物理学的にもちゃんと保証されている』、と言うことだけを心得ておいてください」


乙女ゲーム脳令嬢「……はあ、でも、文字通りに無限の可能性的奇跡として、この世界と乙女ゲーム『わたくし、悪役令嬢ですの!』のシナリオ展開がまったく一致しているとしたら、『わたくし、悪役令嬢ですの!』はまさしく、この世界にとっての『予言書』みたいなものとなり、すべてがゲームのシナリオ通りに移行していくわけで、必然的に未来はただ一つに決まってしまい、この理論の大前提である『未来には無限の可能性があり得る』と矛盾してしまうのでは?」


ちょい悪令嬢「でも、実際には、ゲームのシナリオ通りには行かなかったことは、あなた自身がようくご存じのはずでしょう?」


乙女ゲーム脳令嬢「そうですよ! それについても、不思議でならないのですけど、なんで女神様がこの世界をモデルにして創り出した乙女ゲームのはずなのに、そのシナリオ進行が必ずしも現実とは合致しなかったのですか⁉」


ちょい悪令嬢「それというのもですねえ、この世界とゲームとは、けして『一対一』の関係には無いのですよ」


乙女ゲーム脳令嬢「は? 一対一の関係には無いって……」


ちょい悪令嬢「この場合、ゲームよりも小説のほうがわかりやすいので、仮にこの世界とそっくりそのままの小説、『わたくし、悪役令嬢ですの!』が存在しているとしましょう」


乙女ゲーム脳令嬢「はあ」


ちょい悪令嬢「ただし小説というものは、実は限定された集合的無意識──つまりは、複数の世界の集合体のようなものだったりするのです」


乙女ゲーム脳令嬢「はあ⁉」


ちょい悪令嬢「その小説は『ゲンダイニッポン』に存在しているのですが、そもそも多世界解釈量子論等の『平行世界理論』的には、『ゲンダイニッポン』そのものが一つだけで無く、無数に存在しており、すると当然そこに存在している小説『わたくし、悪役令嬢ですの!』自体も、無数にあることになるので、この世界の無限にあり得る未来の変化に対応できることになるわけなのです」


乙女ゲーム脳令嬢「待って待って待って! 何その、小説が無限の世界の集合体のようなものって⁉ それって、この世界に完璧に対応できる、『何とストーリー展開が現実に合わせて無限に変化していく小説』なるものを、無理やり存在させるための、ごり押し的屁理屈じゃないの⁉」


ちょい悪令嬢「おやおや、まさにこの、『集合体的小説』なるものなら、それによく似たものが、『ゲンダイニッポン』において、すでにちゃんと存在しているではありませんか?」


乙女ゲーム脳令嬢「へ? そんないかにも御都合主義的なものが、現代日本に存在しているって?」




ちょい悪令嬢「まさしく、『ゲーム』ですよ。小説なんかとは違って、ストーリー展開が必ずしも一本道に限定されず、選択肢によってシナリオがルート分岐していき、当然のごとくマルチエンディングを迎えるという、まさに限定的な集合的無意識である、小説そのものじゃないですか?」




乙女ゲーム脳令嬢「──っ」


ちょい悪令嬢「とはいえ、せいぜい三つか四つほどの選択肢しか無いゲームとは違って、事実上常に無限の選択肢があり得る現実世界においては、ゲームの知識なんか、ほとんど役には立たなかったってわけなんですよ」


乙女ゲーム脳令嬢「……あれ? ルート分岐のない小説でさえ、複数の世界の集合体のようなものであるなら、ルート分岐が存在しているゲームだったら、より多くの『未来の無限の可能性』に対応できて、ほとんど『予言書』的に利用できるんじゃないの?」


ちょい悪令嬢「だからゲームとか小説とかが、この世界の未来の無限の可能性に対応して、無限の世界の集合体であり得るのは、あくまでもこの世界を視点にした場合のみであって、『ゲンダイニッポン』においては、小説ならば、ストーリー展開が単なる一本道でしかなく、ゲームならば、せいぜい選択肢四つ分程度のルート分岐しかあり得ず、この世界の未来の無限の可能性をすべてカバーすることなぞできず、あなたが実際に体験したように、『ゲームの知識』なんてほとんど役には立たなかったわけなのですよ」


乙女ゲーム脳令嬢「……ううう、またしても視点によって、話が変わってしまうの? なんかそこら辺の理論に今ひとつついて行けないんだけど、この世界がゲームでも、Web小説でいうところの異世界でもなく、あくまでも無限の未来の可能性を有する現実世界であるからこそ、『ゲームの知識』なんて、てんで役に立たないことだけは、十分理解したよ」


ちょい悪令嬢「ええ、それで十分ですわ♡」


乙女ゲーム脳令嬢「くうう、つまり私って、本当は何の役にも立たない『ゲームの知識』なんかを絶対視するあまり、家族や友人に『大きなお世話』的なアドバイスを無理強いしたり、当たりもしない『大災厄』の予言を行ったりして、いたずらに人心を乱していたわけなの? うおおっ、何て恥ずかしいやつ! 『穴があったら入りたい』とは、まさにこのことだわ!」




真王子様「──そんなことはない! 君は別に、恥じ入ることなぞ、何も無いんだ!」




乙女ゲーム脳令嬢「……真王子、様?」


真王子様「君がご家族やご友人に示した、『正しい未来への行動指針』は、人を欺いたり陥れたりするためのものだったのか?」


乙女ゲーム脳令嬢「い、いいえ、そんな⁉ 確かに何から何まで的中したわけではありませんが、私はただ、皆さんのためを思って!」


真王子様「そうだろう、君はあくまでも、他人のことを思って、本来君の国では禁じられている、『予言行為』を行っていたんじゃないか? ──たとえ『魔女』や『嘘つき』と呼ばれようとな」


乙女ゲーム脳令嬢「──‼」


真王子様「『大災厄』等の、予言についてもそうだ。君は狂信的なラプラス国教会からにらまれる怖れがあろうとも、人々に注意を喚起することをやめようとはしなかったし、もはや自分の予言を信じてもらえないことを確信した後は、自分の膨大なる魔導力のみならず、命をも引き換えにして、ワーウルフ軍団の侵略を単独で食い止めようともしたじゃないか⁉ その献身的自己犠牲精神の、どこが恥ずかしいって言うんだい!」


乙女ゲーム脳令嬢「……真王子様」




真王子様「だが、そんな君だからこそ、あえて言わせてもらおう。──もう二度と、『ゲームの知識』なんか、使おうとするな──と!」




乙女ゲーム脳令嬢「………………………………………は?」




乙女ゲーム脳令嬢と真王子様以外の全員「「「ええーっ⁉」」」




真王子様「いいか、みんな勘違いしているようだけど、今回の96話から99話までのエピソードの真のテーマは、『ゲームの知識絶対主義マンセー』的な他人様の作品を揶揄することでも、その理論背景として小難しいことを延々と述べることでもなく、いろいろなしがらみに自縄自縛的に囚われ続けている、一人の不憫な少女を自由にして、緑の野に解き放つことなんだ!」


乙女ゲーム脳令嬢「ふ、不憫な少女って、もしかして──」


真王子様「ああ、まさしくアネット=テルミン=トラバス公爵令嬢、君のことだ!」


乙女ゲーム脳令嬢「ええっ、つまり、この私がまさに今この時、いろいろなしがらみに囚われているってわけですか⁉」




真王子様「そうだ! この世界はけして、君が思っているように乙女ゲームなんかじゃ無いし、君自身もけして、『ゲンダイニッポンからの転生者』なんかじゃ無いんだ! ゲームの知識なんて捨てて、現実を見ろ! そして、本当の君自身を取り戻して、今度こそ真に幸せになるんだ!」




乙女ゲーム脳令嬢「──っ」




ちょい悪令嬢「……す、すごい」


メイ道「さすがは、真王子様!」


かませ犬「俺には、あんなマネ、できやしねえ……」


ジミー「そこが、『本物の王子様』と、『紛い物の王子様』との、差というものだろうね」


妹プリンセス「……いや、一応かませ犬お兄様のほうが、本物のはずなんですけど、確かにあの『口説きのテクニック』は、他人がマネできるものではありませんわよね」




真王子様「黙れ、外野ども! ──アネット、雑音は気にしなくていいからね? ボクの言うことは、わかってくれたかな?」


乙女ゲーム脳令嬢「……でも、私、怖いの。これまでずっと、『ゲームの知識』にすがって生きてきたのに、それを急に手放すなんて、本当にできるのかしら?」


真王子様「できるとも! 心配は無用さ! 何せ君には、ボクというパートナーがいるんだからね♡」


乙女ゲーム脳令嬢「え(ポッ)」


真王子様「(右手を差し伸べながら)──さあ、共に歩もう。未来は不確かだからこそ、僕たち人間は、希望というものをいだくことができるんだよ」


乙女ゲーム脳令嬢「(真王子様の手をぎゅっと握り返しながら)は、はいっ、いつまでもお供させていただきます!」




ちょい悪令嬢「……え、ええと、真王子様と乙女ゲーム脳令嬢さんが、たった今、量子魔導クォンタムマジックチャットルームから退出なされたようです」


かませ犬「うおおおお、これから後の展開を想像すると、悶え死にそうだぜ⁉」


メイ道「想像するなよ、実の姉君の、そういったシーンを!」


ジミー「……いや、まさしく実の姉ながら、惚れ惚れするような、『たらし』っぷりだったよねえ」


妹プリンセス「まさに『王子様』、まさに『男前』、の一言に尽きますわあ」




ちょい悪令嬢「まあ、最後の最後で何だか妙な雰囲気になりましたが、一応決着はついたということで、今回の【連載100話達成記念座談会】は、これにて幕にさせていただこうかと思います。──それでは読者の皆様、また【連載第200話達成記念座談会】にて、お目にかかりましょう!」




ちょい悪令嬢以外の全員「「「──また次回、よろしくお願いいたしまーす!!!」」」




ちょい悪令嬢「かませ犬さんのほうも、実の姉君に『真の王子様』の座を奪われてしまわないように、頑張ってくださいね♡」




ちょい悪令嬢とかませ犬以外の全員「「「──頑張れ頑張れ、かませ犬!!!」」」




かませ犬「なっ、てめえら、最後の最後まで、俺のこといじりやがって⁉ 読者様に対するイメージが悪くなるから、そういうことはやめろって言っているだろうが!」

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