第43話、わたくし、悪役令嬢のくせに、『動物感動物語』には弱いんですの。

「──メツボシ帝国ニシノ伯爵領にて活動中だった、巨大蜘蛛型モンスター、コードネーム『コクモ』、すべて沈黙!」


「同じくタナカ侯爵領にて活動中だった、巨大スライム型モンスター、コードネーム『トコロ転』、全個体活動停止!」


「帝都ヒノモト最終防衛ラインである城壁前においては、暴走モンスターの主力が、ホワンロン王国『セブンリトルズ』に率いられた、メツボシ帝国陸軍最新鋭重戦車『ティーガー』及び中戦車『パンター』の大規模混成機甲部隊により、一方的に押され始めております!」


「帝都上空の飛翔モンスター群も、すでにホワンロン空軍のエース中のエース『エクスペルテン』の名をほしいままにしている、大陸きっての『正統派ヒロイン』アイカ=エロイーズ男爵令嬢──通称、『くれないのバロネス』率いる、Me262及びHo229の混成ジェット機部隊により、あらかた掃討された模様!」


「更には、今回の『実験』におけるメインの検体である、『カミカゼアタック』を敢行していた『ハイブリッドドラゴン』部隊も、地表に衝突する寸前に、待ち構えていたホワンロンの伝説の悪役令嬢、『ナイトメア』の『影』に喰われてしまい、何ら破壊活動を及ぼせられなくなっているとのことです!」




 世界宗教『聖レーン転生教団』総本山、聖都『ユニセクス』。


 教皇庁最上階の最高幹部会議室に次々ともたらされる、今回の『魔の森モンスター暴走作戦』の進捗情報。


 ──しかしそのすべてが、大方の予想に反して、非常にはかばかしくないものばかりであった。




「──どうしてじゃ、どうしてなのじゃ⁉」


 枢機卿以上の超上級聖職者しか臨席できないはずのこの場においては、あまりに似つかわしくない、いかにも幼く焦燥感にあふれた声。

 しかしそれは間違いなく、大円卓の最も上座の席から鳴り響いていたのだ。

 年の頃七、八歳ほどの、初雪のような純白の髪の毛に縁取られた精緻な人形そのままの小顔の中で、鮮血のごとき深紅の瞳を煌めかせている、妙に大人びた絶世の美少女。


 ──アグネス=チャネラー=サングリア。全世界数千万の『なろう教徒』の崇拝の的である、聖レーン転生教団現教皇その人であった。


「大陸各地に散在する、無数の魔物の住処『魔の森』に、我が教団極秘研究所が開発した、『ゲンダイニッポン人』の魂を孵化する前の卵の段階でインストールされている『ハイブリッドドラゴン』どもをけしかけることによって暴走を促し、周辺諸国を蹂躙させた後に、最終的にホワンロン王国を襲わせて『の巫女姫』の覚醒を促すという、教団最大の目的を達成する準備段階として、まずは小手調べに大陸内の魔物の暴走は最小限に抑えて、周辺各国に対しては『牽制』の段階レベルとどめておいて、大陸本土とは海を隔てて孤立しているメツボシ帝国内の『魔の森』の暴走のみを本格的に促し、加えて『ハイブリッドドラゴン』自体の帝都ヒノモトに対する『カミカゼアタック』を始め、『人間以外の生物への転生』実験の『失敗作』である、大蜘蛛や巨大スライムを無数に帝国内にばらまき、位置的にも政治的にも他国の援軍を求めにくいメツボシ帝国を早急に屈服させて、帝国民のすべてに『ゲンダイニッポン人』の魂を憑依させることで、教団の従順なる尖兵に仕立て上げて、大陸本土全体の本格的侵攻の礎にしようと思っていたのに、計画丸つぶれではないか⁉」

 顔を真っ赤にしていきり立つ最高権力者に対して、下座の枢機卿たちは恐れおののき身を縮ませるばかり──かと思いきや、ある意味この場の面子的には見た目通りに、癇癪を起こした幼い孫娘に対する好好爺そのままに、穏やかな笑顔でいかにも言い含めるように語りかける。

「──まあまあ、聖下」

「まずは、お気を静められて」

「事態は、それほど悲観するものでは、ございませぬぞ?」

「……何じゃと?」

 当然のごとく怪訝な表情となる敬愛なる教皇様に対して、更に巧妙に言を紡いでいく狸親父たち。

「確かにホワンロン王国による、周辺諸国に対する迅速なる援軍の派兵による事態の沈静化と、更にその上遠く離れた極東島国のメツボシ帝国にいち早く救いの手を差し伸べたことは、あまりに予想外でありました」

「しかし逆に考えると、今回はあえてメツボシ帝国を『実験場』にして、ホワンロン王国の実力のほどを確かめる、絶好の機会とも言えるのではないでしょうか?」

「その保有する戦力が強大かつ独特でありながら、ホワンロン王国は何かにつけ慎重で、あまり表立って軍事行動を起こそうとはいたしません」

「それを今回においては、あちらさんのほうから率先して出向いてくれたのです」

「ここはじっくりとその実力のほどを、検証させていただこうではありませんか?」

「それに一応今のところ、今回の件はあくまでも『魔物の暴走』によるものとされており、我が教団はまったく関与していないものとなっております」

「たとえ各国の諜報部がある程度の情報を掴んでいたとしても、大陸の隅々までに存在している我が敬虔なる信徒の皆様を慮って、滅多なことを公言することはできないでしょう」

「我々はただ、今回の『実験』を、粛々と進めればいいのです」

「生憎元々『失敗作』である大蜘蛛や巨大スライムは全滅してしまいましたが、我々にはまだ『ハイブリッドドラゴン』がいるではありませんか?」

「きゃつらに『カミカゼアタック』をやらせていたのも、敵に対する『心理的効果』の面も多かったのであって、何と言ってもこの世界最強のモンスターなのだからして、普通に炎のブレス等を使わせる通常攻撃に切り替えさせても、甚大な被害を及ぼせるものと思われます」

「そうなると、いかに魔の国ホワンロンといえども、ただでさえ『希少種』であるドラゴンを無闇に殺せなくなり、むしろやつらのほうこそ進退窮まることでしょう」

「──何せ孵化以前の卵を略奪する際には、教団きっての『ドラゴンスレイヤー』たちが、抵抗する母親ドラゴンどもを皆殺ししてしまいましたからなあ」

「いろいろな意味で『博愛主義者』として知られるホワンロン女王としては、これ以上のドラゴンの死は看過できないのではありますまいか?」


「──しかも今回の戦争を長引かせれば長引かせるほど、我々の最終目的である『の巫女姫』を、戦場におびき出すことすら、不可能ではなくなるのですぞ?」


「な、何じゃと、それは一体、どういう意味じゃ⁉」

 話の途中で飛び出した、あまりに思わぬ言葉に血相を変える教皇聖下に対して、重々しく語りかける枢機卿たち。

「このまま事態がこじれてしまえば、大陸諸国への悪影響を考慮して、ホワンロン本国としても、早期の打開を図ることになるでしょう」

「その場合投入される『戦力』は間違いなく、メツボシ帝国のベンジャミン公国侵攻時と同様に、この世界の中に存在する『作者』──すなわち、『内なる神インナー・ライター』の力を有する者と思われます」

「『ハイブリッドドラゴン』の集合的無意識との経路パスを、すべて一斉に切断カットして、『ゲンダイニッポン人』の憑依状態を、一気に解消しようとするわけです」

「しかしその場合、『内なる神インナー・ライター』が、メツボシ帝国に現れるとは思われません」

「──何と言ってもあの者の最大の使命は、『の巫女姫』の護衛なのですからね」

「それをすっぽかして、他国の援助に向かうなんてことは、到底あり得ないでしょう」

「ベンジャミン公国の場合は、まだ大陸内のことであり、何か事があれば、ホワンロン王国ご自慢の超音速ジェット機を始め、あらゆる手段を講じて、即座に取って返すことができましたが、さすがに極東島国のメツボシにおいては、そういうわけにはいきません」

「──さすれば、もし仮に『内なる神インナー・ライター』の投入が是非とも必要となった際には、『の巫女姫』の同行も、十分考えられるところでございます」

 まさしく『亀の甲よりも年の功』を地で行く理路整然とした言葉を聞かされて、ついにパッと顔を輝かせる、チョロイン──もとい、幼女教皇様。

「──おお、確かに! よし、相わかった! 『ハイブリッドドラゴン』どもには、これより通常攻撃に切り替えさせて、『実験』を継続するのじゃ!」


「「「ははあ、アグネス聖下たんの、仰せのままに!!!」」」


「──だから、『アグネスたん』言うな!」


   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑


『──すでに現時点において、Me262大隊のうち、ベーア隊及びバルクホルン隊が、全機墜落!』


『パイロットは全員、パラシュート降下して、無事であります!』


『ただしこれにて、ガランド中隊は主力を失い、これ以上の作戦続行不可能!』


『シュペーテ中隊やベルダー中隊においても、防戦一方で、じり貧の状態!』


『各隊とも、30mm機関砲だけでなく、より破壊力のあるR4Mロケット弾の使用許可を求めております!』


「──駄目だ! 命中後体内において爆裂する、遅延式空対空ロケット弾のR4Mを使用すれば、確実に敵『ハイブリッドドラゴン』を殺してしまう! 相手が自発的に『カミカゼアタック』を行うのならともかく、これ以上の希少種の殺戮はできるだけ避けるべしとの、女王陛下御自らのお達しだ! これまで通りの威嚇戦法で、戦域から追い払うことに徹しろ!」


 刻々と無線に着信してくる、絶望的な報告の数々。


 しかしそれでも今回のホワンロン航空義勇軍指揮官、真っ赤に染め上げられた最新鋭ジェット全翼機Ho229を駆る、『くれないのバロネス』こと私、アイカ=エロイーズ男爵令嬢は、敵ドラゴンどもに対する攻撃の手を緩めることはなかった。


「……くっ、そもそも何で、乙女ゲー的世界における『正統派ヒロイン』であるはずの私が、こんなことやっているのよ⁉」

 思わず、ホワンロン空軍きってのエース中のエース『エクスペルテン』らしからぬ、愚痴が口をついて出てしまうのも、無理はなかった。

 つい先程までは好調だった戦況が、『ハイブリッドドラゴン』たちが『カミカゼアタック』をやめて、炎のブレスによる地上攻撃に切り替えて以来、一気に悪化してしてしまったのだ。

 高空を高速でちょこまかと飛び回る、いまだ幼体の小型ドラゴンたちは、地上の高射砲部隊はもとより、メツボシ帝国軍のレシプロ機部隊でも捕捉が難しく、当然のようにして我々ホワンロン王国ご自慢のジェット機部隊が対応することになったのだが、子供とはいえさすがはこの世界最強のモンスター、全身を守る無数の鱗は鋼のごとき堅牢さを誇り、30mm機関砲くらいでは効果は無く、さりとてこれ以上のドラゴンの減少はこの世界全体の生態系に多大なる悪影響を及ぼしかねないので、絶大なる威力を誇るR4Mロケット弾の使用許可を下すことはできずで、まさに八方塞がりの状況であった。

「……結局今回も、『内なる神インナー・ライター』サマのお力に、すがらざるを得ないわけか」


 ──悔しかった。


 人よりも少々魔導力が多いとはいえ、『内なる神インナー・ライター』や『の巫女姫』や『境界線の守護者』や『ナイトメア』なんていう、化物がゴロゴロ存在しているホワンロン王国においては、あくまでも『脇役』に甘んじるほかはなく、ずっと忸怩たる思いを抱えていた私にとって、今回はやっと巡り合った、『大チャンス』のはずであった。

 最新鋭ジェット機のパイロットとしての、適正を認められた時は、心底嬉しかった。

 これで私も、自分の力で、羽ばたいていけると。

 今度こそ、本物の『ヒロイン』に、なることができると。


 ──なのに結局、私なんかは、『脇役』に過ぎないとでも言うのか⁉


 作戦行動においてだけでなく、精神的にも追い込まれてしまい、もういっそのことロケット弾を使ってドラゴンたちを全滅させて、『悪役令嬢』のお株を奪って、『悪役ヒロイン』になってしまおうかとも思い始めた、


 ──まさに、その刹那であった。


「……何よ、あれって?」

 何の前触れもなく、突然全天を覆い尽くす、巨大なる影。


『──グォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』


 それは間違いなく、ドラゴンの姿をしていたのであった。


   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑


「──まさか、あれは、ホワンロン⁉」


 聖レーン転生教団聖都ユニセクス、教皇庁最上階最高幹部会議室、『魔の森モンスター暴走作戦本部』にて響き渡る、幼い少女の悲鳴のような叫び声。


 それは間違いなく、全世界数千万の『なろう教徒』の崇拝の的である、聖レーン転生教団現教皇、アグネス=チャネラー=サングリア聖下ご自身の、花の蕾のごとき唇からもたらされたものであった。


 しかし同じく量子魔導クォンタムマジックプロジェクターによって映し出されている、大スクリーンの実況映像を見ている枢機卿たちには、事の重大さがわかっていないようで、口々になだめすかしてくる。

「……どうなさったのです、聖下?」

「別にこの際、ドラゴンの一匹や二匹増えようが、構わないではありませんか」

「大方あれも、魔の森から追い出されてきた、暴走モンスターの一体でしょう」

「むしろ更にホワンロン王国を追いつめることになって、いよいよ『内なる神インナー・ライター』や『の巫女姫』のご登場が期待できるのでは?」

「……しかし、図体は大きいものの、黄色いドラゴンとは、何とも弱っちいそうですなあ」

「しかりしかり、やはりドラゴンと言えば、『赤』や『青』や『黒』や『白』といったところが、強者だと相場が決まっておりますからなあ」

 いかにも余裕綽々のおっさんたちであったが、それに対する教皇様のお叱りの言葉は、

 ──驚天動地の、爆弾発言であったのだ。


「馬鹿者! 何をのんきなことを言っているのじゃ! きゃつは、ホワンロンは、この現実世界を含む、という、伝説の神竜であり、あやつが目覚めればその瞬間に、とも言われているのだぞ!」


「「「なっ⁉」」」

「……くそう、本来の、全人類の『記憶や知識』の集合体に過ぎない、ホワンロンを具象化するとは、ホワンロン女王め、一体どういった『外法』を使つこうとるのじゃ⁉ ──解析班、分析結果を報告しろ!」

「は、はい、ホワンロン自体は覚醒状態にありませんが、『転生体』の反応が、いくつか認められます!」

「何じゃと? まさか我々同様、『ゲンダイニッポン人』の魂でも、憑依させておるのか?」

「いいえ! 『転生体』は『転生体』でも、のものです!」


「──っ。そうか、そういうことか! ……おのれ、『白雪』め、どこまでも我の大望の邪魔立てをするつもりか⁉」


   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑


「……あ、あれ? 『ハイブリッドドラゴン』たちが、謎の巨大な黄色いドラゴンを攻撃し始めたぞ」


 ──引き続き、メツボシ帝国帝都ヒノモト上空。

 あまりに予想外の事態に、一応現場の指揮官として私ことアイカ=エロイーズは、全部隊に様子見を命じてみたところ、そんなこと知ったことじゃないと言わんばかりに、敵側の『ハイブリッドドラゴン』たちのほうは、無謀にも自分たちの数百倍はあるように見える巨大なドラゴンに向かって、果敢に炎のブレスの攻撃を加え始めたのであった。

「……ああ、あいつら『ゲンダイニッポン人』の魂を持っているって話だから、ひょっとして『モン○ン』気分だったりするわけかな? ほんと、救いようのない『ゲーオタ』どもめ、完全に自殺行為じゃない。彼我の力量差も見極められないのかよ?」

 心底あきれ果てる私であったが、案に相違して、巨大ドラゴンのほうは反撃をするそぶりすら一切見せず、『ハイブリッドドラゴン』からの攻撃をただ受け続けるばかりであった。

 ただし、そのうち──

「うん、あれは?」

 おもむろに、巨大ドラゴンの巨大な背中のあちこちから、にょきにょきと生えだしてくる、『ハイブリッドドラゴン』よりは幾分大きいものの、一応普通サイズと言ってもいい、無数のドラゴンたちの鎌首。

「おおっ、つまりアタックフォーメーションに変化して、いよいよ反撃開始ってわけですな?」

 どっちにしろ『敵』同士がつぶし合うだけだと、気楽に見物していた、まさにそのなかであった。


『『『アァーンウォオオオオオオオオオオオーン!!!』』』


 無数の『首だけドラゴン』の顎門から放たれる、雷鳴のごとき鳴き声。

 しかしなぜかそれは、人間の私の耳にも、非常に哀しげに聞こえたのであった。

 ──そして、次の瞬間。


『……ぐぎゅるるる』

『うおおおーん』

『あぐぐぐぐぐ』


 なぜか唐突に空中で身もだえし始める、すべての『ハイブリッドドラゴン』たち。

 しばらくしてそれが止むや、今度はやけに落ち着き払った物腰で、おもむろにゆっくりと、『首だけドラゴン』のほうへと近づいていく。


『『『……グルルルル?』』』(首だけドラゴンたち)

『『『キューキューキュー』』』(ハイブリッドドラゴンたち)


 そして何と、あたかも、その身体を『首だけドラゴン』たちの頬あたりにこすりつけ始める、『ハイブリッドドラゴン』たち。

 それに対して、さも愛おしそうに、『ハイブリッドドラゴン』たちの全身をペロペロと舐め始める、『首だけドラゴン』たち。

「……一体、何が?」

 もはや何が何だかわけがわからず、首をかしげるばかりの、私を始めとするジェット戦闘機部隊。

 まさにその時着信する、無線の声。

『──こちら、作戦本部。状況はこれにて終了とする。ジェット機部隊は、全機帰投されたし』

「は、はあ? 一体どうして──」

『解析班によると、「ハイブリッドドラゴン」からは、すべての「転生反応」が消失したとのこと。もはや我々には戦う必要はないのだ』

「『転生反応』が消失って、何でいきなり⁉」


『──母親の愛の力が、邪悪な「ゲンダイニッポン人」に、打ち勝ったのよ』


 その刹那、唐突に無線に割り込んでくる、どこかで聞いたことのあるような第三の声。

 しかしその発言内容は、更なる謎を呼ぶものであった。

「母親の、愛って……」

『あの背中から生えているのは、今回ドラゴンの卵を奪うために卑劣な略奪者によって殺された、卵の母親たちなの。それを本来実体を持たない「ホワンロン」に集合的無意識を介して、「彼女」たちの「生前の記憶と知識」のみを宿らせて、外法を使って無理やり実体化させたってわけ』

「……それで『彼女』たちに、直接我が子を説得させることによって、『ハイブリッドドラゴン』たちから『ゲンダイニッポン人』の転生状態を解かせて、本来の純粋なるドラゴンに戻らせたってことね? ふうん、うまいこと考えるじゃないの。──ところで貴女は、どこのどちら様であられるわけなの?」

『うふふふふ。「通りすがりの女王様」とだけ、名乗っておくわ』

 そんなふざけきった台詞を最後に遮断される、無線からの声。

「女王様が、こんな戦場のまっただ中に、通りすがったりするものですか! ──全部隊に告ぐ、即時撤退開始! 繰り返す、即時撤退!」


   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑


 こうして人類の危機は、感動の『動物ドラゴンおや物語』によって、見事に回避されたのであった。


 ──ただし、この後すぐ、なぜか正気に戻ったはずの子ドラゴンたちが、大挙して聖レーン転生教団の聖都ユニセクスに押し寄せて、上空からの炎のブレスの連発によって、聖都中を徹底的に破壊し尽くしたとのことであった。


 教団にとってはとんだ災難であったが、一部の情報通からは『身から出た錆』と揶揄されるとともに、むしろこのお陰でれっきとした『被害者』として、今回の事件への関与を疑われずに済むことになり、それだけが不幸中の幸いであった。


「──そんなわけあるか! くそう、ホワンロン女王めが! 必ず次回こそ、痛い目にあわせてやるからな!」


「どうどう、アグネス聖下たん

「お傷に障りますから、落ち着いてください、アグネス聖下たん

「それって、完全に、『次回も負ける』フラグですよ? アグネス聖下たん


「──だから人のことを、『アグネスたん』言うなー!!!」

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