第44話、わたくし、こんなに趣味に走った作品を見たのは初めてですの。

『──こちら、ブレーメン地区管制基地。貴機の進行方向に、接近しつつある機影あり!』


了解ヤー! 敵味方識別信号の、照会を急がれたし!」


『──識別信号、ブラウ! 敵機です! 相対速度、およそ時速2000km!』


「何ですって? 相手もジェットなの⁉」


『──機影分析完了! 敵機、仮称「ザラマンダー」と判明!』


「チッ、よりによって、最新鋭機じゃない!」


『──来ます、両機交差まで、あと1秒!』


「──くっ!」


 私の真っ赤なジェット全翼機Ho229のすぐ真横を、20mm機関砲を掃射しながらすり抜けていく機影は、確かに背中にジェットエンジンを一基のみ背負った、異形の小型機であった。

 咄嗟に回避行動をとり被弾は免れたものの、全翼機ならではの安定性の悪さにより、機体が大きく揺らいで、わずか一瞬とはいえ制御不能となる。

 その隙を見逃さず、機体の小ささを生かして急旋回し、再びこちらへと高速接近してくる火竜ザラマンダー

 もはやこれまでかと、思った、

 ──まさに、その時。

『なあに、やっているのよ、大隊長殿! 機械的不備は、魔導力で補えばいいでしょうが⁉』

 無線から聞こえてきたのは、もはや散々聞き飽きたがなり声。

「ダンケ! さん! 訓練シミュレーションがあまりにリアルすぎて、すっかり忘れていたわ!」

 いかにも的確すぎるアドバイスを受け、私は空戦の真っ最中だというのに、おもむろに目を閉じ全神経を集中させる。


 ──! 身体中の魔導力を、機体の操作系統とレーダーとに、完全にシンクロさせるのよ!

 ──私なら、できる!

 ──だって私は、ルフトヴァ…………じゃなかった、ホワンロン空軍の、エース中のエース、エクスペルテンの『くれないのバロネス』じゃない!


 そして次の瞬間、私の意識は、大空と一体化した。


 魔導力によって増幅された『全能感』が、不可能を可能にする。


 私はたった一瞬の間で、敵機の軌道を完全に読み取り、自機に回避行動をとらせながら、大口径30mm機関砲を、敵機の進行方向へと叩き込む。


『──全機撃墜完了! 大隊長殿、おめでとうございます! これにてを終了します!』


 量子魔導クォンタムマジック電子精霊のアナウンスとともに、愛機──否、訓練機シミュレータのキャノピーが開き、これが実戦なぞではなく、単なる訓練だったことを思い知らされる。


 ──なぜなら、その時私の目の前に広がっていたのは、敵味方の戦闘機が飛び交う大空でも、所属部隊の滑走路でもなく、コクピットだけが部屋の中央に置かれている、亜音速ジェット空戦訓練用の、仮想ヴァーチャル空間リアリティ・訓練シミュレーションルームであったのだから。


 そして、この部屋専属の量子魔導クォンタムマジック分析技師でも何でもないくせに、いかにもにやけた笑顔で待ち構えていたのは、着崩した中隊長の制服も妙に似合っている、なぜか『ダンディ』と形容したくなるほどどこか気障っぽい、すこぶる付きのであった。

「……ああ、中将さん、さっきは助かったよ」

「いやあ、部下としては、上官の手助けができて、本望でありますよ、大隊長殿」

「……何で中将のあなたが、少佐に過ぎない私の部下なんだろうね?」

「あたしゃ、空軍元帥のゲリちゃんから、か〜な〜り、にらまれていますからね。──ま、生涯一中隊長というのも、肩肘張らずに済んで、助かりますんで」

「それで、わざわざ私の訓練が終わるまで待っていたってことは、何か用事があるんでしょう?」

「さすがは、『正統派ヒロイン』アイカ=エロイーズ男爵令嬢殿、話が早い! 実は今日はうちの隊のパーティが催されますので、大隊長殿には、是非とも参加していただきたいのでございますよ、はい♡」

「……あなたの隊というと、第44中隊の? 今日は何かの記念日なわけ?」


「──JAヤー、実はまさしく今回は、本作において第44話目のエピソードでありますからして、いっそのこと作者の(ミリオタ)趣味全開で突っ走ろうか──と、いうことらしいですよ?」


 ……また思いっきり、『メタ』路線かよ⁉


   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑


ガランド「──と言うわけで、これより第1回第44中隊、親睦会を開催いたしまーす!」


隊員たち「「「いえーい!」」」


アイカ「……ちょっ、何で中隊の親睦会を、宿舎の大浴場で行うのよ⁉」


ガランド「え? うちは基本的に、『裸の付き合い』第一主義ですので」


隊員たち「「「しかり!」」」


アイカ「なんか男前なこと言っているけど、この中隊──と言うか、うちの大隊そのものが、女性隊員オンリーだよね? なぜか知らないけどね⁉」


ガランド「それが、時代の流れというものですよ♡」


アイカ「ヤな時代になったものだ……」


シュタインホフ「あれ? でも、最近のWeb小説における『悪役令嬢』モノでは、大隊長のような『正統派ヒロイン』は、大概『百合要員』ではありませんでしたっけ?」


ベーア「そうそう、悪役令嬢をいちししたり」


バルクホルン「いきなり悪役令嬢に告白して、ダメ出しされたり」


クルピンスキー「かと思ったら逆に、おとこ(?)の悪役令嬢に気に入られたり」


ヘルゲト「なぜか執拗に下着を狙われたり、おまけに惑星軌道を微妙にずらされたり」




ガランド「──ていうか、そもそも本作の第一話で、大隊長ってば、『悪役令嬢』のアルテミス=ツクヨミ=セレルーナちゃんに、迫られてなかったっけ?」


隊員たち「「「そうそう、確か、そうだったよね〜♡」」」




アイカ「──いきなりすっかり忘れていた、『黒歴史』をほじくり返された⁉」


リュツォウ「黒歴史てw」


ホハーゲン「まあ、実はあの段階では、アルちゃんの『ロリ設定』も固まっていなくて、方向性がいろいろとブレていましたからね」


ノイマン「つまり事と次第によっては、大隊長とアルちゃんとの『ゆりゆり路線』もあったわけですな?」


アイカ「──うおっ、あっぶねー。今日ほどこの作品の作者の性格が、いい加減で飽きっぽいことに、感謝したことはないよ!」


カイザー「でもこの作品って、『ガールズラブ』であることをセールスポイントの一つにしているんだから、もっと『百合要員』の大隊長に頑張ってもらわないと、『タグ詐欺』になってしまうんじゃ?」


アイカ「だから私は、『百合要員』じゃないって、言っているでしょう⁉」




ミルクのお時間♡「──ちょっと、小娘ガキども、入浴中にあんまり騒ぐんじゃないよ!」




アイカ&ガランド「「あ、あなたは⁉」」


隊員たち「「「ホワンロン空軍次官の、エアハルト=ミルク元帥あねさん!」




ミルクのお時間♡「……ったく、さっきから黙って聞いてれば、ピーチクパーチクさえずりやがって。こっちは落ち着いて、湯に浸かっていられないじゃないか」


アイカ「す、すみません!」


ガランド「まさか姐さんが、入っておられるとは、思わなかったもので」


ベーア「……しっかし、相変わらず、『でっかい』ですなあ」


バルクホルン「ああ、さすがに『ミルク』だけあるぜ……」


ミルクのお時間♡「うふふふふ。こう見えても、こちとら『サキュバス』だからねえ。もちろんミルクも絞るし、『サキュバスですの〜と』もしたためるってもんさ」


全員「「「何だかわかりませんが、すげえです、元帥あねさん!」」」




夢魔サキュバスですの〜と「──ちょっと、待ったあー!!!」




アイカ&ガランド「「あ、あなたは⁉」」


隊員たち「「「ホワンロン王国の誇る、『夢魔の悪役令嬢』にして──」


ミルクのお時間♡「……何だい、『ないとう』じゃないか? 何しに来たんだい? ここは空軍の宿舎で、部外者はお断りだよ」


夢魔サキュバスですの〜と「『内藤芽亜』じゃなくて、『ナイトメア』よ! あんたがあまりにも『サキュバス』全体にとって、風評被害も甚だしいことばかり言っているから、厳重抗議に来たのよ!」


アイカ「ちなみに、自称『ナイトメア』さんも、全裸であらせられます」


ガランド「一体どこで私たちの話を聞いていたのか、何で入浴の準備が万端整っているのか、非常に謎が謎を呼びますが、ここは空気を読んでスルーいたしましょう」


ミルクのお時間♡「あら、『サキュバス』全体にとっての風評被害って、一体何のことだい?」


夢魔サキュバスですの〜と「いくらサキュバスだからって、しょっちゅうミルクを絞っているわけでも、なんか危ないノートもしたためているわけでもないってことよ!」


ミルクのお時間♡「……ああ、そういうこと」


夢魔サキュバスですの〜と「こらあっ、人の胸元を見ながら、ほくそ笑むんじゃないわよ!」


アイカ「え、何で『ナイトメア』さんもサキュバスなのに、あの部分が『アルちゃん並み』なんです?」


ガランド「……あなたも結構辛辣なことを、平気で言えますなあ」


夢魔サキュバスですの〜と「失礼な! いくら何でも、十歳児よりはあるわよ! そもそも私も『悪役令嬢』の呪いとして、十三歳くらいで成長が止まっているんだから!」


ミルクのお時間♡「え? あたしゃ十三歳の時はすでに、今とあんまり変わらなかったよ?」


夢魔サキュバスですの〜と「黙れ、乳牛! 化物あんた基準で、ものを考えるな!」


ミルクのお時間♡「……サキュバスで悪役令嬢であるあんただって、十分化物のくせに」


夢魔サキュバスですの〜と「やかましい! 大体あんたは『ミル』ではなく、『ミル』でしょうが⁉ ここにいるメンバーは、私と大隊長以外は、みんなドイツ語名なのに、おかしいじゃない!」


ミルクのお時間♡「ふふっ、『ミルヒ』を英語読みするだけで、萌えキャラ爆誕なんだから、すごいよねえ♡」


夢魔サキュバスですの〜と「結局今回は、『親父ギャグ』オンリーかよ⁉」


ガランド「……あ、いや、一応連載44回記念として、うちの中隊メインでお送りしているんですが?」


夢魔サキュバスですの〜と「ふん、どうせ作者のやつ、前回の43話で力を使い果たして、今回は会話劇でお茶を濁しているってところじゃないの?」


アイカ「──ちょっ」


ガランド「誰もがわかっていながら、あえて言及しなかったことを!」


ミルクのお時間♡「みんな、早くそいつの口を塞ぐんだよ! 場合によっては、風呂に沈めたって構わないからね!」


全員「「「──合点でえ!!!」」」


夢魔サキュバスですの〜と「ちょ、ちょっとあなたたち、何を──ぶくぶくぶく」


ガランド「──と言うわけで、第1回第44中隊親睦会をお送りいたしました!」


隊員たち「「「次回は、第88話でお会いいたしましょう!!!」」」


アイカ「……え、何で、第88話?」


ミルクのお時間♡「おや、知らないのかい? JV44の前身が、やはり実在のアドルフ=ガランドが中隊長をやっていた、JV88だからだよ」


アイカ「──結局、最後の最後まで、『ミリオタ』ネタかよ⁉」

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