第38話、わたくし、第二次世界大戦中のドイツ空軍機、ヒャッホーですの。

 ホワンロン王国南方、砂漠地帯上空、深夜0時。


『──目標ジェット無人機、ブレーメン・レーダーにて捕捉!』


『──了解。試作機、切り離しにかかれ』


『──試作機、切り離し準備!』


『──時速400㎞突破、量子魔導クォンタムマジックラムジェットエンジン、点火!』


『「ヒロイン」さん、聞こえる? エンジンの吸入口に、高速気流が流入するのをイメージして』


「了解。後それから、『ヒロイン』はやめて頂戴」


『了解了解。「エースパイロット」さん?』


「『エース』は余計よ、私にはまだ、実戦経験は無いんだから。──量子魔導クォンタムマジックラムジェットエンジン、点火確認!」


『──量子魔導クォンタムマジックラムジェットエンジン、始動確認! これより、母機Ju88から、試作機の切り離しにかかる!』


『あら、「エース」の称号なんて、すぐ獲得できるわよ?』


『──量子魔導クォンタムマジックラムジェットエンジン、最大出力フルスロットル!』




『だって、その試作機こそ、我がホワンロン王国量子魔導クォンタムマジック技術陣の最高傑作であり、現時点のこの世界においては、いかなる航空魔導器や飛翔型モンスターよりも、高速高性能の新兵器なのですもの』




『──試作量子魔導クォンタムマジックラムジェット全翼戦闘爆撃機、Ho229、全速発進!」』




『それでは、模擬空戦の、本格的始まりね。グッドラ〜ック!』




「こちら、Ho229。目標無人ジェット標的機、Me262B2を、肉眼で確認。これより攻撃に移行──って、うわっ⁉」


『こらこら、油断しないの。ちゃんと常に機体の姿勢制御に、魔導力を注入していないと、すぐに操縦不能になって、墜落してしまうわよ?』


「何でこの試作機、何もしないうちに、やたらと機体がふらつくのよ? 欠陥機?」


『全翼機は読んで字のごとく、主翼だけでできていて、胴体に当たる部分どころか、同じ翼である尾翼すら存在しないでしょう? 普通飛行機というものは、尾翼が無いとまっすぐ飛ぶことができず、操縦不能になって墜落してしまうの』


「駄目じゃん! どうしてこの試作機には、飛行機にとって必要不可欠な、尾翼がついていないのよ⁉」


『それだけ全翼機であることに、多大なるメリットがあるってことよ。尾翼が姿勢制御に役立っているということは、それだけ物理的に『抵抗』となっているわけで、尾翼を取っ払ってしまえば、それだけより高速で長時間飛行できることになるの」


「だからって、その結果、飛行状態が不安定になったんじゃ、本末転倒でしょうが⁉」


『いっそのこと、姿勢制御については、別の技術で補えばいいのよ』


「別の技術って?」


『「ゲンダイニッポン」レベルであれば、いわゆる「コンピュータ技術」ね。まさしく「フライ・バイ・ワイヤ」の登場こそが、全翼機の実用化を促したと言っても、過言では無いわ』


「だったらこの機にも、その『フライ・バイ・ワイヤ』とかいうコンピュータを、搭載すればいいじゃない⁉」


『だから「ゲンダイニッポンレベル」って、言ったでしょう? せいぜいが「チュウセイよーろっぱレベル」のこの世界じゃ、コンピュータの実現なんて、端から無理な話なのよ。──実を言うとね、まさしくそれこそが、貴女がその試作機のテストパイロットに選ばれた、最大の理由だったりするわけ』


「へ? 何で現在の技術ではコンピュータが実現不可能なのと、私がパイロットになるのとが、関係するのよ?」




『その機体はね、操縦系統を始めすべてが、貴女に合わせてカスタマイズされている、特別製なの。──そう。貴女の魔導力によって、あたかも貴女自身の手足であるかのようにして、自由自在に動かせるようにね』




「な、何ですってえ?」


『貴女って、まだ十代半ばの女の子に過ぎないというのに、老境ベテランの大魔導士並みの魔導力を、その小さな身体に秘めているそうね? そんなの使わなきゃ、損じゃない。──ということで、現時点の量子魔導クォンタムマジック技術の粋を集めた、この試作機が造られたってわけなの』


「で、でも私、魔導力を使えって言われても、今まで使ったことないし、よくわからないよ」


『目を閉じて、全神経を、集中させなさい』


「目を閉じろって、飛行機を操縦中に⁉」


『言ったでしょう? その機体は、貴女の手足そのものだって。それに搭載されている最新鋭のマイクロ波レーダーが、貴女の目の代わりになってくれるわ。──さあ、私を信じて、今すぐやってみなさい!』


 魔導力に関しては、ホワンロン王国においても一二を争う専門家である、『夢魔の悪役令嬢』こと『ナイトメア』女史の言に従い、私こと、この乙女ゲー的世界『わたくし、悪役令嬢ですの!』における『正統派ヒロイン』、アイカ=エロイーズ男爵令嬢は、操縦桿を握ったまま目を閉じて、意識を集中させる。


 すると、機上無線の音声が遠ざかるとともに、機首に取り付けられたブレーメン・レーダーが捉えた映像が、まるで己の肉眼を通して見ているかのように、鮮明に浮かび上がる。


「……目標の無人標的機を、捕捉。これより掃討にかかる!」


 シンプルゆえに高性能なラムジェットエンジンは、自律的に空気を流入させる機能が不完全だから、私はその時大量の空気がエンジンに流入することをイメージしつつ、己の魔導力を注ぎ込むことによって、エンジンの稼働率を跳ね上げさせる。


 目標に向かって後方よりどんどんと接近していくものの、宮廷魔導師が遠隔操縦している無人標的機のほうは、まだ当方には気づいていないようだ。

 まさしくこれぞ全翼機ならではの長所の代表格である、『ステルス性』の賜物であった。


 そうして今回の模擬空中戦は、我がHo229試作機側の圧勝で終わった。


 ──それも、当然であろう。


 揚力を最大限に高めるとともに、空気抵抗を最小限に抑えることのできる全翼機は、高速性と高空性と航続性に優れるので、同程度のエンジンを搭載している航空機が相手であれば、空戦を圧倒的に有利に運ぶことができるのだ。


 しかし、無人の遠隔操作機を次々に屠りながらも、私は心の中で、疑惑の念を抱き始めていたのである。


 何ゆえ、急にこのような高性能機を開発し、絶大なる魔導力を誇るとはいえ、いまだ学生に過ぎない私を、テストパイロットに選んだのかと。


 ──そう。あたかも近い将来、魔導力が高ければ、学生すらも徴兵しなければならないほどの、大きないくさでも起こり得るかのように。


   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑


ちょい悪令嬢「──というわけでございまして、『本編』に関しては、また次回をお楽しみに──って感じなんですが、……ええと、わたくしこそが真の主人公、アルテミス=ツクヨミ=セレルーナでございます。ここまでお読みになって非常に戸惑われた方も多いかと存じますが、ご安心ください。これは基本的にコメディ作品である、『わたくし、悪役令嬢ですの!』で間違いありません!」


かませ犬「……いや、そもそもどうして、いきなりこんな番外編みたいのが、挿入されることになったんだ?」


ちょい悪令嬢「すでにいろいろと画策を開始している『聖レーン転生教団』の暗躍に対して、ホワンロン王国側も別に何もやっていないわけでは無く、こうして水面下で着々と迎撃準備を整えていることを、今回からアピールしていこうという趣旨なのです」


かませ犬「あー、そういうことか」


ちょい悪令嬢「まあ、実のところを言うと、ここ最近まったく登場の機会の無かった、『正統派ヒロイン』のアイカ嬢に、見せ場を与えてやろうという意味合いも大きいですけどね」


かませ犬「またいきなり、ぶっちゃけてきたな⁉」


ちょい悪令嬢「更には、これまで散々台詞の端々にちりばめてきた、この作品のメインモチーフの一つである、『量子魔導クォンタムマジック』とはいかなるものかについて、ここいらでちょっと本格的に触れておこうという、趣旨もございましたの」


かませ犬「ああまあ、それについては、わからなくもないな。何かと話題に上がった割には、いまいち説明不足だったからな」


ちょい悪令嬢「大まかに言えば、この世界の基本的な在り方としては、古来からの魔法技術と、たびたびやって来る異世界転生者がもたらした『ゲンダイニッポン』の科学技術との、『混合ハイブリッド技術』によって成り立っております」


かませ犬「だから剣と魔法のファンタジー世界の中に、今回のようにジェット機なんかが登場したりしたわけなんだな」


ちょい悪令嬢「はい、そしてこの二つの技術の関係性も、今回述べた通りでありまして、原則的に科学技術を魔法技術で補うという形になっております」


かませ犬「この世界の『チュウセイよーろっぱレベル』の技術じゃ、『ゲンダイニッポンレベル』の最新鋭の科学技術を、完璧に再現するのは無理ってことなんだよな」


ちょい悪令嬢「今回のエピソードで言えば、『フライ・バイ・ワイヤ』や『ラムジェット』に関する技術ですね」


かませ犬「しかしアイカのやつ、とんでもない魔導力を秘めているのは知っていたけど、こんな風な活躍の場を与えられるなんて、想像だにできなかったな。なんか近未来SF小説のヒロインみたいで、かっこよかったぜ」


ちょい悪令嬢「………………」


かませ犬「うん、どうした? 急に表情を曇らせたりして」


ちょい悪令嬢「かませ犬さんには、非常に申し上げにくいことなんですが」


かませ犬「はい?」




ちょい悪令嬢「実は最初期案においては、今回のテストパイロットを演じられるのは、かませ犬さんだったのですよ」




かませ犬「………………………………は? ────って、ちょっと待て、おい⁉」


ちょい悪令嬢「何と言っても、量子魔導クォンタムマジック大国ホワンロン王国の第一王子であられるわけでしょう? 今回の試作全翼ジェット機のように、量子魔導クォンタムマジックに基づくマシンなんかには、適応性が高いとか、シンクロ率が高いとかといった、設定案もあったのです……が」


かませ犬「が?」


ちょい悪令嬢「他の作家様の作品を読んでいるうちに、『悪役令嬢』モノの恋敵役の『正統派ヒロイン』ってば、ほとんど決まって平民や下級貴族出身なのに、なぜかその身に秘めている魔力量がずば抜けて多いといったパターンばっかりだったので、『平民や下級貴族出身で、魔力量がずば抜けて多い』と来たら、『戦争物での成り上がりパターン』ということで、今回急遽彼女のほうを、新型機のテストパイロットに採用することになったのですよ」


かませ犬「──何だよ、それ⁉ せっかく俺が『かませ』ではなく、本当にメインを張れるチャンスだったのに? 例の幻と終わった『将棋の日記念作品』に引き続いて、この仕打ちは一体何なんだ? もしかして作者は、俺のことが嫌いなのか⁉」


ちょい悪令嬢「まあまあ、こういうこともありますよ。そんなに腐らずに、次の機会を待ちましょう♡」


かませ犬「自他共に認める、『主人公』のおまえが言っても、全然説得力が無いよ!」


ちょい悪令嬢「かませ犬さんが、何だか荒れているようですが、この作品はここしばらくの間は、今回のようにホワンロン王国の転生教団の魔の手に対する対抗策のあれこれと、それについての解説コーナーとを組み合わせて進めてまいりますので、読者の皆様におかれましては、どうぞよろしくお願いいたします」


かませ犬「おいっ、まだ話しは、終わっていな──」


ちょい悪令嬢「それでは、皆様、また次回お会いいたしましょう、ごきげんようー!」

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