第32話、わたくし、メリーさん。今、ハロウィンの渋谷にいるの。(その1)
その日、俺たちホワンロン王家の三王子は、珍しく全員揃って、王立
「──そういえば、今日は『ハロウィン』だね、兄上」
「へ? いや、今日はもう、11月も中旬に入ったんじゃ……」
いかにも『ストーリーの進行上必要なネタ振り』であるかのように、何の脈略もなくいきなり王族らしからぬ庶民的話題を繰り出してきた、第二王子のクロウ=ホワンロンを訝りながらも、すぐさま突っ込みを入れてみたものの、
「あはは、それはあくまでも『ゲンダイニッポン』の話だろう? 我がホワンロン王国では、まさに今日こそが10月31日じゃないか」
「え、そうだったっけ…………あ、いや、ちょっと待て! あまりにもさも当然であるかのように言われたから、思わず流しそうになったけど、『ハロウィン』とかの、『ゲンダイニッポン』サイド特有の土着的祝祭行事なんかは、宗教系統を異にしている、この剣と魔法のファンタジー世界にとっては、あくまでも異文化だろうが⁉」
「……まったく、それこそ『ゲンダイニッポン』の山奥に住んでいる、時代に取り残されたアラフォーのおっさんでもあるまいし、今やハロウィンは我が王国にもすっかり定着していて、この週末の王都に至ってはまさしく、『ゲンダイニッポン』の『シブヤ』並みの大賑わいさ!」
「おいっ! 『ハロウィン』と『シブヤ』を掛け合わせるんじゃない! いろいろな意味で『炎上』するぞ⁉」
「もうっ、兄上ったら! 心配性なのかツッコミ体質なのかは知らないけれど、いちいち文句のつけ過ぎだよ! わかったよ、この話題はやめるよ。──そうそう、そういえばこの作品、早くもPV5000アクセスを達成したらしいよ!」
「そんな露骨なダイマ的話題転換があるか! 何だよ、PVって。それでなくてもこの作品メタ多めでお送りしているのに、いい加減にしておけよ⁉」
「でもすごいよねえ、第一話初公開から一ヶ月もたたないうちでの、5000アクセス達成だからねえ。作者にとっても新記録だってさ」
「え、その話題、引っ張るつもりなの⁉」
「ちなみに5000アクセスを超えたのは、『小説家になろう』のほうだけで、『カクヨム』のほうはいまだ100アクセス台のままで、何とその差約50倍だってさ。『カクヨム』の
「いやだから、その話、もうやめておこうよ⁉ それからどさくさに紛れて、特定のサイトのユーザー様に対して、一方的に要望を突き付けているとも見なされかねない発言は、厳に慎もうね⁉」
「いやむしろ、兄上のほうこそ、十分気をつけるべきだと思うよ?」
「へ? 気をつけろって、何で」
「だってあの作者が、こんな絶好なチャンスに、何もしないわけがないじゃないか?」
──うわあ、た、確かに、嫌な予感しかしねえええええええっ!
「何だ? 一体何をやるつもりなんだ、あのアホ作者⁉」
「うん、きっと、碌でもないことだろうし──」
「だろうし?」
「少なくとも兄上は、間違いなく、酷い目に遭わされると思うよ?」
──ひ、否定、できねええええええええ!
「くそっ、こんな不吉な騎士団室に、これ以上いられるか! 俺は
「あっ、兄上⁉」
何だかこれがミステリィ小説だったら完全に『死亡フラグ』みたいなことを言いながら、俺が学生騎士団室から立ち去ろうとした、
──まさに、その刹那であった。
「……うん、何だ、スマホに着信か? ──しかも、音声通話だと?」
いかにもタイミングを見計らったように振動し始めた
「はい、もしもし、俺だけど」
『──あたし、メリーさん。今、この校舎の入り口にいるの』
………………………………は?
「おいっ、もしもし? あたし、メリーさんって、誰だ、おまえ? おいっ、…………くそっ、切れてやがる」
突然の電話は、やけにノイズ交じりの聞き取りにくいものであったが、間違いなく若い女──いやむしろ、幼いと言っていいほどの年の頃の娘の声音であった。
その
そしてその不安は、見事に的中したのである。
「……メリーさん、だって?」
あまりにも
「──兄上、今間違いなく、『メリーさん』って、おっしゃいましたよね⁉」
「あ、ああ、うん、そうだけど……」
何だ、一体どうしたんだ、こいつのこの慌て様は?
──はっ、まさか!
俺自身は寡聞にして知らなかったものの、実は『メリーさん』というのは異世界である『ゲンダイニッポン』における、電話に関連する怪談や都市伝説の登場人物で、こうして彼女からの電話に出てしまうと、なにがしかの異変や不幸が降りかかってくるとかの、お定まりのパターンなのではないのか?
──ふふん、面白い。
こう見えても俺様は、
怪談や都市伝説の一つや二つに、ビビってなぞおられるか!
「大丈夫だクロウ、たとえ相手が電話に関連する妖怪や怪異であろうとも、この王国古来の魔導力に『ゲンダイニッポン』最新の科学技術を掛け合わせた、
胸を張って自信満々に宣言する俺であったが、弟王子の反応は予想外のものであった。
「──違うよ! 妖怪とか怪異とか、そんなこと言っている場合じゃないんだ! ただでさえ掟破りの『悪役令嬢』
「………………………………すまん、おまえが何を言っているのか、さっぱりわからないのだが?」
「だからね、この作者ってば『悪役令嬢』だけでも、いろいろな意味でスレスレのネタばかり繰り出しているのに、この上更に最近Web小説界においても何かと話題の、『メリーさん』までも絡めてきたら、もはや誰にも手のつけられない支離滅裂な展開になるのは、目に見えていると言ってんの! ──それにそもそも、そこら中にモンスターやアンデッドがうろついている、剣と魔法のファンタジー世界の住人である僕らが、今更『ゲンダイニッポン』の妖怪だか怪異だかを、怖がる必要なんてないだろうが⁉」
…………うん、ようやく第二王子が言いたいことが、おぼろげながら理解できてきたぞ。
これまで登場してきた『悪役令嬢』だけでも、なぜかこれと言って必要性もなく『幼女属性』を持つ本作メインヒロインのアルを始めとして、俺ことホワンロン王家ルイ第一王子にとっての『パラレルワールドの分身』である、何かと思い込みの激しい『怨嗟』の念いっぱいのルイーズ=ヤンデレスキー王女や、とにかく『闘争第一』でミリオタな『
しかし焦るばかりで為す術のない俺たちを尻目に、当の『メリーさん』のほうは、刻々とこの場へと接近していたのだ。
『あたし、メリーさん。今、階段を上がっているの』
『あたし、メリーさん。今、この階に到着したの』
『あたし、メリーさん。今、廊下を歩いているの』
『──あたし、メリーさん。今、この部屋の前にいるの』
「おいおい、とうとうここまでたどり着いたみたいじゃないか? 『ゲンダイニッポン』における都市伝説だかフォークロアだかでは、これからどうなるんだ⁉」
恐怖心をごまかすために、努めていつもと変わらぬ調子で尋ねてみたものの、身体の震えは抑えることはできなかった。
「電話を受けていた人物が勇気を振り絞って、部屋の扉を開けて様子を窺うものの、そこには誰もおらずホッと一安心した、まさにその瞬間を狙って──
「あたし、メリーさん。今、あなたの後ろにいるの」
──と、最後だけ肉声で、すぐ真後ろから聞こえてくるってのが、定番なんだよ」
「本当に怖いな、おいっ! それにおまえもいちいち溜を置いたり声色を変えたりすんなよ、ちびりそうなったじゃないか⁉ ……そ、それで、その後、どうなるんだ? やはり後ろから、包丁とかナイフとかで、グサッといったりして?」
「さあ、その後どうなるのかは、明らかにされていなんだ。──もしかしたら、実は可愛いのは名前と声だけで、真の正体はガチムチの大男だったりして、兄上のような優男のバックを巧みにとるや、力ずくで組み伏せて、兄上の『後ろの初めて』を奪い取るとか……」
「それはそれで、別な意味で怖いな!
そんな馬鹿げたことを言い合っていた、
──音も無く、ゆっくりと開いていく、団室の扉。
果たしてそこにたたずんでいたのは、一人の少女──いや、むしろ『幼女』とも称すべき、いまだ年の頃十歳ほどの女の子であった。
「…………アル?」
まさにその、あたかも月の雫のごとき銀白色の長い髪の毛に縁取られた端麗なる小顔の中で煌めいている、まるで夜空の満月そのものの
けれども、その性的に未分化な小柄で華奢な肢体を包み込んでいる白のワンピースや、顔や手足を始め身体中の至る所が、汚れと垢まみれであるところも、そして何よりもすべての感情が拭い去られた顔に、光沢と焦点とが失われたいわゆる『レイプ目』そのものとなっている瞳も、とても高貴なる公爵令嬢には見えず、あたかも『捨てられた人形』すらも彷彿とさせた。
そう。まさに『メリーさん』の伝承、そのままに。
そんなことを思い巡らせながら、ただ呆然と突っ立っているばかりの俺たちの目と鼻の先で、少女の鮮血のごとき深紅の唇が、おもむろに開かれていく。
「……
──それはまるで、地獄の亡者たちの怨嗟のつぶやきそのままの、地の底を這うかのような声音であった。
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