第31話、わたくし、『ちょい悪令嬢』になりましたの。【悪役令嬢バトルロイヤル編反省会】(その5)

ちょい悪令嬢「──はいっ、前回はいきなり通常形態パターンのエピソードが挟み込まれて、驚かれた読者様もおられるでしょうが、実は今回のイントロにする予定だったところ、Web小説史上初とも言っていい『逆TS』化によるガチ百合ストーリーであることに、つい作者が必要以上にノリノリになったために、丸々一話分まで字数が超過してしまったので、いっそのこと独立したエピソードにすることとした次第でありまして、よって今回はイントロ無しでいきなり、毎度お馴染みの量子魔導クォンタムマジックチャットルームより愛を込めて、【悪役令嬢バトルロイヤル反省会】を始めることにいたしますわ! アー・ユー・レディ?」


かませ犬「……おまえこそ、初っぱなから、何でそうもノリノリなんだよ? それって本当に、『悪役令嬢』のノリとして大丈夫OKなのか?」


ちょい悪令嬢「かませキャラが何か申しておりますが、当然無視スルー! それでは、コメンテーター役の夢魔サキュバスですの〜とさん、本日もよろしくお願いいたします!」


夢魔サキュバスですの〜と「ええ、こちらこそ、よろしくね!」


かませ犬「──おいっ、いくら何でも、ボイスチャットやってて、無視スルーはないだろうが? 何かここ最近になって、俺に対する扱いが、どんどんとぞんざいになっているんじゃないのか⁉」


メイ道「……ったく、面倒な」


真王子様「構ったら構ったで、『いじりはやめてくれ』なんて、言うくせにな」


ジミー「何せ赤ちゃんの頃からわがままいっぱいに、文字通りの『王子様』扱いをされてきたからねえ」


妹プリンセス「わたくしたちもせいぜい反面教師として、我が身を振り返らないとね」


かませ犬「──だから何で、ちょっと至極当然なクレームをつけただけで、袋叩きにあってしまうの? もしかして、みんな俺のこと、嫌いなの⁉」






かませ犬以外の全員「「「………………え、今更⁉」」」






かませ犬「────うわああああああああああああああああん!」






ちょい悪令嬢「──イエイッ! かませ犬さんがショックのあまり、量子魔導クォンタムマジックチャットルームの片隅で、体育座りしてうずくまってしまいましたが、それはそれとして、メインイベントである解説コーナーのほうも、どんどんと進めて参りますよ! ──さて、実は今回も、素敵なゲストの方にお越しいただいております! それではどうぞ、ご入室してください!」




ぬるぬるダブルオー「……どうも、初めまして。前回本編の最後のほうにちらっと登場いたしました、現在縁あってホワンロン国のお偉いさんから雇われております、ヌル………ぬると、『ぬる』を二つ重ねて、『ダブルオー』と申します」




かませ犬「────ちょっと、待てえええええええええええい‼」




ちょい悪令嬢「あ、復活した」


メイ道「な、何ですか、いきなり?」


真王子様「こいつ、ちゃんと落ち着いて、落ち込んでいることもできないのか?」


ジミー「何か、変な病気じゃないの?」


妹プリンセス「……一応家族として、恥ずかしい限りね」


夢魔サキュバスですの〜と「私すっかり、『王子様』というものに、幻滅しちゃった」




かませ犬「相変わらず安定の、フルボッコだな、おい⁉ ──いや、そんなことよりも! いいのかおまえら、本当に? この人前回に登場していた、超凄腕の暗殺者兼潜入工作員だろうが⁉」




ちょい悪令嬢「……あちゃあ」


メイ道「言っちゃったよ」


真王子様「いきなり、初対面の相手の個人情報を、暴露する……だと?」


ジミー「ネチケット違反の、最たるものじゃない」


妹プリンセス「……もう私、お兄ちゃんの妹、やめるう!(あまりの出来事に、突然の幼児化)」


夢魔サキュバスですの〜と「私すっかり、『王子様』というものに、幻滅しちゃった(二度目)」




かませ犬「──いやだから、そういうことでなくてな、基本的にここにいるメンバーって、ホワンロン王国においても、トップ中のトップじゃないか? そこに暗殺のプロを招き入れるなんて、羊の群れに狼を放り込むようなものだろうが⁉ 何でみんな、平気な顔をしているの?」




ぬるぬるダブルオー「……ああ、その点は、ご心配いらないかと思いますよ?」


かませ犬「──おわっ⁉ い、いきなり話しかけてこないでくださいよ、びっくりするじゃないですか?」


ぬるぬるダブルオー「それは、申し訳ない。…………ええと、『かませ犬』、さん?」


かませ犬「──ぐっ。そ、そうです、俺こそは、かませ犬でございますよ! ──それで、一体どういうことなんですか、心配いらないって?」


ぬるぬるダブルオー「だって──」


かませ犬「だって?」




ぬるぬるダブルオー「現在この量子魔導クォンタムマジックチャットルームにお集まりの方のほとんどが、私なんか足下にも及ばないほどの、非常に絶大なる『力』を、お持ちではないですか?」




かませ犬「はああああ⁉ ──い、いや、そんなことないだろう? ここに集まっているのって、身分は高いものの、いまだ年端もいかない女の子ばかりだし、たとえ身のうちに秘められた魔導力量マジックパワーが絶大であろうと、実戦の経験なんか無いわけだし」




ぬるぬるダブルオー「……実戦経験が、お有りにならない? ……ああ、そうですか、あなたは『部外者』であられるのですね」


かませ犬「へ? 『部外者』って……」


ぬるぬるダブルオー「いえ、こちらのことですので、お気になさらずに。──そんなことよりも、早く解説コーナーのほうを始めましょうよ。あまりグズグズしていると、『ゲンダイニッポン』のWeb小説的に、何だかまずいような気がしてならないのですが?」


かませ犬「そ、そうだな、俺もさっきから、どこからか『キュー急げ』が出ているような、気がしてならなかったりなんかして。俺の疑問はいったんさておくとして、コーナーのほうをそろそろ始めるとするか」


ちょい悪令嬢「──はいっ、話のほうも一応ついたいうことで、本日の解説コーナー、ようやく始まりです! 今回は前回とは打って変わって、夢魔サキュバスですの〜とさんに聞き手に回っていただいて、本格的な『死に戻りセーブ・アンド・リロード』のチート持ちであられると噂されておられる、ぬるぬるダブルオーさんご本人に、詳しいお話をうかがっていくといった趣旨でございます! では夢魔サキュバスですの〜とさん、早速お願いいたします!」


夢魔サキュバスですの〜と「はい、わかりました。それではいきなりですが、単刀直入にうかがいましょう。──ぬるぬるダブルオーさん、あなたは本当に、『死に戻りセーブ・アンド・リロード』のチートをお持ちなんですか?」


ぬるぬるダブルオー「……う〜ん、それがですねえ、自分でもよくわからないんですよ」


夢魔サキュバスですの〜と「と、おっしゃいますと?」


ぬるぬるダブルオー「まず確認しておきたいのですが、あなた方が言われる『死に戻りセーブ・アンド・リロード』のチートというのは、具体的にはどういったものなのでしょうか? 例のメツボシ帝国における『転生者』たちによる、実質上の無限『再転生』パターンとは違うんですよね?」


夢魔サキュバスですの〜と「ええ、あれとは違って、ズバリ『ゲンダイニッポン』における超有名なWeb小説等において見受けられる、ただ単に主人公が何度も生き返るやつではなく、主人公が文字通り『死から戻って甦る』とともに、世界そのものをやり直せるやつです。──つまりあなたにうかがいたいのは、端的に申せば、『あなたご自身には、何度も世界そのものをやり直した、ご記憶がお有りですか?』ということになるのです」


ぬるぬるダブルオー「…………う〜ん」


夢魔サキュバスですの〜と「おや、ご自分のことなのに、おわかりにならないわけで?」


ぬるぬるダブルオー「……それがですねえ」


夢魔サキュバスですの〜と「はい」


ぬるぬるダブルオー「確かに、そういったことを経験したような記憶も、おぼろげにあるんですが、自分自身で経験したと言うよりは、いわゆる『夢の記憶』と言うか、本とか映画とかで見た『創作物フィクションの記憶』みたいにしか、どうしても思えないんですよねえ……」


夢魔サキュバスですの〜と「……ふうん、やっぱり、そうかあ」


ぬるぬるダブルオー「やっぱり、とおっしゃられますと?」


夢魔サキュバスですの〜と「もしかして、『死に戻りセーブ・アンド・リロード』の記憶──つまりは、ご自分が『死にそうなピンチに陥る』記憶って、普段の日常生活においてはあまり覚えていないとか?」


ぬるぬるダブルオー「ああ、はい、実はそうなんです」




夢魔サキュバスですの〜と「──それで、現実にピンチに陥ったときには、それと同じような、『自ら死傷して任務にしくじる』パターンの──すなわち、『死にパターン』の記憶が、不意に思い起こされるんじゃないんですの? ──それこそ実際に、かのようにして」




ぬるぬるダブルオー「──!」


夢魔サキュバスですの〜と「どうですの?」


ぬるぬるダブルオー「……驚いた、まったくその通りです」


夢魔サキュバスですの〜と「ちなみにそれは、実際に時だけですか?」


ぬるぬるダブルオー「あ、いいえ、常日頃からも、それほど明確な記憶ではなく、それこそ『虫の知らせ』のようなことが、たびたびあります」


夢魔サキュバスですの〜と「ほう、例えば、どのような?」


ぬるぬるダブルオー「何かをやろうとした時、何となく嫌な予感がした場合、それに従って適切な行動をとることで、ちょっとした難を逃れられたことが、ままあります。──酷いにのになると、先程申しましたように、以前に同じことを体験したかのように、脳裏に明確な映像ビジョンが浮かぶことすらあります」


夢魔サキュバスですの〜と「ふむふむ、思った通りですね」


ぬるぬるダブルオー「えっ、思った通りですって?」




夢魔サキュバスですの〜と「あなたの『死に戻りセーブ・アンド・リロード』的なお力は、実際に臨死体験をするととも世界そのものをもやり直しているといった、超自然的なものではなく、『ゲンダイニッポン』の量子論や集合的無意識論に則れば十分現実的にあり得る、『不幸な未来限定の予知能力』なのですよ」




ぬるぬるダブルオー「わ、私の能力スキルが、予知能力? しかも、不幸な未来限定の? それに、実際には、世界そのもののやり直し──つまりは、ループなんて、行っていないって……」


夢魔サキュバスですの〜と「だって、あなたのご記憶自体が、ループなんて行っていないと、認められているんでしょう?」


ぬるぬるダブルオー「え、ええ。何となくデジャヴ感があったりするだけで、明確な体験としての記憶なんかじゃないです。──いや、それにしても、未来予知ですか? 実を申しますと、そちらに関しても、あまり実感が無いのですが……」


夢魔サキュバスですの〜と「うふふふふ、『未来予知』なんて言ったのは、あなたにもわかりやすくするように、わざとオーバーな言い方をしただけなんですよ」


ぬるぬるダブルオー「えっ、それって、どういう……」


夢魔サキュバスですの〜と「あなたのこの『スキル』は、生まれつきのものなのか、それとも暗殺や潜入工作等の危険な任務をこなしているうちに、自ずと身についたものかはわかりませんが、まさしく真に理想的な未来予知能力である、『リスク察知』能力なのでございます」


ぬるぬるダブルオー「……リスク察知、ですか?」


夢魔サキュバスですの〜と「前回の反省会でも申しましたが、何の変哲もない極普通の人間であろうと、集合的無意識にアクセスすることさえできれば、まさしくこの現実世界を含むありとあらゆる世界の──現在過去未来を問わぬありとあらゆる時制の──人類を始めとするありとあらゆる存在の──『記憶と知識』にアクセスすることができるようになるわけで、無限に存在し得る『未来の可能性』をすべて知り得ることになり、あくまでも原理上は『真に完璧な未来予測』が実現できるようになるはずなのですが、実はこれは二つの理由より、絶対に不可能なのです。まず一つは、まさしくたった今申しましたように、未来には無限の可能性があるので、例えば『明日の天気予報』にしたって、唯一絶対の解答をもたらすことは、全知であるはずの神様だって不可能なのです。──つまりこれは『真の全知』というものが、『明日の天気予報』に関して言えば、それぞれ実現可能性が少々異なっているものの、『晴れる可能性も雨が降る可能性も曇る可能性も、あり得ることを』ことであるのを、示唆しているわけなのです。そしてもう一つの理由は、たとえ未来の可能性が無限ではなく、ある程度限られていても、それこそ神ならぬ人の身であれば、その可能性のすべてを把握し、しかもそれを計算材料データとして予測計算処理シミュレーションすることなぞ、量子コンピュータでも持っていなければ、とても無理な話に違いありません」


ぬるぬるダブルオー「た、確かに。──それでは、たとえ集合無意識とやらとのアクセス能力を持っていようと、真に理想的な未来予測なぞ、絶対に不可能ということなのですか?」


夢魔サキュバスですの〜と「いえいえ、そこで登場するのが、先程申しました、『リスク察知能力』──すなわち、『不幸な未来限定の予知能力』なのです」


ぬるぬるダブルオー「はあ」


夢魔サキュバスですの〜と「わかりやすい例として、話を非常に簡単にしますと、要は『成功するための未来予知能力』と『失敗しないための未来予知能力』との違いってわけなんですよ」


ぬるぬるダブルオー「……『成功するため』と『失敗しないため』って、言い方を少々変えただけで、結局は同じことではないのですか?」


夢魔サキュバスですの〜と「それが、真に理想的な未来予知の実現のための、実際の計算処理シミュレーション上においては、別物と言っていいほどの差異があるのですよ。──つまりですね、先程から何度も申しましているように、未来には無限の可能性がありますので、何かしらの物事を処理する場合には、常に失敗の可能性が潜んでいるのであって、たとえある時点で『成功のための未来予知』を行ってある程度の成果を得ようと、また何か物事を行おうとした際には失敗の可能性も生じるので、またまた『成功のための未来予知』が必要になってきて、しかも無限の可能性のあり得る未来には、『成功のための未来予知が外れてしまう未来』すらあり得るので、その時点で成功への道が閉ざされてしまうこともあって、たとえそれぞれの時点で難を逃れても、失敗してしまう可能性に怯えながらも成功をし続けるしかない、終わりなき苦難の人生を歩み続けなければなりません。──まさしく『成功のための未来予知』なんてものは、人が生きていく上では、『気休め』程度のものでしかないのです。──それに比べて『失敗しないための未来予知能力』であれば、事前に失敗することを予告されるのだから、その失敗を未然に避けることはそれほど難しくはなく、しかも一度避けることができれば、その時点で失敗の可能性は無くなるので、それから以降は心安らかに過ごせるし、たとえその前途に再び失敗の未来が待ち構えていようと、『失敗しないための未来予知能力』で事前に察知することができるので、それほど苦労することなく避け得て、『成功するための未来予知能力』が完璧にうまくいった際のように、大成功ばかりのこの上なく幸福な人生は送ることができずとも、大きな失敗のないほどほどに満足な人生を送ることは可能にしてくれるのです。──さあ、あなたは、『成功するための未来予知能力』と『失敗しないための未来予知能力』との、一体どちらがお望みですか?」


ぬるぬるダブルオー「そりゃあ、『失敗しないための未来予知能力』に決まっているじゃないですか⁉ 今すぐ欲しい! どこで売っているの、それ?」


夢魔サキュバスですの〜と「──おめでとうございます♡ つまりあなたの『リスク回避』の能力スキルこそが、まさにそれなのですよ」


ぬるぬるダブルオー「──あ」


夢魔サキュバスですの〜と「言わばあなたは、『ゲンダイニッポン』の誇るユング心理学に則って申せば、常に集合的無意識との経路パスが開かれていて、いつでもありとあらゆる世界のありとあらゆる存在の、無限の『記憶と知識』を利用することができるはずなのですが、実はその能力スキルは限定されたものでしかなく、これまた『ゲンダイニッポン』の誇る量子論に則って申せば、『不幸な未来に関する記憶と知識』に限定されていて、しかもあなたが何か物事を行う際に、とても見逃すことのできない『リスク』が潜んでいる場合は、それによってあなたがしくじる『未来の体験』を映像ビジョン的に示してくれて、的確な対応をすれば難を逃れることを可能にしてくれるという、いわゆる『常時発動型の能力パッシブスキル』でもあるわけなのです」


ぬるぬるダブルオー「おお、そりゃすごい! でもどうして、こんな危険な綱渡りの人生を送ってきた、暗殺や潜入工作等の、お天道様に顔向けできない裏家業の私なんかに、そのような真に理想的な能力スキルが、もたらされることになったのでしょうか?」


夢魔サキュバスですの〜と「ふふ、むしろ危険な綱渡りの人生を送って来られたからではないでしょうか? 何せ必要に迫られれば、このような奇跡すら起こすのが、我々人間というものですからね。──まあ、具体的な理由としては、あなたは選ばれたんですよ、この現実世界を含むありとあらゆる世界を夢として見ながら眠り続けているという、いわゆる『夢の主体』なるものから、この世界における『代理人エージェント』にね。だからこそある意味夢の世界そのものとも言える、全人類の最深層の無意識の集合体である集合的無意識との、不幸な未来に関する『記憶と知識』限定のアクセス能力を獲得することになったのです」


ぬるぬるダブルオー「ありとあらゆる世界を夢として見ながら眠り続けている、『夢の主体』ですって⁉ しかも私がその代理人エージェントに選ばれたですと! ──いやいや、いくらここが元々『剣と魔法のファンタジー世界』であろうとも、あまりにも荒唐無稽すぎるのではないですか⁉」


夢魔サキュバスですの〜と「同じ人間が何度も何度も、死んだり甦ったりするだけでなく、世界そのものもやり直させるなんていう、正真正銘本物の『死に戻りセーブ・アンド・リロード』なんかよりも、よほど現実的とは思いますけどね。──それに実は、我らが『剣と魔法のファンタジー世界』とは正反対に、まさしく『完全なる現実世界』そのものである『ゲンダイニッポン』における、『将棋』と呼ばれるゲームにおいては、実際にこれと似たことが、ほぼ日常茶飯事的に行われていたりするのですよ」


ぬるぬるダブルオー「ええっ、それって、本当に⁉」


夢魔サキュバスですの〜と「はい、彼ら『将棋指し』たちは、ある一定以上の腕前になれば、ほぼ全員が己の頭の中に『脳内将棋盤』という、言わば『思考実験上の将棋盤』を有することになるのですが、この脳内将棋盤上においては常に、これからの盤面の行方──すなわちある種の未来予知が当たり前のようにして行われておるのです。しかもこの脳内将棋盤を活用するに当たって、自ら積極的に盤面を主導する『攻め将棋』に徹する場合は、あまりにも未来の選択肢が多すぎるし、しかも勝つために行っているはずの未来予測のうちには、常に『負ける未来』が潜んでいるからして、いくら脳内将棋盤を駆使しようが、『絶対の勝利』を手に入れることなぞできないのに対して、あくまでも相手の出方に合わせての防戦一方に徹する『受け将棋』であれば、『自分の負ける可能性』だけを予測計算シミュレーションすれば良く、それは『自分が勝つ可能性』なんかよりも非常に限定されているので、けして非現実なことではなく十分実現可能で、しかも『攻め将棋』に比べて確実にその時点のリスクを排除できて、かなり困難が伴うものの、最初から最後まで『ノーミス』で将棋を指すことすら絶対に不可能ではなく、『将棋は最後にミスしたほうが負け』の鉄則からすれば、『攻め将棋』なんかよりもよほど勝利の栄冠を確実のものとしてくれる、真に理想的な未来予知の在り方かつ実践手法と言えるでしょう」


ぬるぬるダブルオー「……つまり『攻め将棋』が『成功するための未来予知能力』を実践していて、『受け将棋』が『失敗しないための未来予知能力』を実践しているというわけですか。しかも私の『リスク回避能力』こそが、まさにこの真に理想的な未来予測である、『失敗しないための未来予知能力』そのものだなんて。──いや、ここまで来れば、もはや『死に戻りセーブ・アンド・リロード』なんかとはまったくの別物と言っても、過言ではないのではありませんか?」




夢魔サキュバスですの〜と「ええ、常に死と隣り合わせにある、凄腕の暗殺者にして潜入工作員のあなたが、一度も明確な死の危険に見舞われることなく、こうして無事息災でいられるのは、まさしく『ゲンダイニッポン』の某有名Web小説に記されているように、ある意味確かに『死に戻りセーブ・アンド・リロード』のチート能力スキルそのままに、無数の『別の可能性のあなた』の犠牲の上に立っているようなものなのですが、それは別に本当に無限ループそのままに、『無限の己の死を伴う世界のやり直し』を経験したわけではなく、集合無意識から与えられた『記憶と知識』を計算材料データにして、あなたの頭の中だけでシミュレーションされた、いわゆる『仮想現実ヴァーチャルリアリティ』であるようなものなんですよ」

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