第26話、わたくし、『ちょい悪令嬢』になりましたの。【悪役令嬢バトルロイヤル編反省会】(その1)

メイ道「──それではこれより、第一回【悪役令嬢バトルロイヤル編】反省会を行います!」


ちょい悪令嬢「…………」


メイ道「あ、あれ? あの、お嬢──っと、違った、『ちょい悪令嬢』さん?」


ちょい悪令嬢「……………………」


メイ道「ど、どうなさったのですか? 瞳からハイライトが失われているんですけど⁉」


かませ犬「……おい、そっとしておいてやれよ」


メイ道「え、かませ犬さん、何かご存じなのですか?」


かませ犬「知っているも何も、前回のやつだよ、今日の正午に上げたばかりの、【悪役令嬢バトルロイヤル編】の最終話」


メイ道「も、もしかして、それって──」




かませ犬「そう、主役でメインヒロインであるはずの、こいつの出番が、やつだ」




ちょい悪令嬢「──うがあああああああああああっ‼」




かませ犬「お、おい⁉」


メイ道「お嬢様⁉」


ちょい悪令嬢「一体何なのですか、あの【悪役令嬢バトルロイヤル編】は⁉ 最初は【魅惑の悪役令嬢教師編♡】のはずだったのに、いつの間にか軒下を貸したら母屋を乗っ取って! 一応セオリー通りに、主役にしてメインヒロインであるわたくしのライバルとなるであろう、敵役のミリオタ悪役令嬢をメインにあれこれやっていて、わたくしの出番がめっきり少なくなりながらも、『……ああ、最後の最後にわたくしが登場して、派手なバトルを展開して、最後はお互いに理解し合って、感動の握手を交わして、ハッピーエンドで終わるに違いないわ』と思って、ずっと我慢していたら、何でいきなり最終話で、いかにも『強キャラ』な新たなる悪役令嬢が登場して、まさしく主人公でメインヒロインであるかのように大活躍して、ライバルの悪役令嬢を完璧に倒してしまって、しかもどちらかと言うバッドエンドで終わってしまいますの⁉ 何から何までおかしいではありませんか! というか、一番おかしいのは、主役にしてメインヒロインであるわたくしの出番が、前回と前々回において、まったく無かったことですわ! ──そう、もはや、私は必要ないものと、太鼓判を押されてしまったようなものなのです! 私は、いらない子なのです! いらない悪役令嬢なのです‼」


メイ道「ちょっと、ちょい悪令嬢さん⁉」


かませ犬「いかん、壊れてしまったか⁉」


メイ道「馬鹿なこと言ってんじゃありませんよ! 去勢しますよ、この駄犬!」


かませ犬「酷い! ……ああ、ええと、別に全然登場しなかったわけではないじゃないか?」


ちょい悪令嬢「ふえ?」


かませ犬「前回も、ちゃんと登場していたぜ? ………………名前だけは」


ちょい悪令嬢「うわああああああんっ」


メイ道「てめえ、こら、かませ王子! 何余計なこと、言っていやがんだよ⁉」


かませ犬「す、すまん──って! いてっ、いたいっ、いたいって! 本気でヤクザキックをするんじゃないよ⁉」


ちょい悪令嬢「……くすんくすんくすんくすん」


メイ道「おお、、よしよし。駄犬王子は、成敗しましたからねえ〜」


ちょい悪令嬢「………………………………わよね」


メイ道「え? 何ですか、お嬢様」


ちょい悪令嬢「…………………いい、わよね」


メイ道「──は?」




ちょい悪令嬢「、いいわよね。なんか【悪役令嬢バトルロイヤル編】のラストに、いきなり登場したかと思ったら、それまでの『強キャラ』だったナイトメアさんなんかよりも、もっと『ラスボス感』を出して、いかにも伏線的に、謎の超常的力で、あっさりとすべての問題を解決してしまって。……もしかしてわたくしが主役にしてメインヒロインだなんて言うのは、単なるブラフで、実はわたくしこそが『かませ犬』的キャラに過ぎず、あなたこそが真の主役にしてメインヒロインだったりするなんてことになっているんじゃないでしょうね?」




メイ道「……ええと、そんなことはありませんよ? 主役にしてメインヒロインなのはあくまでも、お嬢様ですよ?」


ちょい悪令嬢「何で、疑問形なんですの? ……やっぱり」


メイ道「ち、違いますって! もっと私を──いえ、ご自分を、お信じなさってください!」


ちょい悪令嬢「そんなこと、口先だけなら、いくらでも言えますわ!」


メイ道「だったら、どうしろと⁉」


ちょい悪令嬢「あの前回のエピソードの、どこをどうとれば、わたくしこそが主役にしてメインヒロインになるのか、ちゃんと論理的に解説してご覧なさいな」


メイ道「──うっ」


ちょい悪令嬢「ほうら、やっぱり!」


メイ道「い、いや、そうじゃないんですってば! その辺のことを、今の段階で詳細に説明したら、壮大なネタバレになってしまうんですよ!」


ちょい悪令嬢「何です、それくらい! あなたは私とネタバレの、どっちが大切なのですの⁉」


メイ道「そ、それは、もちろん…………いや、でも…………」


かませ犬「こらこら、真剣に悩まない。ちょい悪令嬢も、『ゲンダイニッポン』のワーカホリックのサラリーマンの、最近欲求不満気味の奥さんじゃないんだから」


ちょい悪令嬢「だ、だってえ……」


かませ犬「だってもへちまもねえ! それより、そろそろ『ゲスト紹介』に移るぞ、一体いつまでお待たせするつもりなんだ? 先方さんに失礼だろうが!」


ちょい悪令嬢「え、ゲストって……」


メイ道「何か、嫌な、予感が──」


かませ犬「では、我が『量子魔導クォンタムマジックチャットルーム』に入室していただきましょう! 本日のゲストは、この方です!」




あか睡精サキュバス「──どうも、悪夢の具現、ナイトメ──もとい。三倍速で眠って、睡眠不足解消! ──が、キャッチフレーズの、『紅い睡精』でございますわ♡」




ちょい悪令嬢「──ぎゃあああああああああああっ‼」




メイ道「お嬢様⁉」


かませ犬「またかよ⁉」


紅い睡精「えっ、えっ、いかがなされたのです、この方⁉」


ちょい悪令嬢「………………………………殺して、やる」


紅い睡精「ええっ⁉」


ちょい悪令嬢「殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる」


紅い睡精「な、何なんですの、一体⁉」(涙目)


メイ道「ああっ、お嬢様が、『旧劇場版』のア○カ嬢みたいに!」


かませ犬「──すぐにやめさせろ! いろいろとまずいから」


ちょい悪令嬢「嫌っ、放して! ──どいて、お兄ちゃん、そいつ、殺せない!」


かませ犬「誰が、お兄ちゃんだ⁉」


メイ道「メインヒロインのヤンデレ化を、まさかこんな番外編的ギャグコーナーで披露しなくても……」


紅い睡精「──えっ、この方、メインヒロインですの⁉」


メイ道「え、ええ……」


かませ犬「あ、うん……」


ちょい悪令嬢「何ですの? わたくしがメインヒロインであることに、何か不審な点がお有りとでも? ──それから、メイとルイ王子、なんで目を背けながら、いかにも気まずそうに相づちを打つのです?」


紅い睡精「……そうですか、あなたが、あの」


ちょい悪令嬢「だから一体、何ですの?」


紅い睡精「あ、いえ、だったら、お伝えしておいた方が、よろしいですね」


ちょい悪令嬢「はあ?」




紅い睡精「──実は前回において、私のような初登場キャラが、急に主役であるように振る舞ったのには、ちゃんと理由があるのです」




ちょい悪令嬢「な、何ですってえ⁉」


かませ犬「……いや、そりゃあ、理由ぐらいあるだろう。それを確かめずに、勝手に落ち込んでいるほうが悪い」


メイ道「だから、余計なことは言うなと、言っているだろうが? このカマ王子!」


かませ犬「『かませ犬』&『王子』を、なんか嫌な略の仕方された⁉」


メイ道「──それで、その理由とは?」


紅い睡精「何言っているのよ、ええと、『メイ道』さん。あなたにも、大きく関係している話なのに」


メイ道「えっ」


ちょい悪令嬢「…………………やっぱり」


メイ道「やっぱりって、違いますよ! 私は無実………………って、だから、瞳からハイライトが消えていますってば! 怖っ!」


紅い睡精「だ、大丈夫ですの?」


メイ道「いいからあなたは早く、詳細のご説明をなさってください!」


紅い睡精「あ、はい。──それではですねえ、前回のエピソードが何であんないきなり新キャラ投入──と言ってもわたくしのことなんですけど──になったかと申しますと、それはひとえに、メイさんの固有能力スキルである『作者』が、あまりにも無敵すぎるのが、悪かったのですよ」


ちょい悪令嬢「はあ? 無敵なのが悪かったって……」


紅い睡精「だって前回を見ていただければおわかりのように、最初からメイさんだけを投入していたら、そりゃあ簡単に帝国軍を降し、すべての問題をあっさりと解決できていたでしょうけど、まさしくあまりにも簡単すぎるから、困るのですよ」


ちょい悪令嬢「……ええとそれって、もしかして『メタ』的な話? ストーリー的に、あまりにも問題があっさりと解決してしまっては、話にならないとか何とかって」


紅い睡精「まあ、そういうこともあるでしょうけど、それよりも帝国や、それからついでに他の周辺諸国に対する、より効果的な『見せしめ』や『威嚇』のためでもあるのですの」


ちょい悪令嬢「み、見せしめや威嚇って……」


紅い睡精「今回私は女王様の要請で、どの国にも所属していない、野良フリーの強大な力を持つ魔的存在として行動していたのであり、まさしくその『強大な力』をできるだけ強大に見せることで、周辺諸国に魔的存在に対する危機感を募らせて、人間の国家同士による争いをできるだけ抑制して、むしろ人間の国家同士の結びつきを強めるように仕向けていたわけなの。──それなのに、前回メイさんがやったように、何か魔導書を装った量子魔導クォンタムマジックタブレットPCに、何事か一言二言ほど記述するだけで、世界そのものを書き換えて見せたところで、誰もそれに気づかなかったとしたら、何の意味も無いってことなのよ」


ちょい悪令嬢「た、確かに、もしもこの世界そのものが、実は小説だとしたら、その『作者』としての力こそ、至高のチートであり、できないことなぞ何も無くなるでしょうが、強大であればあるほどその力は、凡人には理解できなくなり、皮肉なことにも、その力が『強大』であること自体を、わかってはもらえないままとなる、ということなのですね。──ところで、そもそも『作者』としての力って、どのようなことがおできになるわけなのですか? 例えば現在の目の前の出来事をほぼリアルタイムに記述している小説が存在しているとして、そこに適当に『黄金の延べ棒が欲しい』などと記述するだけで、黄金の延べ棒を山ほど手にすることになったり、はたまた目の前に巨大なドラゴンがいる場合には、小説の該当箇所を削除することで、ドラゴン本体すらも消し去ってしまうこととかが、おできになるのでしょうか?」


紅い睡精「まさかあ、この世には『質量保存の法則』というのがあるからして、突然今まで存在しなかったものが湧き出たり、また逆に、すでに存在している物が消滅したりすることはなく、ひいてはあらゆる意味で世界を改変することぞ、絶対に不可能なのよ」


ちょい悪令嬢「だったら『作者』って、一体何ができるわけなのですの⁉」


紅い睡精「そりゃあ、『作者』と言うからには、基本的に『何でもできる』わよ。──ただし、『精神的改変』に限定されるけどね」


ちょい悪令嬢「精神的な、世界の改変、ですって? 何です、それ」


紅い睡精「う〜ん、一言で言ってしまえば、対象に『新たに何らかの記憶や知識を植え付ける』か、あるいは反対に『記憶や知識を奪う』の二つですかねえ」


ちょい悪令嬢「はあ、そんなことでよろしいのですの?」


紅い睡精「ええ、実はこれは、前回のエピソードの例で言えば、帝国人を集合的無意識に強制的にアクセスさせることで、『転生者の憑依状態』を創出したり、またそれとは逆に、集合的無意識への強制的なアクセス状態をいきなり一方的に遮断することで、帝国軍の兵士たちの『転生者の憑依状態』を解除したことに当たるわけなのよ」


ちょい悪令嬢「ちょ、ちょっと待って! それじゃまるで、異世界転生や異世界転移の類いは、別に現代日本から人の肉体はもちろん精神体すらも、実際に転移するわけではなく、あくまでも生粋の異世界人が、これまでの『記憶や知識』をあっさりと奪われたり、そうかと思えば、まったく事実無根の『記憶や知識』を与えられているようなものじゃないですの⁉」




紅い睡精「ええ、そうよ。詳しい話はまた次回において、『転生者と死に戻りセーブ・アンド・リロード』との関係を論点の中心に据えてお送りしていく所存ですので、どなた様もどうぞご期待なさってください!」

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