1-9
「あのぅ・・・」
「黙れ。何も聞くな」
「・・・」
横暴だ。性格の所為で美貌が霞んでいる。
沙也加はリビングのソファに雑に投げられたまま、手持ち無沙汰に部屋を見回していた。三十帖はありそうなリビングには大きなソファとテーブルと壁に掛けられた大きなテレビに、書類の積まれたデスクと後ろには難しそうな本がズラッと並んでいた。リビングとは言ってみたものの、なんだか社長室にいるようで落ち着かなかった。
当の本人はデスクに向かってキーボードを叩き、沙也加の存在など忘れてしまっている様だった。しなやかに動く指は休むことなく、きっと仕事もかなりのやり手なんだろうなと他人事の様に思った。
___今なら逃げられるかもしれない。イケメンのヒモになれるのは嬉しいけれど、自由が無ければ死んでいるのと同じだ。
そっとソファから立ち上がり貴臣を確認すると、視線は書類とパソコンを行き来しているだけで気付いていない。沙也加は全神経をつま先に集中して足を踏み出した。
「__なんだ?」
「おっと?!」
急に声をかけられてつんのめりそうになりながら振り返ると、真後ろに貴臣が立っていた。
「泥棒みたいだぞ。さっきからきょろきょろと、何かいいものが見つかったか?」
さっきまでデスクに座っていたはずなのに・・・、よっぽど貴臣の方が泥棒の素質があると思った。
「の、喉が渇いたなあなんて? あ! あんなところに冷蔵庫がぁ! いやぁ、見つかってよかった。干からびるかと___」
「・・・」
咄嗟に変な言い訳をしてしまって激しく後悔した。あからさまに貴臣と距離をとるように冷蔵庫にすり寄って、あろうことかそのまま冷蔵庫を撫でまわしてしまうだなんて。貴臣の方を恐る恐る確認すると、綺麗な顔が真っ直ぐこちらを見ており視線が冷たく痛い。
「く・・・、ははは。おまっ・・・、変な奴だな」
途端にダムが崩壊したかの様に貴臣が口元をおさえて笑い出した。先程までの妖艶な雰囲気とは裏腹に、目じりに皺を寄せて笑う姿は無邪気に見えた。
逆に沙也加は呆気に取られて口をぽかんと開けていた。それに気付いた貴臣はぴたりと無表情に戻った。そのままズカズカと寄ってきた貴臣にソファの方に投げられて、振り返った時には貴臣の背中が扉の向こうに消えてしまうところだった。
「・・・そこに座っていろ」
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