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 しっとりとした艶感のある黒髪が揺れて、前髪の隙間から切れ長の瞳がこちらを見下ろしていた。パーマのかかった長めの髪はセンターで分けられ、貴臣の色気を際立たせている。猫のような瞳は奥二重で、スッとした鼻筋は外国人かと疑ってしまう程だった。


「そう、見惚れるな」


 貴臣の薄い唇が悪戯に弧を描いた。その笑みは彫刻にして美術館に飾るべきだと、声を大にして言いたくなる程に貴臣は美しかった。


「えっと___」


 変態の気持ち悪い男だと思っていたので、こんな人がまさかという驚きは半端なものではなかった。


 貴臣は気分を良くした様で、そのまま早足に歩みを進めた。




 沙也加は抱えられたまま無駄に広いトイレに到着し、自分がトイレに行きたかったのだと思い出した。


「馬鹿でも使い方くらいわかるだろ? ___手伝って欲しいなら、這いつくばって頼むが「けっ、結構です」


 貴臣をトイレから追い出し、急いで扉を閉めると大きな溜め息が出た。

 自分の置かれている状況が今だに把握出来ない。ストーカーがまさか、S級リッチなイケメンだったとは到底思えないのだ。


 うるさい鼓動を整えようと、白く磨き上げられた洗面台に手をついた。鏡面には普段と変わらぬ冴えない自分の顔が映しだされており、ぼさぼさの髪は今の気持ちを表現していた。頬は薄っすらと色付き、唇は少し腫れてぽってりとしている。


 仕事着を着ていたはずなのに今は、ホワイトの質感の良い高そうなシャツに変わっていた。貴臣に着替えさせられたかもしれないと思うと、不純にも心が高鳴ってしまった。相手がイケメンだと分かった瞬間から、されたこと全ての印象が変わってしまっていた。不純だと言われてもしょうがないじゃない。相手は誰もが振り向く絶世のイケメンである。


 沙也加は取り合えず用を足してはみたものの、出ていく気になれずにいた。




ドンドンドン


「おい。何時まで待たせるつもりだ」


 忙しなくドアが叩かれ、答える間もなくドアが開かれた。


「え?! 鍵は・・・」


「外からでも開く」


「・・・意味ないんですね」


「いちいちうるさい女だ。来い」


「わっ」


 貴臣は決して軽くはない沙也加の身体を、米俵の様にひょいと肩に担いだ。不安定な体勢に貴臣のシャツを咄嗟に掴むと、それが合図だったかの様に貴臣は歩き始めた。

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