1-7




「あっ」


 ぱっと離されてしまった身体が、まだ熱を欲するように貴臣を求めていた。


「どうした?」


 楽しそうな貴臣の口振りに、スッと頭が覚醒した。



「・・・ぃ」


「なんだ。はっきりと言え」


「お手洗い行きたいです」


「・・・」


「もう、我慢できません」


 沈黙から察するに、私の返答は彼の期待するものではなかったのがわかる。が、行きたいものは行きたいのだ。


「違うだろう。それは、ココの疼きであろう?」


 そう言って貴臣は沙也加の下腹部に手を伸ばし、ぐっと刺激し始めた。


「あ、っちょ、いやっ」


「ほら。お前の子宮が私を求めているんだ」


「いやあぁ、違います! これは尿意ですっ 」


「そんなはずない。ほら」


 ムキになった貴臣にぐいぐいと下腹部を刺激され、本当に出そうになってしまう。


「だめだめ、ホントに出ちゃいます!」



 火事場の馬鹿力というものであろうか。自由だった両足が貴臣の身体にクリーンヒットし、ドタタと貴臣が豪快にベッドから転げ落ちた。


「・・・」


 気まずい沈黙が訪れた。私の所為だけど、私の所為だけじゃないと思う。思いたい。


「あの、すいません」


 身体を起こす事も出来ずに、転がったまま首だけ持ち上げて謝ってみた。ベッドの下で動く音が聞こえるので、彼は生きている。



「馬鹿女が」


 怒りを含んだ低い声が聞こえた。ああ、本当に怒らせてしまったかもしれない。


 スッと影が近づいてきた。


「ごっ、ごめんなさ(カチャカチャ、カチャン)・・・え?」


 殴られるかと思ったが、貴臣は頭上で拘束を解いてくれていた。呆気に取られていると、そのままたくましい胸に抱えられた。こんなところで人生初のお姫様抱っこを経験するとは思わなかった。


 そのまま抱えられて部屋を出ると、久しぶりの明かりに思わず目を伏せる。


 目を擦りながら辺りを見回すと、まるで海外ドラマのような広いリビングが目に飛び込んできた。モノクロに統一された海外サイズの家具に、ゴミ一つ落ちていない生活感ゼロの部屋。大きな窓はスカイツリーから見ているような夜景が広がり、自分とはレベルの違う光景に目を見開いた。




「くくっ、そんなあほの子みたいな顔を・・・」


 押し殺すような笑い声が、耳のすぐ側で聞こえる。




「いや、ココなんで・・・え!?」


 初めて貴臣の顔を見た。

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