第1章 不運な幕開け
1-1
「お疲れ様でした」
「沙也加ちゃんお疲れ様。明日は休みでしょ? 何するの?」
「松尾さん、そんなの決まってるじゃないですか。ひたすら溜まった家事をして一日を潰すんですよ」
「もお、いい年齢なんだからディスコにでも行っていい男捕まえてきなさいよ。じゃあねえ」
「はははー。いいですねー・・・」
怒涛の一日が終わり、ディスコなんて古いですよーなんて一言を言うのでさえ億劫なくらい沙也加は疲れていた。
季節は秋。暑いだろうと薄手のパーカーを羽織って出た昼間とは打って変わって、帰宅時間には冷たい風が優しく吹いていた。職場から自宅までは徒歩十分圏内。高校を卒業してすぐ一人暮らしを始めた。母子家庭で一人っ子の私は、辛い家庭環境とかそういうのでは全く無い。信じられないくらいポジティブな母と、優しい祖父母に愛されて育った。
「らっしあいまーせー」
因みに今のは魔法の呪文とかではなく、コンビニの店員さんの声だ。何時ものおじさんが歌うように迎えてくれた。このコンビニを逃すと、自宅までにお店は一つも無い。何時もの安い缶酎ハイを二本取り、貝ひもとイカソーメン、あとは最近流行っているらしいサラダチキンも左腕に抱えた。
「年齢確認ボタンをお願いしまっす」
もう長くここに通っていますよ。と心の中で呟きながら[はい]ボタンを押した。
特に特徴のない典型的日本人顔の私は、仕事後の化粧よれよれ状態だと未成年に見えるのかと喜んでいた時期もあった。しかし、このおじさんは四十歳くらいのおばさんにも同じように言っていた。
袋を受け取り店を出ると、ひゅっと冷たい風が頬を撫でていった。ここからの道は街灯がポツポツあるだけの暗い道に入る。今更怖いなんて感情もなく、早くお酒が飲みたいなと思いながら速足で進んだ。
その後の記憶は無い。
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