番外編の番外編~紗々の葉先生の悩み①
「はああああああ」
私はパソコンの前でため息を吐く。どうにも、最近、スランプ気味のようだ。目の前には文字が書かれたワードの画面。カーソルがちかちかと点滅しているのが嫌でも目に入る。ワードの左下に表示された文字数は先ほどから一文字も増えていない。文字数はすでに八万字を超えていて、話は中盤から終盤に差し掛かっていた。
「どうしたんですか?そんな大きなため息を吐いて」
「お、大鷹さん、どうして私の部屋に」
確か、ドアを閉めて自分の部屋でパソコンとにらみ合っていたはずだ。それなのに、なぜ、私の夫の声が私の部屋で聞こえてくるのか。
「いや、ドアが開けっぱなしだったので、様子を覗いてみただけですよ。執筆が進まないのですか?」
「ど、どうしてそれを」
「パソコンのワード画面を睨みつけているから、そうなのかなと」
私の心の声を読んだかのように私の夫である大鷹さんが返事する。さて、今の私の心情をどうやって説明したらいいものか。とりあえず、今、自分が思っていることを素直に言葉にしてみることにした。
「ええとですね。今書いている話なんですけど、すでにあらすじは頭の中に入っているし、プロットもある程度完成しているんです。でも」
言葉にしてみると、頭の中も整理されてくるものだ。そう、私は今、あらすじもプロットもある小説に頭を悩ませていた。頭の中ではすでに物語は構成されていて、後は、パソコンに文字をひたすら入力していくだけの状況なのだ。
「ふむ」
話している途中で言葉が途切れたにも関わらず、大鷹さんは私に嫌な顔をしたりせず、何やら顎に手を当てて考え込んでいる。
「どうしても、先の展開が文字にできないんですよね。続きを楽しみにしている人も少しはいると思うので、どうにかして完結させたいとは思っているのですけど」
どうしたらいいものか。次に書きたい新作のテーマは頭の中に浮かんでは来ている。とはいえ、中途半端に執筆を止めてしまった作品をそのままにしておきたくはない。
「いっそのこと、短編などで気分転換でもしてみてはどうですか?小説を書く練習にもなりますし、次の新作のテーマを短編にしてみて、手ごたえを感じたら長編にするとかどうでしょう」
「でも、なんだかそれだと申し訳ない気がして、気が進まなくて」
「それは、今書いている小説の読者さんですか?でも、紗々さんはその小説の続きを書けなくて悩んでいるんですよね」
アドバイスをくれた大鷹さんには悪いが、それは私も考えていた。気分転換に他の小説を挙げることはよくあることだろう。それに対しての反論をすれば、痛いところをついてくる大鷹さんである。
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