第19話 放課後デートですか?
夕方の十八時。早めにバイトから上がり、店を後にしてしばらく歩いた頃。
足早に「集合場所」へ向かっていた和臣は、見知った顔に呼び止められた。
「おーっす。今上がりか?」
十年慣れ親しんだお馴染みの大男……の横、訂正、斜め下に、珍しい顔が並んでいた。
「ヒロに……白菊さん」
少女漫画研究会の村娘、素朴な三つ編み少女の白菊つかさだった。
「えっ? えっ? あ、あの」
どうやらつかさは私服の和臣が誰だかわからないらしく、あたふたと紘明の顔を見上げたり目を泳がせたりしていた。
「僕だよ。早乙女和臣」
「え……あ、あぁ⁉ ご、ごごごめんなさい! こんにちは!」
「はい、こんにちは」
普段の格好……つまり学ランでなければ女子に見えるほど可愛い和臣の姿は、つかさの目にも例外なく「見知らぬ少女」に映ったようである。つい先日は美咲に「お姉さん」と言われたし、もはや慣れたものだ。
改めて、並んだ二人に目をやる。
さながら親子のような身長差のある二人が、同じ学校の制服を着て並んでいる姿はなかなかにアンバランスである。そこまで思い立ったところで、和臣の身長もつかさと大差ないことに気づいた。同じ学ラン姿で和臣と紘明が並んでいる方がよほどアンバランスに見えるのではないかと、ここに来て再発見する。
「今日は部活だったの?」
「おう。会誌のレイアウトとか校正とか原稿のブラッシュアップとか色々。毎月、月初めの一週間に終わらす作業だっつうから、休日返上よ」
「ヒロは休日でもやること同じでしょ。いつも漫画描いてるじゃん」
「違いねぇ!」
豪快に笑う紘明の斜め下で、つかさが愛想笑い未満の表情をひくつかせながら乾ききった笑い声を漏らしていた。
和臣の記憶では、彼女は「身体の大きい男子は怖い」はずだった。
にも関わらずこうして二人で仲良く……かどうかはわからないが、並んで下校している様を見ると、つかさの彼に対する苦手意識はある程度克服されたのではないかと思われる。
それを嬉しく思いつつ、あえて口にはせずに和臣はつかさに優しく笑いかけた。つかさもその意図を汲み取ったらしく、またも笑顔未満の微妙な表情を浮かべつつ赤くなった顔を伏せる。伝言を頼まれた日にも感じたが、人の顔色をよくよく窺う分、言外の意思に聡い子のようだ。
「カズはこのまま帰りか?」
「ううん、ちょっと用事があるから」
言いつつ、学校のある方面を指差す。紘明たちが歩いてきた方向だ。
「もしかして、こないだの『元気満点主人公系魔法少女』か?」
「えっ⁉」
魔法少女、という単語に過剰反応する。まさか、変身するところを見られていたのかと肝を冷やす。
「いやーハハハ、実は先週駅前のマスドにいるとこを偶然見かけてよ。隅に置けねぇなカズ、そのうち紹介してくれ」
「あっ、そ、そうなんだ。確かに、元気満点て感じかもね、あはは……」
嫌な汗がうなじを伝い落ちる。不意に核心を突かれて必要以上に焦ったが、紘明の「趣味」を思い出し冷静な思考を取り戻す。
普段から道行く少女を魔法少女に喩えている紘明も、まさか美咲が本物の魔法少女だとは思うまい。
それにしても、隅に置けないなどという台詞、同学年の女子と並び歩きながらよくぞ宣えるものである。紘明本人はどうせ先輩に彼女を送るよう言いつけられてといったところだろうが、つかさはどうも満更ではなさそうに見えるのだ。
「うん、まぁ、その子だよ。待たせてるから、じゃあね二人とも。また休み明けに学校で」
「おう、気をつけてなー」
「さ、さよなら」
素直に白状しつつ早々に切り上げ、和臣は二人に手を振ってまた足早に歩き始めた。約束をした集合場所で待つ、元気満点主人公系魔法少女のもとへと。
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