第12話 放課後作戦会議・下
「そのあたりの話は、オレにはどうでもいいんだがな」
「よくないよ! 花だけじゃなくて、町の人達を守るのも立派な魔法少女の仕事だよ。昨日は、……間に合わなかった、けど」
昨日の発言でもちらほら引っ掛かる点はあったが、ディオネアは人間に興味がないらしい。あくまで祖国の仇として、花を枯らす怨敵としてバグを憎んでいるだけにも受け取れる。対して美咲は自分の足で情報収集し、被害を未然に防ごうとしていた。長年のパートナーのように息が合った二人だと和臣は思っていたが、それぞれに掲げる大義は異なっているのだろうか。
「バグを退治するのが二人の役目だとして……そのバグは、今どれだけいるの?」
「さぁ……数えようと思ったこともねぇな。だが、王国を取り戻すことができればいずれはバグを滅ぼすこともできるとオレは考えてる。ってのもだ、王国には……イヤ、王国跡地には今、地球上のバグどもに命令を下してる親玉みてぇな奴が存在してるらしい」
これも二ヶ月前に戦ったバグから聞いた話だ、とディオネアは付け加えた。
「配下のバグ共からたんまりかき集めたアースエナジーをその親玉野郎から奪い、さらに王国を拠点にしてエナジーを増やすことができれば、今は少ない花の軍勢も増強していける。ともかくカギは王国を奪還することってわけだ」
「じゃあ……その親玉を倒せば、戦いは終わるの?」
少しの沈黙の後、ディオネアの口が開いた。
「終わるかと言ったら確証は無ぇ。アタマ取ったからと言って、他の虫どもの空腹が収まるわけじゃねぇからな。残党狩りも必要になってくるだろう。だが、今より状況が良くなることは確かだな」
ふと顔を上げると、美咲が意外そうな顔で和臣の方を見つめていた。
「なんか好戦的だね、早乙女くん」
「そんなんじゃ……ないよ。僕は戦いなんてゴメンだし、巻き込まれるのも嫌だ。喧嘩も乱暴も大嫌いだし、自分の身を守れるほど強くもない。けど」
胸ポケットから不安そうな顔を覗かせるフローの頭に優しく人差し指を乗せる。
「僕はフローの主人になったんだ。フローが安心して過ごせる平和な毎日を、僕はこの子に作ってあげたい」
「ご主人様……」
この指先の温もりを守るために。
「美咲、ディオネア。僕にできることを教えてよ」
真っ直ぐな瞳で、美咲を見つめる。
「見た目も中身も女の子みたいだって思ってたけど……結構カッコいいとこあるじゃん。見直したよ、早乙女くん」
爽やかなスマイルで美咲が好意的な評価を下してくれた。ディオネアはしばらく口を閉じて黙っていたが、やがて真面目な声音でこう告げた。
「なら、場所を移すか。まずは変身してみろ」
「うん、わかった。変身だね……って、えええ⁉」
思わずノリツッコミ。
確かに試してはいないが、そんなこと考えるまでもなく魔法少女には変身できないはずだ。
だって、早乙女和臣は少年なのだから!
「昨日言ったろ。テメェは逸材なんだ。さっき話したようにマンドラゴラに変身するには花を愛する心が不可欠だ。和臣にはそれがある。それも、花の妖精と共鳴するどころか新たな妖精を生み出しちまうくれぇにとびきり強いのがだ」
「で、でも僕は男で……!」
「つーかテメェ自身が戦えるようになるのが、フローをバグどもから守る上で一番都合が良くて手っ取り早ぇんだよ! ガタガタ言ってんな、物は試しだ! 昨日の河原に行くぜ!」
残っていたポテトを一気に飲み込んだヘアクリップを手に取って美咲が立ち上がり、逃げられないように和臣の腕をがっちりとホールドした。
「さっ、行こ!」
「ま、待っ……」
ずるずると引きずられるようにして店を出ていく和臣の後ろ姿を、一人の大男が目撃していた。
「……あれ、カズか? 知らねぇ子と一緒だ」
御所河原紘明である。
彼の脳内で即座に「元気満点主人公系魔法少女」という単語が弾き出される。
「ご、ご、ご……」
「おっと、すまん」
「っ……」
紘明がトレーを置いた席の向かいに座っていたのは、彼と同じ学校の制服を着た黒髪おさげの少女……白菊つかさだった。
「先輩命令とはいえ、アシスタントなんかさせて悪いな。ホントにもうほとんど終わってんだ。〆切ってのが人生で初めてだったんで、追われてみたくなってよ」
つかさのトレーに遠慮がちに乗せられたサーターアンダギーとカフェオレは、紘明のおごりだった。漫画の仕上げを手伝ってくれる報酬の前金である。
「けど白菊、それだけで良かったのか? 遠慮することねぇのに」
「だ、だだ、大丈、だ、ダイエット、し、してるので」
「ふーん」
紘明が無遠慮につかさの身体、主に腹部まわりをじろじろと凝視する。それに気づいたつかさは顔を真っ赤にしながら、まるで某名画の如く胸とお腹の前に素早く両手を置いて視線を遮った。
「う、うぅ……」
「まっいいや。パパッと済ませちまおうぜ」
涙目になるつかさを完全に差し置いて、紘明はマイペースに鞄から原稿を取り出す。食べてから作業を始めると思っていたつかさは少々面食らったが、すぐに気を取り直して彼の手元に視線を寄せた。
先輩命令という大義名分のもと。
今日はこの天才から、盗める技術は全て盗んで帰ろう。
そう、これは純然たる部活動である。放課後デートなどでは、決して、断じて、天地神明に誓って、一〇〇%あり得ない……!
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