夜と灯りと走光性

マフユフミ

第1話

夜のコンビニに一人座る。


さっきから客は多少入れ替わってはいるけれど、ほとんど動きはない。


こんな中途半端な夜に、待ち合わせでもなく時間潰しでもなく、ただ行き場がないだけなんて、本当につまらないのだけれど。


でもそれが、自分という人間の全てを言い表しているのかもしれない。


思えば、こんな虚しさにとらわれるのは初めてのことではない。

自分自身の狭いワクに嫌気がさしたり、突き抜けられない弱さを実感したり、己の無力さを感じることは、これまでもたびたびあった。


それでも、今日どうしても家に居たくなくて、どこにも行きたくなくて。

静かな夜の中独りコンビニなんかに来てしまうような虚しさは、初めてなのかも知れない。


きっと、積もり積もったのだろう。


自分では思い通りにならないこと、それでも自分の力だけでなんとかしなければいけないという事実。ほんの少しの、ささやかな自分だけの喜びですら実行する余裕もなくて。


あまりのストレスに体調を崩しても、こなすべき現実は変わらない。誰かが代わってくれるわけでもないし、勝手に問題が解決するようなこともない。


それなら全力でぶつかるしかないのだけれど、ここへ来るまでにもう使い果たした気力は何をしても回復する気配もなく、今ここに至る。


いわば光を求める虫みたいなものだ。

本能だけで明るい場所に群がって。

柔らかな光の中にいたって虚しさが募るだけだけれど、コンビニのような人工的な灯りはちょうどいい。

適度に明るく、そして適度に冷たい。

干渉されることなく放っておいてくれる、無言の優しさのようなものがここにはあるのだろう。


あーあ、と思う。

何がかは分からないけれど、あーあ。


もうちょっと、頑張れる人間だったら良かったのにね。

いっぱいいっぱいになって余裕もなくて、でもそれほどいろんなことが山積みで。

それすらひょいひょい乗り越えて、何でもないように進んでいけるような人ならよかった。

でも、できない。

私にはできない。


空回りしていく私を、たくさんの人が遠目でみている。

馬鹿にしたり哀れんだり、そんなマイナスな感情ばかり意図的にか無意識にかぶつけられ。

それなのに救いだけは何一つないなんて、ほんとイヤになる。


いっそ全てを壊してしまえたらいいのに。

たくさんの傷痕を、痛まないよう大切に包み込んで。

いつか回復できる日を信じてやってきたけれど、何も伝わることはなくて

伝えられない無力さに傷ついても、それすら自分のせいにされて。


こんな毎日、もう、壊してしまえばいいのに。

何もかも真っさらにして、一から始めればいいのに。

それすら出来ない私は、たぶん弱い人間なのだろう。



目の前には甘いカフェオレ。

まろやかなミルクも甘い砂糖も、今の私を温めやしない。

ただ自分が独りであることを浮き彫りにする、虚しい小道具でしかない。


それでもそんな甘ったるいカフェオレを飲んで、せめて気持ちをリセットできるよう試みる。いつもの自分に戻れるように。

何事もなかったかのように、平然と家へ帰れるように。


結局私が頼りにできるのは、夜のコンビニと甘いカフェオレ、その二つだけだった。

その事実に気付いて、もうどうしようもなく切なくて。


きっと、誰も気付いていない。

このコンビニの店員も、まばらに訪れる客達も。

こんなに虚しさを抱えてコンビニにいる奴がいるなんて、誰も知らない。


たぶんこの虚しさは、夜の闇が埋めてくれる。

この切なさは、カフェオレが洗い流してくれる。


それでもこの体に空いた無数の穴は、決して埋まることはない。

空きっぱなしの穴から流れる血は、いつまでも止まることはない。

誰にも気付かれず、誰も知らないまま。


痛くないわけじゃない。

でも、痛いと感じることすら許されないから。

無の仮面を付けた私は、その下の表情を晒さないまま、これからも生きていくのだろう。

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夜と灯りと走光性 マフユフミ @winterday

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