第4章 交われざるモノとの刻《とき》
第1話
楽しい日々。
ただでさえ呑気に石探しの毎日のうえ、ナカさんに優しくして貰い色んなことを教えて頂き、おまけに普通ではあり得ない熊とのまったりとした時間。
その熊もただの熊では無さそうな特別な生き物…かもしれず。
しかし自分は神様の使いが、どうこうではなく、人の言葉を何と無く理解している感じが楽しくいられた理由だった。
本当に見れば見る程、人間の子供の様なポ〜。無邪気に走り回り夢中でメロンパンを食べ、時には暖かい日差しのもと居眠りをし川に落ちたりと……
すっかりポ〜も自分に対して警戒する事も無く懐いた子供の様に。
ただポ〜の親熊『ゴ〜』は、全く近寄らなかった。とはいえポ〜が人間の自分に懐いていても静観していた。
『 やはり普通の熊では無い。神様の使いの熊なら、普段は何をしているのだろう…… 何の為に存在しているのだろう…… 他の野生の熊とは、どういう関係を保っているのだろう…… 』
次々と湧く 『ポ〜』と『ゴ〜』の生態の謎。
『 神様の使いなら…… 何か特別な使命があるのではないのか? 』
そんな疑問は、ずっと持ち続けてはいたが無邪気なポ〜を見てると深く考えるより、ポ〜との時間を楽しんでいた自分だった。
ポ〜は、無邪気ではあったが声は余り発する事は無かった。一応こちらの言っている事は少しは理解している雰囲気だったが、ポ〜が発する言葉は「 ポ〜 」 とか 「 ぽっ〜〜! 」 位。「 ガオ〜〜 」とか仔犬の様な 「 キャンキャン 」などの鳴き声を発した事がなかった。
こちらが話掛けてる時は、静かに聞いている。じっと見つめながら。
その態度が、ポ〜がこちらの言葉を理解しているのでは? と思わせていた。
流石に仔犬の様に、触らせたり抱きかかえさせる事は、させてもらえなかった。
自分もそこまでしてしまうと…… と思い無理にスキンシップ的な事はとらなかった。ポ〜も触らせないのは、人間の匂いがつくのが嫌なのかもしれないし、自分もそう思っていたので敢えて控えた。
無論…… ぬいぐるみの様なポ〜なので、触りたかったし抱きかかえたい気持ちは多々あった。
唯一、メロンパンを買える日だけに大きな岩の上でポ〜と一緒に座りながらメロンパンを食べ、僅かな時間を過ごす。
大きな岩の上だけが、ポ〜との楽しい時間を過ごす場所だった。
『 ゴォーーーー! 」
ゴ〜の声が響く。
今日もポ〜との時間も終わりの合図。
ポ〜もゴ〜の声を聞き岩を後にする。
ポ〜とゴ〜が揃ってこちらを見た後、森の中に…… 。 森の中に入った途端、あっという間に姿を消す。
「 何処を寝床にしているのだろう? 大分森の奥なのかな? 不思議だなぁーー やっぱり 」
色々気になる川の上の森だが、自分はその森に踏み込む事は無かった。
ポ〜やゴ〜だけでなく、森は他の動物の住処。ヨシばあやナカさんにも言われてた事もあり、森には踏み込まないと決めていた。
「 タケ爺やナカさんのお爺さんは、色々知っていたみたいだから森の中の事も詳しいのだろうな…… 。 んーー 話を聞いてみたかったなぁーー 」
以前、聞いた
『神様の使いの熊が、瑠璃を守っている 』
という話も気になっていた。
確かにポ〜は、自分が見つけた『 瑠璃黒曜 』 の様な黒曜石を持って行ったし……
ただ、あの親子の熊がどうやって『 瑠璃 』を守っているのか。あの『 瑠璃黒曜 』を何かに使っているのか、何処に隠しているのか、集めているのか、全てが謎だった。
特にあんなに可愛いポ〜を見ていると、特別な使命を果たしている熊には見えなかったので余計、自分にとって謎だった。
……
そう…… 『 瑠璃黒曜 』
自分は、それを見つけるのが目的。
ただ、もしポ〜やゴ〜が使いの熊なら……
「 もし自分が瑠璃を見つけたら、ポ〜はどうするのだろう。持って逃げるのだろうか。だとしたら…… ポ〜の跡を追えば…… 瑠璃黒曜があるのではなかろうか 」
「 そこまでして…… 今の自分は、瑠璃黒曜を見つけたいのだろうか。自分の手に納めたいのだろうか 」
つい、複雑な心境が声に出てしまった。
タケ爺は、どんな想いで『 瑠璃 』 探しをしていたのか。『 瑠璃 』を見つけて、そして手放した時…… どんな想いがあったのか。
それとも……
今の自分の様に、もしかしてタケ爺も……
もはやただの、幻の石 『 瑠璃黒曜 』 探しだけでは無く神様の使いの熊までも関わる事なら……
真剣に 『 瑠璃 』の事、神様の事、そして神様の使いと云われる熊の事をもっと知らなければいけないのでは、と思った。
歴史的な事は、ナカさんが詳しいということが分かったのでもう少し聞いてみようと思う。
神様の事は……
んーー 、やっぱりヨシばあや年配の人に聞く方が良さそうかと。『 瑠璃黒曜 』が飾られてある資料館にも、もう一度行ってみた方が良さそう。
ある意味これも勉強のつもりで。
浪人中の自分なので、本来なら勉学が本文の立場ゆえ、良い経験かと…… 。
『 試験勉強には、関係ないけれど…… 』
またやる事、考える事が増えた。
「 ただ…… あの無邪気なポ〜を見ていると、あまり難しい事は考えたくないなぁ。ただただ楽しく居たい。それだけ 」
その思いだけは変わらない、自分の素直な気持ちだった。
第1話 終
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