第4話

本来この小さな集落に来たのは『瑠璃黒曜』を探す目的だった。

しかしすっかり別の興味が湧き、疎かになっていた石探し。その別の興味とは、勿論可愛い子熊『ポ〜』。

勝手にその鳴き声から『ポ〜』と名付けたが、もしかするとただの子熊では無く神様の使いかもしれない特別な熊。


ただ自分にとっては神様の使いと言う特別な存在に興味がある訳では無く、純粋に可愛い子熊という事に惹かれていた。


石探しの気持ちも失せた訳では無く、やはり簡単に見つからない『瑠璃』。

それらしい黒曜石を見つけたと思ったら『ポ〜』に奪われ……

勿論それだけで諦めた訳では無いが、一番石探しに乗り気でないのは、少し怖い思いをした事が素直な気持ちだった。


無事に助かったとは言え、やはり川に流され岩に激突し意識を失った事が恐怖として感じてしまった自分。

その怖さが元々ヘタレの自分にとって、今迄の様に一生懸命に石探し出来ない理由だった。


ある程度の危険は承知で始めた石探し。

簡単に『瑠璃』が見つからない事も承知で始めた石探し。

『ポ〜』が可愛いからと疎かになった事

は、ただの言い訳。

やはり自分はタケ爺みたいになれない。

『瑠璃』を見つけたタケ爺の孫なのに、中途半端でビビりのヘタレで……


「ヨシばあにも中途半端は良くないと言われたのに、情けない」


真っ暗な夜の集落の風景。

ただ空を見上げると星空が眩しい位に光り輝いている中、一人で考えふけっていた。


一夜明け、朝から気合いが入っていた自分。昨夜、改めて色々考えてみてやはり自分が言い出しやり出した『瑠璃黒曜』探しをもう一度真剣にやってみる事を決意。

体も痛みは、まだあるが動けない事は無い。中途半端だけにはならない様、結果はどうであれ、やれるだけやってみようと……


川へ早速向かう。

勿論、パンは買って。真剣に石探しと言ってはみたが…… もしまたポ〜に会えたらメロンパンをあげたい。ジャムパンのジャムだけ舐めパンをそっと置いた表情が寂しげだったのが、どうしても気になって……


川に向かう途中、ナカさんの家に寄ってみた。

早速ナカさんが、


「体、大丈夫か?『瑠璃』は見つけられそうか? ははは』


と冷やかしながらも心配してくれた。


「ナカさん、やっぱり川原を歩いて探すなら上流の方ですかね? 」


「川原は上の方しか無いからな。前は、何処で見つけたんだ? 瑠璃らしい石は」


「下です、白い橋の手前。でもあそこら辺は川の中を歩かないと、ろくに進む事も出来ないし」


「ウェーダーは無いのか? 買ったんだろ? 」


「前に流された時、水が入って溺れそうになったので脱ぎ捨てて…… そのまま流れていって。失くしました」


「そうかそれじゃあしょうがないな。懸命な判断だな。水が入ったら命取りになるからな。俺の貸してやるか? 」


「えっ? いいんですか? 助かります、あまり無駄遣い出来ないんで」


「そうだぞ! 好きでやってる事とはいえ無駄遣いは良くない。今、持って来てやるから待ってろ。というか貸してやるから少し手伝え! 窯に薪を入れておけ! 」


「あっはい。勿論です。やっときます」


もう夏も近く暑い日が多くなっている中、薪が燃やされている熱い窯に更に薪を入れる。


「うは〜熱っ! 陶芸も大変だな。力作業も多いし、何事も大変なんだなぁ」


「な〜〜に改めて感心してるんだ? ははは

〜〜 何でも大変なんだよ、特に好きな事を自由にやることは特になっ! ホレっ。サイズ合うかな? 」


「ありがとうございます。サイズも大丈夫そうです」


「何度も言うけど、気をつけろよ! 特に下流は。今迄も下流に流された人はいるが、中々見つからない事が多いんだ。渓谷が続いた後は、他の川とぶつかって更に流れがキツくなって川も、いくつかに分かれていくから溺れた人は早々見つけられない」


「そ、そうなんですか? 」


「まぁな、でも石探しだとあまり川の深い所迄は行かないだろ。でも一応な、気をつけろよ。アキラは一度流されたんだから特になっ! 」


「はい! 気をつけます」


「もういいぞ、薪入れ。早く『瑠璃』探して見せてくれ、今度こそ。うははは」


「がんばり…… ます。また手伝いに来ます。じゃ行って来ます」


「手伝うのは当たり前だぞ! そのウェーダーのレンタル代高いからな! ははは」


相変わらず豪快に笑うナカさん。

ただその豪快な笑いが、何故か自分に楽しさとやる気を起こさせてくれる。

ナカさんにウェーダーを借りた事もありよりやる気が出た。


久々に上流の方に行き、そこから下流側に下りながら石探しを始めた。

最近あまり来ていなかった上流。黒曜石がない訳では無いが小さな物が多く、割る迄もないものが多い。そんな小さな欠けらの黒曜石では色が入っている物も無く。それでも地味に探しながら川を下って行った。


久々の川歩き。まだ痛みのある体で、そして今迄より慎重に川を歩いていたので疲れが早めに出てきた。収穫も特に無し。石探しを始めて結構経つので黒曜石自体は簡単に見つける事が出来るが『瑠璃』の気配すらない。

それでもコツコツ探しながら歩いていたら、いつもの白い橋の手前にある大きな岩まで来ていた。大きな岩に上がり休憩。


密かに『ポ〜』が来ないかなと思いつつ。暫く休憩していたが現れる気配は無く。


「せっかく今日はメロンパンを二つも買って来たのに…… 」


残念な気持ちを抱えたまま腰を上げた。

流石にまだ今の状況では此処から下流側の石探しは危険だと思い、川を後にする事にした。大きな岩から白い橋に上がり辺りを見回す。ポ〜が来る感じは…… なさそうだ。


と思っていた時、下流側に何やら動く物が。少し遠いが…… 確かあそこは。自分が流された時、何とか掴まる事が出来た岩。ウェーダーを脱ぎ捨て助かったと思ったら…… 目の前に『ポ〜』がいて『瑠璃』かもしれない黒曜石の半分を持って行ってしまった岩。

勿論『ポ〜』を初めて見た場所。

その岩の所で黒い物が動いていた。


「ポ〜か? 一頭だけじゃないみたい。親熊といるのか? 何やってるのかな」


目を凝らして見ていると川で何かやっている。


「ん? 魚、獲ってるのか?何か跳ねてる」


思わず大きな声で、


「ポ〜〜 ! 」


と叫んでみた。

二頭の熊は直ぐにこちらに気づく。

買ってきたメロンパンを手に持ちながら振ってみた。


ポ〜は、一目散に崖をよじ登り森の中に。暫くして橋の入り口の木の陰から少しだけ顔を出した。メロンパンを持っている事は気付いている様だが、木の陰から出てこなかった。


「ここに置いておくよ。じゃあね、ポ〜」


白い橋の真ん中辺りにメロンパンを二つ置いてゆっくりその場を離れた。


「親熊と一緒だったから近くまで来なかったんだな。二つあるから親熊と一緒食べるんだぞ」


自分の姿が見えるとメロンパンの所に来づらいと思い、さっさとその場を離れた。凄い勢いで崖を登って来たので食べたくてしょうがないポ〜だと自分なりに理解した。


「魚よりメロンパンに食い付くなんて……」



第4話 終

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