第3話
再び会った「ポ〜〜」と鳴くぬいぐるみの様な子熊。今回は黒曜石を取って行く事も無く、メロンパンを平らげて親熊と帰った。
親熊らしき熊もチラっと見たが、やはり襲って来る気配も無く。
子熊も幼い子供の様にメロンパンをほうばり、まるでこちらの言っている事を理解している感じの態度。
『普通の熊では無いような…… もしかして神様の使いの熊では…… 』
神様の使いの熊と言うと特別な感じがするが、自分にとっては特別というより『愛らしい』感じがした。
あのしゃがみ込んで夢中にメロンパンを食べている姿を見るとより、そう感じた。
「ナカさんに言っても信じてもらえないだろうなぁ」
メロンパンの殆どを子熊にあげてしまい石探しが出来ない今、唯一の楽しみだったおやつタイムも取り上げられた感じになり川を離れる事にした。
帰る途中、ナカさんの家の前で先程の状況を話すべきか迷ったが、とりあえず秘密にする事にした。
ただでさえこの間、『瑠璃』の様な石を見つけたとか、川に流されたけど助かったとか現実味の無い話をしたので信用されない気がして……
それに……
あの熊が、もし本当に神様の使いの熊なら…… あまり他言はしない方が良い気がした。
「なんだか…… 『瑠璃黒曜』探しよりも凄い事になるんじゃないかな? 」
『瑠璃黒曜』探しだけでも今は、現実的では無いと言われているのに神様の事に関わるなんて…… 凄い経験ではあるが一歩間違うと変人扱い、狼少年扱い。
「やはり人には言えないなぁ。気をつけないと」
そう独り言を言いながら今日は、真っ直ぐ家に帰る事にした。
家に帰ってもあの子熊の事をずっと考えていた。
「ん〜〜 かわいかったなぁ。小さいのにしゃがみ込んで大きなメロンパンを噛りついていた姿。メロンパンを食べるなんて、何か面白い。でも熊は雑食だから食べても不思議じゃないんだよな〜〜 」
以前会った時は、知らない間に目の前にいて黒曜石を持って逃げたけど今回は…… たまたま落ちてきたのか? それともメロンパンを見つけ転がって来たのか?
転がり落ちて直ぐに立ち上がりメロンパンを凝視していたので…… 後者の気もする。森には食べ物が沢山あるとナカさんが言っていたので、よっぽどメロンパンに興味があったのか、よっぽど食いしん坊なのか。
「ちぎって差し出したメロンパンより左手に持っていた残りの大きい方を見ていたからなぁ〜〜。食いしん坊なのかな」
もしあの熊の親子が普通の熊で無いならば、あの白い橋辺りが縄張りなのだろうか。ナカさんやヨシばあが言っている様に熊の住処なら気をつけないといけない。
でも…… かわいい。
あまり良い事では無いのだろうが、またあの子熊に会いたい気持ちになっていた。
次の日、少しは背中の痛みもとれた。
色々、考えまた昨日のあの場所に行ってみる事にした。
まずは商店に行きメロンパンを買いに。
「ありゃ、メロンパンは無いのか」
「メロンパン欲しかったのかい? いつも入る訳じゃないからね。卸してくれるパン屋さんが日替わりで色んなパンにしてくれるから。アンパン以外は」
お店の人が教えてくれた。
「じゃ、今日は…… ジャムパンがあるからこれにしよう」
大きな拳以上あるジャムパン。
アンパンは普通の大きさなのにメロンパンやジャムパンなどは普通よりも大きなサイズ。
一応、他にも甘納豆の入った豆パンも買い川へ向かった。
今日もまず白い橋に向かって雑木林の中へ。昨日自分が歩いた跡を辿りすんなり白い橋に着いた。
橋から周りを見渡す。
川は勿論、森の方も。相変わらず静かな所。川の流れる音が綺麗に聞こえるだけ。そして橋から昨日と同じ様にいつもの大きな岩の上へ。
大きな岩の上には、割った黒曜石の半分がまだ置かれていた。
昨日、子熊が転がり落ちてきた崖の上の方を見ながら子熊が出て来ないか、期待していた。
昨日と同じ位の時間だが、気配は無い。
流石に、そう度々と出てくる訳も無く。
大きな岩の川に面している所に座り、川の流れを眺めながら買ったパンを取り出す。何となくジャムパンでは無く豆パンを食べた。
「なんか呑気に川辺でパン食べてるけど石探しもしないとなぁ。何とかこの夏で終わらせないと…… ヨシばあの所にずっと居る訳にもいかないし、親にもそう言ってきた訳だし…… 」
豆パンをムシャムシャ食べながらそんな事を考えていた。
「う、飲み物買うの忘れた」
ムシャムシャと頬張ったせいで喉が詰まる。何とか飲み込めそうな時、後ろに気配を感じた。
振り返ると…… あの子熊がしゃがんでじっとしていた。今回は派手な登場では無く音を立てずに既に自分の後ろにいた。
流石に驚く。何とか飲み込めそうなパンがまた喉に詰まりそうになった。
じっとしゃがみ込んでいる子熊。
リュックからジャムパンを取り出す。
「メロンパンじゃ無いけど食べる? 」
そう話し掛けジャムパンを差し出す。
じっと見ているが前程、興味がなさそう。
「ん〜〜 メロンパンがいいのかな? でもイチゴジャムだから好きそうだと思うけどなぁ〜〜 」
ジャムパンを半分に割り、中のジャムを見せてみた。
じ〜〜っと見るが……
近くまでパンを差し出してみた。
近くで見るとより子熊は可愛く、やっぱり小さかった。恐らく普通の子熊よりも小さいだろう。
子熊も恐る恐る手を出しパンを受け取った。中のジャムをじ〜〜っと見つめ、噛り付いた。
『食べた、パンが好きなのかな? 』
そう思った矢先、子熊を見ると…… パンは食べていなかった。ただ子熊は、中のジャムを器用に舐めていた。
「ありゃジャムだけ舐めるのかい! 」
綺麗にジャムを舐めきり残ったパンをそっと下に置いた。
「パン好きでは無く、メロンパンが好きなんだ。ごめんね、今度からメロンパンにするね。ポ〜〜 」
『ポ〜〜』と言ったら反応が、あるかなと思い言ってみた。
子熊はじっと自分を見て……
「ぽ〜〜」っと小さな声で応えてくれた。
そして前回の様に勢いよく崖を登り森の中に消えて行った。
また来てくれた事が嬉しかった。
甘いものが好きなのか、メロンパンが好きなのか分からないけれど変わった子熊。
その日から、その子熊を『ポ〜』と呼ぶ事にした。
第3話 終
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます