裸体~少女愛撫


 通されたその場所は、遊郭の最上階にある天井裏だった。太い柱が幾重にも並ぶ部屋には、薄い布で覆われた寝台が置かれている。その周囲に煤けた革製のトランクや衣装箱などが並び、蓋の隙間から乱雑に畳まれた色鮮やかな衣の裾を覗かせていた。

 ここはミーオの自室だという。蒼色キンギョと持て囃される彼女の雰囲気とかけ離れた部屋を見て、フクスは唖然とした。

 この部屋に通されてどれだけ時間が経っただろうか。自分たちを案内した猫耳少女たちは音もなく部屋を後にし、独り残されたフクスは部屋でミーオを待っている。

「質素な部屋でびっくりしたでしょう?」

 ミーオの楽しげな声が聞こえて、フクスはとっさにそちらへと顔を向けていた。

 両開きの窓枠にミーオが腰かけている。フクスは眼を見開き、そんなミーオを見つめた。

「私、貧しい家の生まれだからこういう部屋の方が落ち着くの。お嬢様のあなたには理解できないと思うけれど」

 瑠璃の眼を翠色に光らせ、ミーオは冷めた眼で自分を見つめてくる。冴え冴えとした月光が彼女を照らし、その顔に影をつくっていた。

 猫耳少女たちとここに向かう途中、フクスは廊下の窓から屋根を伝ってこの天井裏に向かうミーオの姿を目撃していた。亜人の身体能力は人間よりも優れているとされているが、屋根をかけるミーオは猫そのものだった。

 薄い彼女の衣服が夜風にゆられて、窓枠に茂るブーゲンビリアの花をゆらす。

 ふぁりと夜風にのってジャスミンの香りがフクスの鼻孔に届く。その香りに誘われるようにフクスは狐耳へと手をのばしていた。

 狐耳に花を挿してくれた兄のことを思い出してしまう。フクスは誘われるように、ジャスミンの香りが漂う部屋の寝台へと視線を向けていた。その上で兄とミーオが何をしていたのか嫌でも想像してしまう。

「ここでね、あなたのお兄さんの相手もしたの。反応があなたとそっくりで笑っちゃった」

 ミーオの言葉にフクスは彼女へと振り返っていた。月の逆光を浴びて彼女の表情は窺えない。彼女の暗い陰影だけがフクスの眼には映り込んでいる。

 陰影なかで彼女の眼が妖しく光る。湖面のように輝くその眼を見て、フクスは身を固くしていた。

 フクスの眼は、花の香りに包まれた寝台へと向かう。乱れた寝具が視界に留まり、フクスは寝台から視線を逸らしていた。

 ここで兄が自分と同じ亜人の少女を抱いた。その事実が妙に生々しい。

「兄さん……」

 フクスは誘われるように寝台に向かい、乱れた掛布団をなでていた。この寝台の上でレーゲングスはミーオを愛でたのだ。

 兄は自分にジャスミンの花を贈ってくれた、最愛の男性だった。

 そんな兄が一人の男として、女を買った。

 自分もいずれ男に春を売る存在になる。この体に兄以外の男の手がふれ、誰にも見せたことのない秘密の場所を暴いていく。

 体が震える。フクスは自身の体を抱きしめ、その震えを止めようとした。

 そんなフクスの肩に優しく手を置くものがいる。驚いたフクスが振り返ると、ミーオが心配そうに顔を覗き込んでいた。

「私は、汚いかしら?」

 彼女の眼が悲しげに細められる。声をあげた瞬間、フクスの唇はミーオのそれで塞がれていた。柔らかい感触が唇に広がって、ミーオの顔が離れていく。

 眼を潤ませながら彼女はフクスの体を抱き寄せていた。体を寝台に押し倒される。あっと悲鳴をあげたときにはもう遅く、フクスの唇はミーオによって塞がれていた。

「ミーオ……」

「大丈夫、恐がらなくていい……。あなたの初めては私になるの。だから、大丈夫……」

 耳元で優しく囁かれる。フクスの背中に手を回し、ミーオは喪服のファスナーをゆっくりと降ろしていく。

「私たちは戦うために体を売ってる……。だから、恥ずかしくなんてないわ……。戦うために私たちにはこの体がある……」

 ミーオが言葉を紡ぐ。赤い産毛に覆われたフクスの背中に唇を落とし、ミーオはフクスから離れていく。

 そう、自分はこの場所に戦いに来た。大切な兄を守るために。

 悲しげな兄の顔を思い出して、フクスは体を起こしていた。喪服がフクスの体を滑り落ち、フクスの柔らかな肢体が月光に照らされる。

 凛とした輝きを翠色の眼に宿し、フクスはミーオを見つめた。月光に瑠璃の眼を輝かせ、ミーオは愉しげに桜色の唇に笑みを浮かべる。

 少女たちの体が寄り添い、お互いを求め合って暗闇の中で蠢く。

 衣服を脱ぎ、生まれたままの姿になった彼女たちは、唇を交わし、抱き合い、甘い声をあげる。

 月光に照らされる蒼と赤の獣耳が、ひらひらと金魚の鰭のように暗闇を漂う。

 妖しい輝きを宿した眼でお互いを見つめ合い、少女たちは快楽の海へと溺れていった。




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