最終話 侍とは最後まで信念を貫く刃なり

 武蔵はその光景から目を逸らすことができなかった。やっとの思いでたどり着いた場所で今まさにミクモはとどめを刺されているところだったのだから。

「ミクモー!おい、てめぇなにしてんだ!」

 駆け寄りミクモを抱きかかえながら武蔵はとどめを刺した男を睨みつける。だが、その軍服を着た若い男は冷徹な嘲笑で殺したことに何も負い目を感じていなかった。

「君がまじかる武蔵だったかな?待ちくたびれたよ、この忍者に部下たちと戦いをさせていたんだがそれも飽きてしまってね、こうして殺したんだ」


「おまえがぺりゐか?お前がこの元凶か!?」

「そうさ!いかにも私が米国文化侵略総統ぺりゐだ!こんなちんけな国もいい暇つぶしだったよ」

 まるで命は何の価値も無いように言うその男はこの日本の文化侵略を銘打ち破壊と蹂躙の数々を行った張本人”ぺりゐ”その人であった。

「絶対ゆるさねぇ!こんなふざけた奴はぶった切る!」


 武蔵は一気に地を蹴りぺりゐに接近し、佩刀した刀による居合の一撃を入れた。しかし手ごたえはなく刃はすんでのところでところで剣に止められていた。

「日本人は血気盛んだね、すぐに闘いたがる。でもそっちの方が全然好きだよ!僕も血を欲するからね」

 ぺりゐが武蔵を足蹴にし吹き飛ばし剣を構えた。そして二人の剣戟けんげきが始まった。


 どちらも退くことない攻めの一手、斬って斬って斬りまくる戦いであった。刀と剣のぶつかり合い、ソレは凄まじいものであった。

「はははっ!いいね!なかなか手ごたえがあるよ」

 斬り下げからの返し、横薙ぎ、無駄のない連鎖的な攻撃がぺりゐから繰り出される。その一撃はすこぶる重く壁などにその一撃が入った時は壁がえぐれた。

「なめんなよ!大和魂、侍は不滅なんだよ!」

 武蔵は猛攻を正確に斬り合わせで相殺し凌いでゆく、決定的な一撃はなくとも圧倒的な手数でぺりゐと渡り合っている。


「なかなかやるね、でもこれは流石に小細工では凌げないよ!」

 ぺりゐは剣をもう一本抜き二刀流で攻めた。その動きは常位を逸してた。先ほどの動きとは比べ物にならない一連された動き、まるで円舞曲ワルツを踊っているかのように二本の剣で攻め続ける。横縦突きあらゆる技を一度に叩きこんだ。


「くっそ、バカじゃねえのかこれ」

 二本の剣の乱撃に武蔵はなすすべなく押されていった、すでに体からは血が流れ息も上がっている。

「どうした?息が上がってるじゃないか!もうグロッキーか?」

 手を止め挑発するぺりゐはまだまだ余裕の表情だ。正面からやりあっては確実にやられてしまう。


「まだ終わらねえよ!なんたって俺は魔法侍なんだからな!侍魔法”置き去りにされた冬の足掻きさむいのむりぃ”!」

 武蔵の呪文と共に辺りに凍気が充満しすべてを凍らせる。

 そう普通なら負ける。しかし武蔵は魔法が使える、それがぺりゐに対抗する唯一の秘策だ。

「なんだこれは、少し温度が下がっただけではないか、こんなもの魔法?笑わせる」

「残念!ここからが俺の舞台だ!全部受けきって見せろ!侍魔法”囲炉裏火いろりび”!」

「小癪だな!効かん!」

 立て続けに魔法を撃つ、今度は炎の魔法がぺりゐに向かって伸びるがその炎を剣で打ち消す。


「それはやってみなきゃわからない!侍魔法”亀甲縛りバインド・プレイ”、”月曜の憂鬱まじつらぁい”!」

 拘束魔法に重力魔法を放つが剣の一振りですべて消された。そして再びぺりゐが攻めてきた、身体能力は桁違いで一瞬で肉薄される。だが武蔵は迎撃はせず逃げと魔法の行使に徹する。

「無様だな!逃げるなど覚悟のないものがやること!貴様に生きる資格はない!」

 荒れ狂う剣撃を浴びせようと逃げる武蔵を追う、その姿は触れたものを全て細切れにする剣の嵐であった。


「もう諦めろ、お前に私は倒せない」

「っは!残念だったな!せっかく追い詰めたのにお前の出番はここで終わりだ!喰らえ俺の世界、侍魔法最大奥義”まじかるワールド”!!」

 そして数分間逃げに徹しついに追い詰められた武蔵はそう言った。


「今まで逃げてた口がよくほざく、お前の魔法は効かん!無駄な足掻きはもう終いだ!」

 振り上げた剣を武蔵へ突き刺そうとしたその時世界が一変した。

《グレイトラリアットォォォ!!》

 突然筋骨隆々の男が現れぺりゐの顔面にラリアットを叩きみ吹き飛ばした。


「なんだこれは!ふざけた魔法を発動させて!殺してくれるわ!」

「その剣で何ができる?そして言ったはずだここは俺の世界だと」

「なんだと、ってなんだこれは!」

 驚愕するのも無理はない。何しろ剣は先端にハートの形があるまじかるステッキになっていたのだ。それ以外にも先ほどまで空母の中だったはずなのに宇宙にいたのだ。

「これはまじかるワールド。ここではなんでもありの魂の解放の場だ!ここではお前など間違って食べられたスイカの種のようなものだ」


「ふざけるな!こんなこと認めるか!私が最強なんだ、お前みたいなゴミに私が負けるか!」

「そんなもん知るか!」

 怒りに沸騰しているのをよそに武蔵は顔面にパイを投げつける。

「コケにしやがって!はああぁ、分身!」

 ぺりゐは4人に分身した理屈はわからないがきっとそういう術が使えるのだろう。ぺりゐとはいったい何者なんだ。

「なっ、貴様も細胞分裂が使えるのか!侮った」

「これで4対1だ!ふざけた空間だろうが数では勝っているぞ!どうだ!」


「4対1?何のことだ。死霊術ネクロマンシー呼び戻されよ我が戦友、蒼炎のツヨッシー!」

 魔法陣が展開されまばゆい光から人の骨格が生まれ肉が付き人を形成してゆく。その人物はこの旅の安定剤、ミコッツだった。

「久しぶりだな、二時間ドラマの最後のCMぶりだな」

「我が深淵の闇が疼く。貴様、我を召喚した者だな力を貸そう」

「なんか違うの召喚しちゃったー!現実を見ろ中二病!」

 なんか痛い感じで生き返ってしまったミコッツを武蔵は躊躇なく殴る。

「黒歴史が刻まれた瞬間だった、恥ずかしい!死してなお生き返る男ミコッツ一皮むけて参上!」

 正気に戻ったか怪しいところだがこれで一人仲間を呼び戻した。


「ミクモーおやつの時間だよ!お前の大好きな核爆弾あるぞ」

「え?まじで!?俺食べたかったんだよ!」

 空間をぶち破りさっきとどめを刺されたはずのミクモが武蔵の用意した爆弾に飛びついた。

「ぐへへへ、爆弾~」


「これで3人だ」

「な、ありえない!どういうことだ!」

 死んだはずの人間の蘇生など聞いたことが無いぺりゐは今理解不能の宇宙に立たされていた。


「え、なに?あり得ない?アリエールでしょ」

 

  まじかる昔話~人魚姫~


 「うう、どうしても声と引き換えじゃないと人間にはなれませんか?」

 「そうだねえ、あんたの一番大事なものって言ったら他に何がある?」


 魔女の武蔵に人間になりたいと話を持ち掛けた人魚ミクモ、しかし人間になるために薬はそれ相応の大家が必要だった。


 「私の一番大事なもの、こんなのしかありません」

 そう言って差し出したのはぺりゐ4体だった。


 「何をする!やめろ、この茶番はなんだ!」

 「ほお、これは良いぺりゐだ。これで手を打とう」

 魔女はぺりゐと引き換えに人間になれる薬を渡した。


 「ありがとう魔女さん!ぺりゐ大事にしてね」

 「モチのロンや」


 「さあぺりゐよ、私に忠誠を誓うなら生き残らせてやろう、出なければサメの餌だ」

 魔女は驚愕の取引を持ちかけた、ラスボスを手中に収めるつもりだ。

 「誰がそんな要求飲むか!早くこの茶番を終わらせろ!っておい!私の分身なんで寝返る!」

 命惜しさにぺりゐ3匹は寝返ったとさめでたしめでたし☆


 崖の上でまじかる~完~

 

「これで形成逆転だな6対1お前の負けだ」

 もはや何でもありだ。これがまじかるワールドの力、あり得ない世界。

「こんのクソどもが!何なんだ一体お前らは!」

 口調が変わった、本当に怒りで頭がいっぱいなのだろう。がむしゃらに突撃してくる。


「まじかるな侍♡」

「まじかるじゃない忍者♡」

「DAISUKE☆」

「「「「分裂ぺりゐ達♡」」」

 それぞれに丁寧に自己紹介してゆく、一人知らない人がいた気がするが気のせいだろう。


「何がアツシだ!お前はまじめな立ち位置だろ!」

 なぜかぺりゐが殴られた。そしてやはり気のせいでではなかった、武蔵がボケたミコッツの胸ぐらをつかみ揺さぶる。ミコッツもたまにはボケたかったのだ。


「ここで負けたらアメリカの面汚しだ!絶対に潰す」

「ふっ、いいだろうこちらも全力で相手してやる!まじかる融合フュージョン!」

 武蔵が叫ぶ。するとミクモ、ミコッツ、分裂ぺりゐたちが一つになり武蔵と溶け合う。

「うおぉぉぉ!」


「融合完了。参上!極道ソロモン12神”目つき悪いタカシ”!」

 融合完了後は登場セリフと共に滅茶苦茶かっこいい戦士が出来上がっていた。八頭身に甘いメロンマスク、それは外国の王子のようないけめんであった。

「なんでもかんでも好き放題しやがって!」

 ぺりゐは一人憤慨し、元剣のまじかるステッキを手に武蔵の融合体へ斬りかかる。


「俺の名はミクたけッツ。この姿でいられる時間は3分前後だ、早速やらせてもらうぞ」

 名前はタカシではなくミク武ッツらしい。なんとも安直というかそのままだ。

「激情の文化限縮空間イッツアスモールワールド!!」

 その叫びで世界が一瞬にして変換されていった。和の世界、雅な空間へと。


「なんだこれは!日本の文化か?」

「そうだ、ここは日本の文化が集約された雅空間。そしておまえは今から日本文化の素晴らしさを味わうのだ!まじかる日本文化体験旅始まり~」

 ミク武ッツは優雅に和服に着替え、紅茶を飲みながら宣言した。


「まず一つ!蹴鞠けまり!ボールは友達じゃない、道具だ!」

 取り出した鞠を蹴りぺりゐに蹴り当ててゆく、当てられた鞠はとてつもない大爆発を起こし、あたりを燃え上がらせる。

「次は習字!お前が筆じゃ!」

 ぺりゐを持ち上げ墨汁に浸し、文字も書いてゆく。いわゆる人間習字というやつだ。そして書きあがった文字はUSAであった。

「ふう、これぞわびさび」


「ぷーさん蹴るなあぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!こんなことがあってたまるか!この私が、最強のぺりゐ様だぞ!!」

「はーいそれでは次はこれ、清水の舞台からバンジージャンプじゃ!紐なしでな!!」

 激高するぺりゐをよそに日本文化の素晴らしさを伝えるためぺりゐを突き落とす。紐なしで真っ逆さまに落ちるなんてあまりにもかわいそうだ。

「よく上がってきたね、はいじゃあこれご褒美。好きなミジンコ人形選んでね」

 這い上がった矢先ミク武ッツは手にした7種のミジンコ人形を差し出した。色は虹の配色と同じでかわいらしくもない人形のついたストラップが目の前に置かれる。


「粉☆バナナ!!騙されんぞ、これは全て罠だ!」

 ミジンコ人形を払い殴りかかるがそれは叶わぬ夢だった。

「てめえ何ミジンコ人形粗末に扱ってんじゃ!」

「ぐふっ!」

 拳が届くよりも先にミク武ッツの正拳が脳天直下で振り下ろされた。その拳は重くぺりゐの頭に響いた。


「さて次は、しまったこれは安らぎの文化だ」

「やっと俺の休めるのか……ってなんだこれ!やめろ!血を吸うな!」

「吸血地獄!」

「これ安らぎの要素ねえだんよ!めっちゃかゆいだろうが!」

 文化と言っていいのだろうかこれはもはやどこにでもありそうな光景だ。


「次はこれだ!行け特攻神風!敵空母はココダ!」

「おいやめろ!勝手に乗せるな!これ文化じゃないだろ!」

「いいえ、これも悲しい文化の一つなのです……。お行きなさい祖国のために」

 無理矢理戦闘機に乗せ送り出した。その飛行機には弾薬がかなり積んであり地面と激突した瞬間大爆発を起こした。


「ぐっはあぁぁぁ!おのれぇこの空間さえなければ!」

 今までの攻撃によるダメージでかなり深手を負っているぺりゐだが攻撃をするために立ち上がる。

「さて、これが最後の文化かな、これは少し衝撃的だけどいいか」

「何をしようと耐えてやる!そしてここから脱出してお前をぶちのめす!」



「そうか、驚かないで聞いてほしい、実は俺の父さんとお前の父さんは同じ人なんだ。つまりは俺らは腹違いの兄弟ってことらしい」

「は?」

 まったく意味が分からない。急にそんなことを言われたって信じないし、そもそも何一つかぶっているものっがないではないか。

「今まで黙ってってすまなかった。これは最後まで隠し通したかったんだ、お前の父さんはジョン・フェルナンデス・パポカロロン。そうだろ?」

「ああ!そうだ、俺の父はコマンドリーだなぜそれを……まさか本当に?」

 明らかに名前が食い違っていっるがぺりゐは信じた。本物のアホなのではないか。


「兄弟よ!」

「こんなことがあるんだな!家族よ!」

 二人は運命の再開のようにお互いに抱き合おうと歩み寄るがミク武ッツは向ってくるぺりゐをぶん殴った。

「ってバカかお前は!そんなもん嘘に決まってんだろうが!」

「そうだと思ってた!」


「もうこの姿でいられるのも20秒弱だ、これでクライマックスだ!」

「ふざけたことばっかしやがって!だがこれでやっと俺の反撃ができるな!」

 自分の攻撃ができる状態まで粘ったぺりゐの顔が喜びで歪んだ。しかしそんな簡単には終わらないのがこの小説の悪いところである。


「こちらまじかるワールド内、目標に爆弾セット完了しました。ただいまから帰還します」

「え、なに?どういう事?」

「ということで、じゃ!」

 ミク武ッツは何やら話をしたと思ったら空間に穴を空けてそのまま出て行ってしまった。



「よし帰ってきたぞ母なる日本へ!」

 空間から出てきた時には融合は解除されいつもの三人に戻っていた。そういえばぺりゐ分裂体はどこへ消えたのだろうかそこについては不問ということで。

「いやー暴れましたね」

「主人公のこのミクモさま要素ゼロだったろうが!」

「見ろあの空母が大爆発してるぞ」

 口々に語る中武蔵が指した方向では火山噴火のような大爆発が起こっていた。あれがよくわからない作戦で侵入しミコッツとミクモが倒れた空母なのか、ヰヴって言ったあれはなんだったろうなぁ。


「終わったんですね」

「終わったんだな」

「俺活躍しなかったな」

 みんなが言うようにこれで終わったのだ。長いか短いかどちらか言うと短い旅が、ほとんどふざけたような戦争が終結したのであった。

「これからどうする?」

「どうもしないってことで」

 武蔵の問いかけにミコッツはそう答えた。そうもう何も気張る必要はないのだこれでエンディングなのだ。


 これで武蔵達の旅はおしまい。



「ってまだ終わらんわ!」

「お前までいたのか!しつこいぞ」

「くくく、かかかかか!絶対にお前たちを八つ裂きにしてくれるわ!」

 爆炎飛び散る空母から飛び出したのは天に召されたはずのぺりゐだった。なんてしつこさだゴキブリ以上のヒモニートのようだ、もう尺だって詰まっているのに空気の読めない男め。

「もうお前負けたじゃんいいよ帰って」

「黙れ!このままコケにされて引き下がれるか!」


「えーめんどくせ。ミクモ出番だぞ」

「やっと出番か!待ちくたびれたぜ、いくぞ”紙どらごんかもーん”!」

《我に何用か?叶えられる範囲でギリそれに近いことしてやるぞ》

「なんかド〇ゴン※※※の願い叶えてくれる龍出てきた!」

 出番を貰ったミクモが呼び出したのが神龍だ。どんな願いもそれに近い形で叶えてくれる微妙な龍。もちろん可能な願いは叶えてくれる。


「とりあえずJKのパンツをこのボロボロの奴にかぶせて警察呼んで」

《よかろうその願い聞き届けた》

「ほらこれでハッピーエンドだ」

 そしてその願いは聞き届けられぺりゐはもう二度と日の光を浴びることはなかったという。


「は?どういう事だ、なんだお前らは!?え頭にガーターベルト?卑猥な顔してる?存在が公務執行妨害?逮捕、待っておいこらどうなってるんだ!は?懲役30年?意味が分からない!」


「これで真のエンディングだな」

「そうですね、楽しかったですね」

「ほらお前らエンディングだぞ泣けよ!」

 いや泣く要素一つもないから、と思う旅でありました。


 ここまでまじかる武蔵を読んでくれてありがとう!残念ながらこの物語は大人の事情で打ち切りだけどみんなの心にはまじかるな大和魂が宿ったと思うよ☆

 では諸君さらばだーーー!

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魔法侍 まじかる武蔵☆ 一条人間 @itijouhitoma

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