第6話 爆裂青春物語
ひとつ俺の過去の話をしよう。
「20歳までに僕たちの漫画がアニメ化したら結婚してください!」
そう言って僕は彼女と結婚する約束をした。
無茶な賭けだとは思ったが、彼女はそれを受け入れてくれた、僕のプロポーズを了承してくれたのだ。
だから必ず現実にして見せる。
それは17の僕には厳しすぎる挑戦であり、また青春の1ページでもあった。
「また打ち切りだよ、これで何回目かな?これじゃアニメ化は遠いな」
漫画家志望のミクモはまた連載を打ち切られたことに落胆していた。
「お前はまだそんなことにこだわってるのか!アニメ化アニメ化って、もううんざりだよ!ミクモ、もういい加減踏ん切り付けろよ」
突然武蔵が怒声を浴びせてきた。武蔵は一緒に漫画家になるためコンビを組んだ相棒だ。武蔵は本当はゲームを作成したかったそうだが、俺がどうしてもと言って一緒にコンビを組んでもらったのだ。武蔵もこの状況に限界が来たのだろう。
「やらなきゃいけないんだ!これは俺の夢なんだ!絶対に叶えるんだよ!アニメ化して絶対結婚するんだ!今回もだめだったけど次は」
ミクモはどんなことがあろうと絶対に諦めなかった。過労で倒れても、単位を落とされ留年し、また浪人生になろうとこの夢をあきらめることなく歩み続けてきたのだ。ここまで来て引き下がれるはずもない。
だがミクモは決定的な過ちを犯していた。
「20までにアニメ化だって言ったよな、お前はもう25だぞ!もう現実を受け入れろよ」
ミクモの置かれている状況、それは20歳までに約束を果たせず、ここまで何も成果を上げられずに来てしまったことだ。
「うぅ俺は、どうすればよかったんだ?もうあの子にも顔合わせられないんだよ……こんな惨めな俺をあの子は待っているはずがないんんだ」
ミクモは悔し涙を浮かべて机にこぶしを叩く。彼だってわかっていたのだ、引き返すこともこのまま進むことも叶わない状況が自分を苦しめていることに。
「じゃあ、今から会いに行ってこいよ、後悔しているんなら今できることがあるんじゃないのか?もう後悔しないためにやるべき事が?」
武蔵が不意にそんなことを言った。今更過ぎる、5年もあの子が俺を待っているはずがない。だけどここでまた諦めたら後悔するそれだけは嫌だった。
「ありがとな、今まですまなかった!こんなわがままに付き合わせちまって」
「俺も楽しかったからな、絶対後悔するなよ!」
ミクモはそのままあの子の元へ向かった。夢は叶えられなかったけど、もしあの子が待っていてくれるのならもう一度ちゃんと告白したい。それが夢を追い求めて掴んだ一つの答えだから。
ミクモは走った。今までの後悔も挫折も夢に向かった衝動も何もかも捨てて、ただ彼女の元に思いを伝えるたにひたすらに走った。すべては単純な事だった、理由をつけなくても好きだという心をただ伝えればよかったのだ。
今さらそんなことを気づかされるなんてやっぱり自分はダメな人間だと自嘲してしまう。
「すみません!〇〇さんの友達のミクモって言います、その……〇〇さんに話があってきたんですけどいますか?」
ミクモたちの仕事場から1時間ほどの場所に彼女の家はあった。もういないだろうと思ってはいたがダメもとで尋ねてみることにした。
「あなたが、あのミクモ君なのね?ふふ、懐かしいわね。立ち話もなんだから上がって」
出迎えてくれたのは〇〇さんのお母さんだった。お母さんは懐かしんでミクモを家に上げた。
「ミクモ君初めまして、私〇〇の母ですあの子とは仲良くしてくださってありがとうございました」
「あ、いえそんな。ところでその〇〇さんは?」
〇〇のお母さんは丁寧なあいさつでミクモに挨拶をした。だが、その言葉を聞いた途端表情は悲しみが混じっているような苦い表情をしていた。
「あの子は亡くなりました。おととしの秋ごろです……。もともと心臓が悪くてそれが悪化してしまって」
それはあまりにも突然だった。結婚の約束をしずっとその子と結ばれるために頑張ってきたのに、その子はもうこの世にはいなかったのであった。
「そんな冗談ですよね?それなら何か話聞くし、それに武蔵だってなにも言ってなかったですよ?」
「そうね、ミクモ君以外はみんなそのことを知っていたわ。あなたにだけ知らせていなかったの」
「どういうことですか?俺にだけ知らせていなかったって」
その言葉に愕然とする。それもそうだ、今までの努力を心の支えを全て打ち砕かれてしまったのだから。
「詳しい事は私からは言わないわ。あの子が君が来た時にって渡されていたものがあるからそれを読んでほしいの」
そういった〇〇さんの母は部屋の奥、仏壇がある場所から手紙を持ってきた。
「これはね、あの子の遺書。絶対に読まないでって釘を刺されてたんだけどねミクモ君が来たら読ませてあげてって言うの。だからそれを読むのは今」
「俺にですか?そんな〇〇さんの大事な手紙なんでしょ?いいんですか読んで」
ミクモの問いかけに〇〇さんのお母さんは何も言わずただうなずくだけだった。しかし、向けられた視線はとても温かくすべてを理解しているようであった。
『拝啓ミクモ君へ
こういう時は拝啓なのかな?それともさようならかな?それは置いといてこれを読んでるってことはもう私はこの世にはいないってことだと思うよ。
生まれつき心臓の病気でね長くは生きられないって言われててそれが悪化しちゃってね、多分もう死ぬかもしれないからこうしてミクモ君に遺書を書くことにしました。
まず、約束守れなかったね、20歳までにアニメ化なんんてやっぱり無茶だったんだよ!普通に告白してればちゃんとおっけーしてたのにさ、やっぱりミクモ君ってどっかまじめ過ぎるよねでもそこが魅力だと思うよ!
やっぱり今も漫画描いてるのかな?私さミクモ君が描いた漫画一度も見たことくてさ新連載とかのページ見るといつもこれはミクモ君が描いてたのかなっておもってた。ちゃんと連絡とっとけばよかったって今さら思ったよ、それでねやっぱり考えたんだけどさ私がミクモ君のアシスタントをすれば一緒にいられたとか考えたりしたんだよ……』
その手紙には〇〇さんの字でいっぱいだった。遺書だとは思えない他愛もない話やミクモに対する愚痴など彼女の思っていたことびっしり書かれておりこの遺書はミクモに対して書かれたものだと分かった。
しかし、次の便箋に差し掛かった時に便箋の変化に気付いた。それがこの手紙を遺書だというこの裏付けであることの証明でもあった。
『本当はね、私はミクモ君のプロポーズちゃんんと受けるつもりだった。夢とかそういう事言われて目標を達成したらっていうのが気に入らなかったけどね。でもミクモ君の告白は嬉しかったし夢をかなえてからでも遅くないって思ったんだよ。でもね、ミクモ君は20歳までにアニメ化できなくてそのまま走り続けちゃったんだよね。
その時一言でいいから言ってほしかったんだ。夢は叶えられなかったけどあなたとは一緒にいたいって。そしたらどんなにうれしかったことか、約束を覚えててくれただけでも私はよかったんだよ。
でもそんなわがまま言えないよね、お城に囚われたお姫様は王子の助けが来る時間なんてわからない。ただ待つことしかできなかったんだ無力な私にはそれしかできなかった。』
ページを重ねることに文字は乱れ、ところどころ紙に涙の跡だと思われるシミがついていた。そしてこれが最後のページになっていた。
『私が死んでミクモ君がこのまま漫画家とし頑張るか、別の道に行くかわからない。それはあなたの道だから。
でももし立ち止まって振り返った時に私との約束を思い出したとしたら私の家に行くのかな?遅くなったけど約束を果たしたよ?こんな約束破った俺を許してくれ?どんな言葉をかけるのかな。
でも、その時には私はこの世にはいないんだよね。だからさ考えたんだ、私の死はミクモ君には絶対に知らせない。それで思い出したときにこの手紙を読んで盛大に後悔させてやる!これで決まりだ!
じゃあ、これを読んでいることを祈って手紙はお母さんに託しましょう。』
手紙は〇〇さんの気持ちが痛いほどにわかるほどに感情がこもっていた。それは〇〇さんとの約束を破った時分だからだろうか、それともこの手紙には彼女のすべてが詰まっているからなのか。答えはどちらもだろう。
「すみませんんありがとうございました。ほんとに悪い事をしたと思います」
「そんなことはないわ、だってあの子とっても楽しそうにこれを書いていたもの。それとまだ手紙は終わりじゃないよ」
〇〇さんのお母さんは最後の手紙の裏を見てみると言ってきた。ミクモは言われたと通り見てみるとそこにはまだ続きがあった。
『裏を見たミクモ君へ、待ってるだけのお姫様もなかなか楽しかったよ!でももっと早く迎えに来るんだよ!そうしないとお姫様はすぐ誰かに取られちゃうからね!
私もミクモ君のことが好きでした。だからこれからも私の王子様でいてください。』
その言葉を見てミクモは泣いた人前であるのにも関わらずはしたなく大きな声で、とんでもない後悔をしてしまったと自分の過ちを嘆いた。
「……こうして俺は魔法侍としての道を歩むことになったんだ」
武蔵は自分の過去を悲しげにもつらい過去の話を終えた。
「俺も後悔はしたくねえな」
「いや!全然話の流れわかんないから!しかも話の主人公ミクモだったよね?あんた最初のとこだけの人じゃなかった?」
ミコッツのツッコミでもこのムードには勝てない。恋愛映画で感動した後のような満足感がこの一帯には満ちていた。
「くっ、泣かせるじゃねえか、あんたそんな一面があったんだな俺はお前とは戦わない!帰るよ」
武蔵の話に顔から流せるもの全部垂らしているアメリーはそういった。
「「「いや、あんた誰だよ」」」
三人の声が揃った。みんなこの人物に対して覚えがないようだ。
「覚えられてなくてもいいや!俺はあんたの味方をするぜ!」
「いや知らないですし、いいです!」
冷たいあしらいにも負けずにアメリーは強く胸を張る。この人、情にもろいんだろうなと思いながら話は進んでゆく。
「近々各地のアメリーの隊長クラスが集まるぺりゐの集会があるんだ。そこで一気に奴らを叩けばこの日本を救えるかも知れないぞ!だがぺりゐは史上最強の艦隊なぽれおーんが控えている、そこどう突破するかだな」
「へー」
「みそしる」
「そろそろピザかな?」
熱弁するアメリーをよそに武蔵達は無反応であった。
「この情報をそうするかはお前たち次第だ、しかし!俺はお前たちを応援する、姫城さんの為に頑張れよ!じゃあな!あ、俺はツオカ・マシュゾだ!お前たちならできる!」
この妙に暑苦しい男はそう言って去って行った。
「ねえ武蔵さん」
「なんだミコッツ」
この話に対する最大の疑問をミコッツはぶつける。
「この話何だったんですか?」
「俺も知らん」
「じゃあ、この状況は?」
「最終回に入るフェーズ6ってとこだな」
「この戦いに終わりが見えてきたんですね?」
「いや違うな、これはお決まりの俺たちの戦いはこれからだパターンだ」
戦いはまだ続く、そういう事らしい。
次回予告
打ち切り小説の三大要素ってしってますか?「チート主人公の完全無双、唐突な過去回想、無駄なお色気描写」このどれかを満たし始めたら危険信号です。そしてこの小説もその聖域に足を踏み入れてしまいました。次回 新世代宇宙 ヰヴ・ゲリオンヌ お楽しみに!
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