第5話 みすたー不味っ子

~前回のサムライブ~

 私たち雅アイドルを目指すため日々活動していた。しかし人数は増えず二人で活動する毎日、そんなある日3人目のメンバーが入ることになった。その子はミクモちゃん忍者風の小生意気なやつ。このままメンバーを集めて全国みやびアイドル大会優勝狙うぞ。


「俺の情熱!俺の歌を聴けー!」

 そういって武蔵はヴァイオリンを取り出し音楽を奏で出す。その音楽は葉見垣太郎はみがきたろうの情熱太平洋。知らない人がいないほどの名曲だ。その音楽が辺りを満たし不思議な空間を作り上げる。


「あっははー情熱って素晴らしい!そう情熱とはうどんのつゆのようなんだ!」

「突然なに言ってんのこの忍者は」

 いつもの意味不明な発言にあきれる突っ込み担当ミコッツ。

 武蔵たちはアメリーたちの侵略を受けた情熱村に立ち寄っていた。情熱村はその名の通り情熱にあふれた村であり、そこの訪れると心に溢れる情熱が爆発するらしい。


「ミコッツ……お前は何もわかっていない。情熱の形とは人それぞれなんだ」

「そう、だから俺たちは心が求める衝動に沿って行動するのだ!」

 二人は連携の取れた掛け合いで話し出す。いつの間にこんなに仲良くなったんだ。


「情熱!」

 そう言って武蔵はミクモを殴る。

「やりやがったな、情熱!」

 ミクモも負けじと口にわさびをぶち込む。


「「……」」


 そして二人の間には無言の沈黙がしばらく流れた。

「てめぇ!何が情熱だ!口の中火事じゃねえか!」

「おめえこそ何してんだ!殴られて歯折れただろうが!見ろ!これ前歯だぞ」

 突然二人の間にやりとりに亀裂が入った。理由は不明だが不穏な空気が流れる。


「お前……、それうどんのちっこいのだぞ」

「なに?ほんとだ!前歯ある!よかったー俺の前歯」

「あんたたちはなんでそんなアホなんですか?」

 ミコッツは突っ込んではいるものの当然のごとくスルーされた。何だろうだんだん扱いが雑になっている気がする。


「つーかさお前の情熱ってスケールちっさいよな」

「あぁ?お前のその偽忍者よりかは情熱あるぞ?」

 また変ないがみ合いが始まった。


「よーし、じゃあ情熱合戦と行こうじゃないか」

「おう臨むところだこれでどっちが真の主人公かはっきりするな」

 よくわからない大戦が始まった。たぶんルールーはどちらが一番情熱を持っているかで決めるのだろう。そして主人公って武蔵じゃないの?


「まずは俺からな!」

 そう言って最初はミクモが情熱自慢を始めた。


「あれはある夏の日のことだった……、俺はいつものことで唯我独尊ゆいがどくそんの練習をしていたんだ。そしたらないきなり天から鳥の糞が降ってきて俺の指とETしたんだ。その時俺は最高の情熱を感じたんだ」

 ミクモが感慨深く過去を語った。何一つとして理解できないなんだ鳥の糞とETって。


「くっ、なんて情熱だ。俺もこの聖ろけっと☆ぷりんが無ければ危うく飲まれていた」

「何その変な名前の道具」

「なんだとあの伝説の聖ろけっと☆ぷりんを持っているだと貴様何者だ?」

 ミクモが驚きを隠せない表情で武蔵を睨みつけた。今の情熱は渾身の一撃だったのだろう。

「名乗るほどじゃないさ、武蔵、まじかる武蔵だ。ま、名乗るほどじゃないけどな」

「思いっきり名乗ってるー!」


「なんて奴だギガンティック雅治まさはる・レジェンドキリングだな、覚えておこう」

「うんそんなこと言ってないよね?君は耳がお陀仏だぶつなのかな?」

 この人たちのボケに付き合うの疲れてきたな。もう一人まともな人来ないかな。


「では次は俺の番だな、俺のはそう寒い冬の日のことだった。その日は一段と寒さが強くてな、雪滅却作戦コードネーム:隣の鍋に雪ぶち込む大会を開催していたんだ。その時だった友達の家から不審な赤い恰好をした人物が出できて俺は思わず、「あたりめ食べてえ!」と叫んでしまったんだ。そしたらその人物はたちまち捕まり監獄行きになった。そのあと分かった事だがあ友達のお父さんで子供に喜んでもらうためにサプライズした企画だったそうだ。あれがあの時メリークリスマス!リア充爆発万歳と言っていればこんなことにはならなかった」


「なんて、なんて情熱にあふれたいい話なんだ!これは有無を言わさず俺の負けだ」

「意味わかんないよ!基準何なの?これのどこに情熱要素あるの?」

 理解不能な話だった。ただこれは情熱を競う話であることは間違いない。絶対情熱の意味わかってないよねこの人たち。


「いやー素晴らしい!あなた達には才能がありそうですね」

 後ろから声がした。振り向くとそこにはアメリーらしき人物が立っていた。

「いやー分かります?」

「やっぱり情熱を持つものは違いますね!あのダメツッコミつは違って」

「ダメツッコミってなんだ!お前ら自分の発言見直してから言えよ!それとこいつアメリ……」


「はい!そこまでです!お二人方少し私とお話ししましょう」

 ミコッツがアメリーだと指摘しようとしたらあいつは話を妨げ何か二人に吹き込むように連れて行ってしまった。黒いサングラスに白髪交じりの泥棒ひげに全身真っ黒のスーツで身を包んでいる。何か見覚えのあるような無いような。


「では、話し合いも終わりましたので改めて自己紹介をさせていただきましょう。」

 その男は不敵に笑い、気味の悪い視線をこちらに向けた。

「私はアメリー特殊洗脳部隊体調Mrマリッコと申します。以後お見知りおきを、と言ってももう会うことはないでしょうね。ここで始末される運命なのですから!」

「どういう事だ!それと武蔵さんをどうしたんだ!」

 マリッコはその質問を待ち望んでいたかのように恍惚とした表情で答えた。


「よくぞ聞いてくれました!私の専門は洗脳、相手に催眠をかけて思いのままに操ることができるのです!さあ!行きなさい!私の傀儡くぐつ人形たち!」

 その掛け声とともに武蔵とミクモが襲い掛かってきた。二人はまるで意志を持たない人形そのもののようだった。


「えだまめー!ハイドロプレーニング現象!」

「メルカトル図法!ラマーズ法!」

 何の関連性もない単語を連呼する二人。ほんとは洗脳されてないんじゃないのか?


「アンタレス!水上置換!」

「ネギみそ~!太陽系外縁天体!」

 容赦なく二人は攻撃を仕掛けてきた。ふざけているのかと思ったがそんなことはなかった。本当に洗脳されて操られている。よくわからない単語はいまいち理解できないが。

「いいぞ!このままやってしまえ!」

 マリッコが高笑いしてとどめを命令する。


「めんとす~!」

「カーボンナノファイバー!」

 二人の目は虚ろで正気に戻りそうな気配は全くない。

「くそっ、武蔵さん!ミクモ!正気になれよ!あんたたちの情熱はどうしたんだ!」

 ミコッツが初めて感情的になった。いつもはあんなにあきれていたが心の底では二人を信じていたのだ。二人ならきっとこの状況を打開してくれると思っていたのに、こんなにも簡単に操られてしまったことに対して激しい怒りがこみ上げていた。


「ぱぴよん……」

「みりおん……」


 二人の動作が鈍った。ミコッツの声が届いたのだろうか。だがまだ洗脳は解けてはいない、あのマリッコを倒さなければすべては解決しないのだ。

「何をしても無駄だ、私の洗脳はそうやすやすと解除できん!さあやってしまえ!」

 マリッコがとどめの宣言をした。もう助からない諦めかけたその時だった。


「はーい!それではやってまいりましょう本日も3分間デスクッキング!今回は何を作るんですか?」

「えー、今回はねスペシャルスープを作っていくよ」

 突然武蔵達の口調が変わり料理番組が始まった。


「なんだ?おい!お前ら言う事聞け!」

 マリッコは必死で命令するが全く聞き入れる様子が無い。


「それではねまずこの缶詰を開けてもらいましょう、はいミクモ君」

「それじゃあ開けまーす!……っくさや!」

「残念それはシュールストレミングでしたーってドリアッ!」

 なぜか料理であの激臭物シュールストレミングを開けていた。どんなゲテモノ料理ができるんだ。


「ではここからさっきの材料を煮込んで、最後にハチミツをかければ完成です!さあ召し上がれ!」

 そう言って煮込まれていった材料は納豆、かびたパン、新聞紙、蛇、腐りかけのジャガイモなどありとあらゆるものが詰め込まれていた。


「……これ食べ物ですか?」

 完成した料理はマリッコへ運ばれていた。どうやらマリッコがこの料理の食レポをするようだ。

「おかわりはまだたくさんあるから遠慮しないで食べるんだ」

 武蔵は自信満々で食べる様子を見ていた。この料理絶対的な自信があるのだろう。


「食べなかったら全部鼻から食わすぞ」

 お残しは許しませんか、絶対にこれ食べたら死ぬと思うよ。なんか紫色みたいな緑がかった灰色で、スープっていうよりジェルみたいなドロドロ感。匂いは死臭のような腐敗臭でもう料理とは名ばかりの殺人兵器だ。


「うぅ、食えないこんなもの、お前らが食えよ。なんで洗脳解けてんの?あいつの声で解けたのか?」

 マリッコは愚痴を吐き出しまくってそのスープに手を付ける。が、スプーンを入れた瞬間スプーンが溶けた。このスープ何が入ってるんだ、ほんとに飲んだら死ぬんじゃないか?

「おい、食えないのか?」

「え、いやそんなことはないです!食べます……」

 食べ物に対する感謝を忘れてはいけない。どんな時も命は粗末に扱ってはいけないのだ。


 ずっず……


「っ!!!おえぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーー!!!!」

 マリッコはあまりの料理の破壊力に力尽きた。


「どんな料理も出されたら食べるそれが鉄則だ」

「たとえ、俺らの料理が危険物だったとしてもな」


 二人のかっこいいセリフによってこの3分間デスクッキングは幕を閉じた。

 結局この村を侵略したアメリーはマリッコだったようで洗脳で文化を無理矢理浸透させていたそうだ。


次回予告 

 武蔵とミクモはコンビを組みある夢に向かって歩みを進めていた。そして、そこには苦難や挫折があり、多くの人との物語があった。次回 二人の歩むべき道 お楽しみに!

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