52 王位真偽戦争Ⅲ 2.5


 支援射撃を放ったグレイプニール。

 その直後、グレイプニールが激しく揺らされる。


「い、今の衝撃は何!?」


 原因を突き止める為、オペレーターを行ってくれているノーマに問う。

 ノーマはディスプレイを見てから答える。


「大変ッ! グレイプニィル損傷したわぁ!」

「ひ、被害率は!?」

「装甲の一部が吹き飛んだだけよ! でも、これ以上の戦闘は危険よ!」

「……ッ! ま、まだ……まだ、達也達が……――ッ!!」


 戦闘継続を行うか決めようとした瞬間、東北の方から1つの光が舞い上がった。

 それの光を見た反サームクェイド軍とセラ達は即決断する。


「ノーマ姐さんッ!! 大至急、撤退命令を!!」

「了解よ! こちら、ノーマ! みんな作戦は終了よ! 至急撤退! 繰り返すわ! 作戦は終了! 至急撤退よ!」

「ネイベル姐さん! グレイプニールを可能な限りで良い……出来るだけみんなの盾になって! それで撤退!」

「まっかせなさーい!」


 指示出しを終えると、艦長席でようやく腰を落ち着かせたセラ。

 そして、照明弾の上がっている方へ視線を向ける。


「流石だね、達也、兄さん」


 微笑みながら口に出すセラ。後は撤退のみ、という事を考えると気持ちが楽になる。


「ノーマ姐さん! 再度砲撃を撃つのにどれくらい掛かる?」

「後、5分は必要よー!」

「分かりました。では、放てる時に再度通達をお願いします」

「了解ッ」


 その後、撤退している味方の魔装騎兵フレーム・ストライカー盾になるべく、ゆっくりと後退していく。



 ――――――――――――


 撤退の合図を確認したベルクラース達は直ぐに撤退しようとしていた。


「全機! 欠けるなよ!」

「「「了解ッ!!」」」


 盾を正面に構えながら後退していくベルクラースの部隊。

 しかし、ベルクラース達の部隊はレティやグレイプニールよりも前に居たせいで、後退しようにも相手の魔撃による攻撃が激しい。

 激しい戦闘を続けたエクサリアの盾も相手の無数の魔撃にとうとう耐えられなくなり、砕けていく。

 そして一機の盾が完全にはじけ飛ぶ。


「うわぁあああああああああ!!」


 弾け飛んだ瞬間の衝撃に耐えられず、腕の魔鉱繊維が断線し、一部のフレーム装甲が壊れ、その間から千切れた魔鉱繊維たれ落ちる。


「壊れていない盾を持つエクサリアは壊れた者のカバーに回れ!」

「「「了解!」」」


 盾が壊れた者から守っていく。だが、守りながら後退していくのは難しく、次々に盾が壊れて行った。

 そして、ついにベルクラースの持つ盾すらも壊れてしまい、全機盾を失う事となった。

 

「クッ!! 全機! 壊れていない腕でコックピットを守りながら後退ッ!!」

「「「りょ、了解ッ!」」」


 しかし、盾よりも耐久性が低い装甲ではグレイプニールまでたどり着くことは難しく。


「隊長……」

「どうした!」

「自分は……もう無理です」

「何を言って――ッ!!」


 ベルクラースの専用機、エートルは部下のエクサリアの方を向く。

 言葉を失う、片腕が地面に転がり落ち、壊れた腕から千切れた魔鉱繊維が無残にも姿を見せた。

 それだけでなく胸部装甲が剥がれている。

 つまり、コックピットを守る装甲が無くなっていた。


「生きて……生きて帰るんだ!!」

「もう無理ですよ、ですから……!」


 一言言ってからエートルの前に立ち背面を向け、エートルの盾になるエクサリア。


「何をしている!!」

「良いんです」


 思わず足を止めるベルクラースのエートル。


「足を止めるなッ!! 全機! 死ぬ気で隊長……ベルクラース様をお守りしろッ!!」

「「「……ッ! 了解ッ」」」


 残りの4機がエートルの両腕を掴み、強制的に後退させていく。


「やめろッ!! 死ぬんじゃない!!」

「……ベルクラース様、貴方はここで死ぬ人じゃないです。それに貴方様の為に死ねるなら……本望です」


 話している間にも盾としているエクサリアの装甲がはじけ飛んで行く。

 そして、エクサリアの足が撃ち抜かれ、その場で倒れこむ。


「生きて下さい、ベルクラース様」

「やめろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」


 悲痛な叫びをあげるベルクラース。

 倒れたエクサリアへ魔撃の雨が降り注ぐ。


「情けない声を出すじゃないか、ベルクラース」


 通信が入った直後、ムルジナの乗るエルクェドが降り注いできた魔撃の雨から防ぎ切り、ベルクラースの部下を守った。

 まさかの人物の登場に驚きを隠せないベルクラース。


「な、何故……貴方は中央戦線で戦っていた筈……!」

「ぬわっはっはっはっ! なーに! ベルクラースが帰って来てないと連絡を受けてな! 急いで来たわけじゃ!」


 大らかに笑うムルジナに少々呆れるが、


「ムルジナ殿、本当に感謝いたします」

「良い! さぁ、ここから立ち去るぞ! 良いな皆!」

「「「はい!! ムルジナ様!」」」


 ムルジナの部下がムルジナの声に合わせて答える。

 ベルクラースの部隊をカバーしながら、着実にグレイプニールへ帰還しようとするベルクラースとムルジナ達。

 しかし、目の前で爆発が起き、土煙が舞い上がる。

 その土煙を見たムルジナとベルクラースは思い出す。


「あぁ……! コイツがいたのう……ッ!!」

「今だけは相手したくないですねッ!!」


 土煙から現れたのは通常の魔装騎兵フレーム・ストライカーの2倍の大きさを誇る、大型おおがた魔装騎兵フレーム・ストライカー

 目元が赤く光り、魔鉱繊維が悲鳴を上げている様に聞こえる程軋みを上げる。


『我ら、ジンガームに逆らった事、万死に値する』

 

 大型おおがた魔装騎兵フレーム・ストライカーから言われ、ムルジナとベルクラースは互いに見てから、左右分かれた。


「全機! 撤退しつつ、コイツを凌ぐぞ!」

「コヤツが近くにいれば少なからず、相手からの援護魔撃は無いからの!」

「「「了解ッ!!」」」


 ベルクラースの部隊とムルジナの部隊を半分に分け、相手に集中されぬ様に立ち回る。

 何より、グレイプニールの砲撃があれば大型おおがた魔装騎兵フレーム・ストライカーとて、無事では済まない。

 再度発射される時間と、なるべく撤退しながら戦うのであった。

 ムルジナの方へ向いた瞬間、ベルクラースの部隊が魔撃を放つ。


 逆にベルクラースの方へ向いた瞬間、ムルジナの部隊が魔撃を放つ。

 戦法としては単純だが、大物を相手するときには効果は高い。

 しかし、唯一の欠点としては、


『しゃらくさいッ……!!』


 ムルジナ達の攻撃を無視し、ベルクラースの方へ振り返って突撃を始める。


「行かせるなッ!!」


 ムルジナ達はベルクラースの方へ行かせまいと、魔撃を放ちつつ追う。

 動きの遅い大型おおがた魔装騎兵フレーム・ストライカーはベルクラースの方へ足を運ぶ。

 だが、ベルクラースはコックピット内で気づいた。


「待て、そもそもコイツ……どうやって現れた?」


 1人で呟くベルクラースは大型おおがた魔装騎兵フレーム・ストライカーと会った時の事を思い出す。

 大型おおがた魔装騎兵フレーム・ストライカーは突如やって来た。

 その後、戦うと分かるのが強さだ。

 私の部隊は10機のエクサリアの部隊だった。


 しかし、この大型おおがた魔装騎兵フレーム・ストライカーが5機も失った。

 戦闘能力は明白、あの時はグレイプニールの砲撃と煙幕の御陰で凌いだ。

 だが、さっきもそうだがこいつは何処から現れた?

 地中か? いや、地面に穴が開いていない……!?


 まさか……コイツは……空か、ら?

 じゃあどうやって!? この巨体を飛ばす程の物なら目視できる位大きい筈。

 だが、その姿はこの戦闘では目にしていない。

 

 ここで一つの結論に至るベルクラース。


「ま、さか……コイツは……! こちらベルクラース!! ムルジナ殿!! 追うなああああああああああッ!!!!」


 即座に通信を入れた直後である。

 大型おおがた魔装騎兵フレーム・ストライカーが足を止め、地面をえぐりながら反転し、ムルジナの方へ振り返る。

 そして、脚部の圧力バーが解放された瞬間、高速でムルジナ達の方へ飛んで行く。


「なん――ッ!?」


 まさかの事態にムルジナの部隊へ大型おおがた魔装騎兵フレーム・ストライカーは大きく腕を横に振り払う。

 振り払われたエクサリアは一瞬で鉄くずへと変わった。

 目の前で起きた事に何も言う事が出来ないムルジナ。

 ムルジナは歴戦の経験と勘でベルクラースの通信が入った瞬間に、急停止行動に移っていた為、振り払われずに済んだ。


 だが、それは一瞬の束の間である。

 もう一度、振りかぶりムルジナへ拳を放つ。


「舐めるなぁッ!!」


 後ろへ飛んで拳を避けようとしたが、腕が伸びる。

 腕が伸びるとは思わなかったムルジナは避ける事が出来ず、直撃を免れる事が出来なかった。

 右半身が大敗、装甲や腕が地面に無残にも投げ飛ばされる。

 専用機として装甲などを改良してあった御陰で即死までは至らなかったが。


「ガッフ……お、のれぇ……」


 衝撃波逃がす事が出来ず、頭と腹部から血を流し、半壊し外が見える状態のコックピットから大型おおがた魔装騎兵フレーム・ストライカーを睨む。

 すぐさま救助しようとベルクラース達が近づこうとした瞬間、ジンガーム軍とサームクェイド軍が駆け付けられ、横からの魔撃に襲われる。


「くそ!!」


 直ぐに迎撃態勢を取りつつ、救助へ向かおうとするが相手の援護が厚く、近づく事が出来ない。

 大型おおがた魔装騎兵フレーム・ストライカーはゆっくりとムルジナへ近づく。

 大破し動くの鈍くなったエルクェドを必死に動かし、大型おおがた魔装騎兵フレーム・ストライカーから離れようとするムルジナ。

 千切れた魔鉱繊維が見え、一部の装甲が無く動かす度に魔鉱繊維と装甲が悲鳴を上げる様に鈍い音を響かせる。


 そしてエルクェドは離れているのではなく、目の前にあった剣を掴み、ゆっくりと立ち上がる。


「はぁ……はぁ……」


 流血のせいで片眼を瞑り、息をするのが難しい中、大型おおがた魔装騎兵フレーム・ストライカーと対面するムルジナ。


『ほぅ? まだ戦おうとするか』


 大型おおがた魔装騎兵フレーム・ストライカーから聞こえる音声にムルジナは息を整え。


「ワシは……4将騎士、だからな……そう簡単に倒れて……なる、ものか……ゴフッ……!」


 耐えきれず吐血をしてしまうムルジナ。

 それを見た大型おおがた魔装騎兵フレーム・ストライカーの騎士。


『そうか、なら今から楽にしてやろう』


 一言言ってから大型おおがた魔装騎兵フレーム・ストライカーの手がエルクェドを両手で掴む。

 そして、手に力を入れていき、少しづつエルクェドが潰れていく。

 その光景を目の間にしていたベルクラース。


「やめろォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」


 悲痛な叫びをあげるが、その声は相手には届かなかった。

 だが、


『ベルクラース……』


 ムルジナからの通信に驚愕したベルクラース。


「ムルジナ殿!! 今から助けに参ります!! お待ちください!!」

『……良い、どの道ワシは助からんよ……装甲の破片が、腹部に……深く、刺さっておって、のぉ……』

「……ッ!! 姫様はどうするのですか……!! 貴方の部隊はどうするのですかッ!!」

『……すまんな、ベルクラース』

「クッ……!」

『最後の頼みじゃ……ベルクラース』

「なん……でしょう、か……ッ!!」

『グレイプニールに……ポイントをワシに、砲撃が……決まり、次第……ワシの、足元にある……マナタンクを撃ってくれ……ゴホッ……』


 何かと思い、エルクェドの下を見ると、予備のマナタンクが大型おおがた魔装騎兵フレーム・ストライカーの足元にある事が分かったベルクラース。

 先程の這いずりは武器を取る為のフェイクで有り、マナタンクを大型おおがた魔装騎兵フレーム・ストライカーの足元へ置く為であった。


「……了解した。ッ――こちら、ベルクラース! 今から座標を送ります! ここに支援砲撃を!」


 グレイプニールへ通信を送ると。


『こちら、グレイプニール! ベルクラースさん、早く戻って!! これ以上はグレイプニールも持たない!!』


 セラからの通信に、ベルクラースは操縦桿を強く握りしめてから、


「お願いです……ッ!! 送った座標に支援射撃をッ……!!」

『確認したわ、ここに支援――ッ!? 待って! ここにムルジナさんいるじゃない!! 撃て――』

「――これはムルジナ殿からの命令だッ!! 撃て!! ベロウズ艦長ッ!!!!」

『撃てませんッ!!!!』

「ムルジナ殿は大型おおがた魔装騎兵フレーム・ストライカーの攻撃を受け、既に瀕死なんです……!! 最後にあの方は、大型おおがた魔装騎兵フレーム・ストライカーを道連れにしようとしているんです!! 今もなお、エルクェドの強固な装甲を潰そうとしている大型おおがた魔装騎兵フレーム・ストライカーがいるんだッ!!!!」

『なッ……』

「だから……撃ってくれ、ベロウズ艦長……! ムルジナ殿を……苦しませないで、くれ……責任なら、私が取ります……ですから、撃ってくださいッ」


 最後は泣きながら言うベルクラースにセラ達は決意し、


『支援砲撃……ポイントはエルクェド』


 セラの迷いの籠った一言に従うグレイプニールの船員。

 ベルクラースは心からセラへ感謝の気持ちを抱く。


『カウント10』


 カウントが始まった瞬間、ベルクラース達は全力で後退しつつ迎撃する。

 そして、徐々に潰され原型が既に無くなっているエルクェドを見てから、最後に通信を送る。


「ムルジナ殿……」

『……お、べる……-す、か……』

「支援砲撃が、まもなく来ます」

『そ……か、それ……よか……た』

「……貴方の死は無駄にしません」

『……クラース、最後に……こ……だ……け、伝え……ないか?』


 途切れ途切れの通信だが、話が分かるベルクラース。


「なんでしょう?」


『身勝手ではありますが、この老いぼれ、貴方の御父上と共に見守っております故、どうか暫しのお休みを頂きます。と、姫様に伝えてくれ』


 その瞬間だけ、何故か鮮明にムルジナの言葉が聞こえた瞬間だった。


「ええ、伝えておきます……お疲れ様です、ムルジナ殿」


 通信が帰ってくる事は無く、ノイズ音のみがベルクラースのコックピット内を響かせる。

 既にベルクラースの機体、エルクェドは大型おおがた魔装騎兵フレーム・ストライカーの手によって握りつぶされていた。

 それを見たベルクラースは怒りと殺意を大型おおがた魔装騎兵フレーム・ストライカーに向けるが、ムルジナの残した置き土産のマナタンクへ魔撃を一発放った。


「くたばれ、クソ野郎……!」


 命中後、爆発を起こし大型おおがた魔装騎兵フレーム・ストライカーの脚部を損傷させた。

 そして、支援砲撃が大型おおがた魔装騎兵フレーム・ストライカーを飲み込んだ。

 着弾を確認したベルクラース達は急いでその場から離れ、戦線を離脱。

 無事とは言えないが、ベルクラース達は回収され、中央戦線と南西戦線の陽動作戦が終了した。


 達也達と合流後、ムルジナの死を聞いた達也は驚きを隠せない。

 ティア達も余りにも衝撃的過ぎて、受け止めきれずにいた。

 特にティアはムルジナはもう一人の親の様な存在で有り、耐えきれずロイの胸で泣き叫んだ。


 その日、反サームクェイド軍でもっとも民に愛され、親しまれた4将騎士ムルジナの死亡がサームクェイド全域に広まった。



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