50 王位真偽戦争Ⅲ 1.5

 ロイの一言に思わず涙が出そうになるティア。

 しかし、そんなロイへエンキドゥのハンマーが振り下ろされる。


「ロイッ!!」


 後ろを見ているロイの乗るヴァルキスへ叫ぶティア。

 だが、次の瞬間、エンキドゥが急停止し、その場から動かない。

 何故かと思い、良く見てると、ロイの持つ大型ランスがエンキドゥの胸部へ突き刺さっていた。


「これ、本当は突き刺す為の槍じゃ無いんだけどな」


 槍から手を放すとエクトールが長剣を構えながら突っ込んでくる。

 エクトールに対しヴァルキスは大型の盾を水平に持つ。

 その後、間合いに入った瞬間に盾でエクトールの胸部へ突き刺した。


「盾にはこういう使い方もあるんだ、覚えて置け」


 挑発するように言うと、ジンガーム軍とサームクェイド軍はヴァルキスに突っ込み、


「殺せぇえええええええええええええええッ!!!!」


 殺意を向きだしながらヴェルキスへ襲い掛かる。

 突っ込んで来たエンキドゥとエクトールの5機。

 ヴァルキスは両肩に装備してあるハンドアクスを掴み、交差するように投げた。

 投げられたハンドアクスは見事エンキドゥ2機の胸部へ突き刺さり、倒れる。


 残り3機になったエンキドゥとエクトールへ両腰に装備したハンドアクスを逆手で掴み、そのまま投擲。

 左右斜めに飛んで行くハンドアクスはエクトールの胸部へ突き刺さる。

 ハンドアクスが刺さると、ゆっくりと足の関節が曲り地面へと吸い込まれるように倒れた。


「……化け物め……」


 思わずエンキドゥに乗る騎士が言う。

 それもその筈、守りながらと言うのにも関わらず、たったの40秒で6機を倒したのだから。

 

「退くなら、追わない。さぁどうする?」

「クソが……! なめ――!?」


 突如、話を遮る様に1つの高音が鳴り響きながら舞い上がる照明弾。

 その意味を知っているジンガーム軍とサームクェイド軍は歯を食いしばる。

 数秒後、照明弾は消えるとジンガーム軍とサームクェイド軍は地面に魔撃を放ち、砂ぼこりを上げてから撤退。


「行ったか……」


 厳重警戒とは言わないが、通常よりも軽めに警戒するロイであった。



 ―――――――――


 照明弾を放ち、撤退命令を出したロゥエン。

 そんな彼の元へ1人の部下がやってきた。


「隊長」

「どうした?」

「なぜ、撤退を? 我らが出れば任務は達成できます」

「……情報に少し誤りがあったようだな」

「は?」


 首を傾げる部下へロゥエンは言う。


「黒曜騎士団は団長が1番危険だと判断していた、が……どうやら、他の者達は団長程で無いにしろ、相当腕が長けるらしいと、判断する」

「ですね」

「よって、我らが出ても犠牲を払うだけだと判断した」

「そういう事でしたか」

「ああ」

「では、〝彼ら〟はどういたしますか?」

「殺せ」

「招致」


 一言言うと闇に紛れて姿を消した部下。

 そして、撤退命令を出されたジンガーム軍とサームクェイド軍は街道を歩いていた。


「どう報告する?」

「簡単だ。暗殺部隊が仕事しませんでしたってな」

「なるほど、それはかんた――」


 突如、通信が切れる仲間に違和感を感じ振り返る。

 そこには見慣れぬ黒い魔装騎兵フレーム・ストライカーがエクトールの胸部を背後から貫いていた。


「な、何だ! き――」


 身構えようとレバーを引いた瞬間、首したの装甲と装甲の間へ、スピアネイルが突き刺さる。

 生き残ったジンガーム軍とサームクェイド軍は5名。

 しかし、この日王女暗殺に向かったジンガーム軍とサームクェイド軍の騎士達は2度と帰ってくることは無かった。

 仕事を終え、隊長であるロゥエンの元へ戻って来た部下達。


「ただいま戻りました」

「ご苦労」

「排除完了です」

「ああ、これでやり返せた」

「と、言うと?」

「俺らは奴らにはめられた。もし、倒そうなんて考えを持っていたら、俺達はこの世にはいない」

「何故ですか?」


 何故なのか、それを聞くと、


「ロイ・ダキアヌ。奴はまだ、本気では無い。もし、本気なら……どうなるか分からんが、間違いなく俺達はこの世にはいない。俺の勘がそう言っている」

「隊長の勘でしたら正解です」

「……まぁ、これで奴らは俺達が死んだと判断する。そうなれば、暗殺は奴らにはできない。何せ俺達が失敗したと勘違いする程にな」


 その一言で全員が笑い出す。


「隊長、この戦争どうなりますかね?」

「それは……分からん」

「何故です?」

「ジンガーム軍とサームクェイド軍には切り札が2つある。そのうち一つは黒曜騎士団団長とぶつかるが……もう1つはどうなるかだな。それによっては、この戦争どう転ぶか分からん」

「ではどうします?」

「最後まで見ていくつもりだ……本国の為にな」

「了解です。斥候を放っておきます」

「ああ、頼む」


 その一言を言った後、ロゥエン達は姿を消した。

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