王位真偽戦争 Ⅲ

49 王位真偽戦争Ⅲ 1


 大岩で道を阻まれたロイ達一行。

 そんな彼らにジンガーム軍とサームクェイド軍が襲い掛かる。

 ベルクラースは部下を2人連れており応戦。

 しかしその反面、ロイの方は単騎のみ、それも相手の狙いである王女の殺害。


 15機のエンキドゥとエクトールの混合。

 一番に戦力が集まったのは当然。


「偽の王女を殺せッ!!」

「お前がこの戦争の……! 悪の権化だッ!!」


 10機のエンキドゥとエクトールがロイ達へ襲い掛かる。

 ロイは操縦桿を強く握り直す。

 その後、ヴァルキスの大楯と大型ランスを構える。

 ティアは凄まじい光景だけでなく、肌で感じる程の殺意に畏怖した。


 操縦桿を握る手が段々と震え始め、次第には操縦桿を手放す。

 迫りくる恐怖、揺れる大地に心が蝕まれていく中、ティアは思う。

 もういっその事、この身を差し出せば……戦争は終わるのだろう。

 ……これ以上誰かが死ぬことは無い、血が流れる事も無い……。


 民は振り回され続け……家族とも別れ、戦争に向かう……。

 これの何処に大義があるのだろうか……。

 どれだけ多くの人を巻き込み、どれだけ自分のワガママを突き通すのか。

 死ねば……楽に、なれるだろうか……。


 そんな事を思ったティア……だが、


「必ず、守ってやる」


 ヴァルスから発せられるロイの声に我に返る。

 たった1機だと言うのに、追い込まれている状況だと言うのにも関わらず、何とも力強く、安心させられる声。

 そんなロイの言葉に安心し、震えが止まり操縦桿を強く握りしめた。


「助けて――」

「――」


 どうしてだろう……最初は嫌いだったのに、アイリスと叔母様から聞いた話で、彼の見る目が変わった。

 

 ―――――――――


 ロイが到着する10分前の事である。


「それにしても、黒曜騎士団は本当に強いのね……!」

「ですね、流石は兄上が送って来てくれた騎士団ね」


 紅茶を飲みながら黒曜騎士団の話題を持ち出す2人。


「……私は、あの補佐代理がもっとまともなら、良かったんですけど……」


 思わず、愚痴をこぼすティア。

 アメリアとアイリスは顔を合わせてから、


「ティア?」

「何ですか?」

「貴方、気づいていないの?」

「……? 何がです?」

「あー……これは気づいていないのね」


 アイリスが額に手を当てながら言う。

 何が気づいていないのか分からないティア。

 アメリアは紅茶を一口飲んでからティアを見つめ、


「ティア、貴方は今とても厳しい人と出会っていますし、とても厳しい状況に置かれています」

「は、はい……そうですね」

「貴方は御父上を亡くし、偽物扱い」

「……はい」

「貴方は傷心しました。それも深く深く」

「……」

「そんな貴方に、誰も向き合えなかった」


 真剣な表情で話すアイリスの言葉にティアは黙り込む。


「けど、彼は違った」


 補佐代理の事だろう。


「彼は真正面から貴方にぶつかった。今にも壊れそうな貴方に」


 言われた、偽物って……本当に嫌いだった。


「誰も言わなかった現実の厳しさも」


 血が流れる、私のせいで。そんなのは知っている。

 けど、彼は……彼だけは言った。


「嫌われる、今後良い関係は作れないし彼は貴族。隣国の王女に嫌われた何て知れば、彼の品格も落ちるのに、彼は言った」


 そう、補佐代理は……補佐代理だけは言ってくれた。


「王が倒れては国も倒れると……隣国の彼が言う事ではない。けど、一番に彼は貴方を……貴方とこの国を思って言ったんですよ。自分が嫌われ者になろうが泥を被ろうが、貴方とこの国の為に」


 私の為に、この国の為に。


「……正直、あれほどの騎士がこのサームクェイドに居たらどれだけ、国が豊かになるか……私は彼がこの国で生まれて欲しかったと思うばかりですよ」


 はぁ……深いため息を1つ付くアメリア。


「あら、お母様? 団長は欲しいとは思わないのですか?」

「欲しいさ、けど……彼の手綱を持つには心労が絶えなさそうでね……兄上の国ならではだよ、あれは」

「ああー……確かに……」


 ―――――――――


 グレイプニール格納庫内にて。


「ハ、ハックショイ!! うぅ……誰か噂したなー!?」


 まさかの達也もここで達也の事で諦めの話題があるとは本人が知る余地も無かった。


 ―――――――――


 アメリアの回答に納得が行く答えであった。

 おっほんと1つ咳ばらいをしたアメリアは、


「話は反れましたが、どうですか? ティア、彼は優秀だと私は感じましたよ?」

「~~~~ッ!!」


 その言葉に何故か顔が熱くなったのが分かる。

 思わず顔を隠す。


「あらー? どうして顔を隠すのかしら、ティア?」

「……何でもないです」


 ……感謝の言葉を言おう彼に……いや、ロイに。


 ―――――――――


 ヴァルキスの背中を見守りながら言う。


「助けて――ロイ……!」


 涙が出そうになる。


 ヴァルキスの横眼でこちらを見ながら、


「――任せろ」


 安心感に満ちた言葉が返って来たのであった。

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