47 王位真偽戦争Ⅱ 9.5


 ロイは達也の命を受け、ヴァルキスを女王のいるデウンへ急いだ。

 多少時間は掛かるが、ロイは1時間でデウンへ到着。

 格納庫にヴァルキスを入れ、搭乗席から降りる際にロイの持つ手のひらサイズの杖に付いているスイッチを押すと、施錠音が鳴り操縦席のハッチが閉まる。

 これは以前、セレスロアの奪取された時の対策として設けられた物で、その杖が無ければ開く事は無い基本的に無い仕様になっている。


 因みに、黒曜騎士団の全ての魔装騎兵フレーム・ストライカーにはこのシステムが設けられている。

 それからデウンに到着後、ロイは真っ先にティアの安否を確認しに部屋へ向かう。

 ティアとアイリス、アメリアのいる部屋に。

 扉の前には警備をしている騎士2名。その2人に対し、ロイは敬礼を行うと合わせて返す。


 扉の前に立ち、息を整えてからノックを3回。


「黒曜騎士団団長補佐代理、ロイ・ダキアヌです」

「入りなさい」

「失礼します」


 扉を開け、中の3人へ頭を下げる。

 頭を下げている時、ロイはティアに何か不満や苦情を言われるのだろう、と思っていたが、一向に言われる気配が無い。

 数秒後、頭を上げ3人を見る。


「ロイ君、君が何故ここに?」

「そうです、貴方は最前線に居る筈の騎士ですよね?」

「アメリア様、アイリス様。私は王女を守りにここにやってまいりました」

「どういう事かね? ロイ君」

「経緯をご説明いたします」


 先にあった作戦会議の内容と今後、相手の取る行動の予測をいsての事を説明すると、アメリアとアイリス、ティアは顔色を青く染める。


「戻ってきたのは君だけかな?」

「いえ、サームクェイドの騎士を数名。後程来るかと思います」

「先行して君だけが辿り着いた訳か」

「左様でございます」

「ふむ……だそうですよ、ティア」


 アメリアに言われると、何故かティアはロイから顔を反らす。

 何が何だか分からないロイは少しだけ困惑する。

 顔を反らす程か……まぁ、大分嫌われているな。

 思いつつ、ティアの方を見ていると、


「わ、分かりました。護衛、お願いいたします」

「了解しました」


 何故かティアの頬が少し赤らめている気がする。

 だが、窓から差し込んでいる光の加減かも知れない為、深く考えなかったロイである。

 そんなティアを見たアイリスが何故かニヤついていた。


「どうしかしましたか?」

「いえ、折角ティアの事を一番に思っている騎士が現れたと言うのに、つれない態度を取る子が面白くてですね」

「ちょッ! アイリス!!」

「良いじゃなーい、ねぇーお母様」


 ロイは話が全く分からないまま、何故か話が進んでいく。

 そんな中、アイリスが静かに紅茶を飲んでいるアメリアに話題を振る。

 カップをお皿の上に置き、ティアを見つめ、


「ティア、人は言葉にしないと分からない生き物なんです。それに……無くなってからじゃ、遅いんですよ?」


 何処か儚げなく、だが優しい瞳をしたアメリアが諭す様に伝える。

 その言葉の意味を理解したティアは、俯き頬を赤く染めながらロイの方へ向く。


「えっと……その……あ、あり……っとう」

「お、おう? な、何でだ?」

「~~ッ!! あ、貴方が私に優しくなかったり! 酷い事言ったのは私の為でしょ!! その……い、意味が分かったから……あり、がとう……」

「気にする事は無い」

「なッ! 何よ、その言い方!」

「俺は騎士だ。守るのは当然だ」


 フンッ! と言ってからロイから離れるティア。

 アハハハ……と乾いた笑いをしながら2人を見続けた。

 いつもと変わらぬ日常、戦争中だと言うのにちょっと前と少し同じ生活をしているティア。

 彼女は密かに心で思う、もし黒曜騎士団が来なかった今頃どうなっていたのだろう? と。


 いや、容易に想像がつく。私は偽物として扱われ、叔母様にアイリス、ベルクラースとムルジナは反逆罪で死刑となっていただろう。

 当然、私も死刑で民の前で公開処刑となっている筈。

 そんな中、黒曜騎士団が救ってくれたのだ。

 それも信頼出来るか分からない私に。


 心から感謝しなければならない。

 そう分かっていたのだが、何故かロイだけは何処か引っかかるティア。

 何故か、ロイだけは少しだけ違う。それが分からない。

 何故だろう……と思った瞬間、場外で爆発音が響き、黒煙が上がる。


「な、何!?」

「アメリア様、アイリス様は早急に避難を! 王女は俺が守ります!」

「分かりました。騎士はいるか!」


 アメリア様の掛け声と共に奥の部屋から近衛騎士が姿を現した。

 だが、ロイは3人の前に立ってから剣抜き、近衛騎士に構える。


「な、何を!?」

「……何故、奥の部屋から出てきた?」

「ロイ君、近衛騎士はそういう物だ」

「そうですか、なら……さっきの姫の話は聞いていたか?」

「ああ、ティア王女のありがとうって話だろう?」

「そうか……」


  ゆっくりと歩み寄り、肩に手を置く。


「何で、王女の名前を出した? 俺は、姫って言ったんだ」

「――! 言い間違いだ!!」

「そうか、なら顔を触らせろ」


 肩に置いた手で近衛騎士の顔に手を伸ばす。

 その瞬間、近衛騎士がロイの手を払い、懐からナイフを取り出した。

 しかし、ロイは動じる事は無く、むしろナイフの持った手を取り、腕を捻り上げ、体勢を崩した所で背負い投げ。

 床に叩きつけられた近衛騎士の横顔に足を振り下ろす。


 もう1人の近衛騎士はティアへナイフを投げつけてから、すぐさまナイフを取り出し、ティアへ駆け寄る。

 アイリスとアメリアが身を挺して、ティアを守ろうとする。

 しかし、ナイフは途中でティア達とは別方向へ軌道が変わり、壁に突き刺さった。

 ロイが銃型の杖、魔銃で魔法を放ち、飛んでいるナイフに当て、軌道を変更させた。


 ナイフを構えた近衛騎士もとより、暗殺者がティア達へ駆け寄る中、ロイはエアスラストを使い、暗殺者へ飛んで行く。


「死ねぇええええええええええええええ!!!!」

「ティア!!」

「クッ!!」

「いやぁあああああああ!!」


 ナイフが振り下ろされた瞬間、


「な……!」


 ロイが空中で暗殺者の腕を蹴り上げ、ナイフは天井と壁の間に突き刺さる。

 何故、天井と壁の間に突き刺さったのか、ロイの放った蹴りは暗殺者の腕をへし折ったのだ。

 力を失った手からナイフが飛んで行ったから。

 失敗したと分かった瞬間にはナイフをもう1本取りだす。


 流石、暗殺者である。行動1つが早い。

 しかし、その先の行動を予測して既に動いている者。

 突如、暗殺者が吹き飛び壁に背中を強く打ち付け気絶。

 蹴り上げた後、後転してから魔銃を構えており、相手が行動する瞬間に放った。

 

 その後、ロイは壁に足を付けてから、床へ着地。

 一部始終を見ていた3人は口を開き、驚愕するしかなかった。

 ロイは何事も無かったかの様に3人へ歩み寄る。


「ケガは?」

「な、無い……です」

「良かった。御二方もどうです?」

「な、無いわ」

「こっちもです……」

「分かりました。では、急ぎましょう」

「ど、どこに!?」

「格納庫へです。多分、ベルクラースさんがそろそろ着きますので」


 そういうとロイは3人を先導した。

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