46 王位真偽戦争Ⅱ 9
反サームクェイド側ではこの日、エルトーサとデウンの中間にて、作戦会議が行われていた。
それもグレイプニール内で。
地図を広げ、現在達也達が拠点としている箇所に丸を付けていく。
その後、敵拠点を丸を付けていく。
「さて、現状で我々は2つの都市を奪還しました。しかし、王都へは東の砦、南東の砦に中央都市デウンを奪還せねばなりません」
ベルクラースは隊長クラスの人物に語り掛ける。
「正直な所、ここからが困難だと思われます」
「確かにのぅ……」
ムルジナだけが頷き、ハーフェン組はどういう事か分かっていない。
1つだけ分かっている事があるハーフェン組。
達也が手を上げる。
「達也殿、何か?」
「はい、何故ここからが困難なのでしょうか? 補給線が伸び、戦力を分散させる必要があるから難しいのですか?」
「補給線と分散の事を含めて困難なのですよ、達也殿」
「その困難の理由は?」
「この砦と中央都市タルシェンの位置関係です」
地図に指を差すベルクラース。
北東の砦とタルシェン、南西の砦は三角形の様な形で存在している。
3つに指で叩きながら言うベルクラースに達也は気づく。
「……なるほど」
「お気づきになりましたか、達也殿」
「確かに現状では困難を強いられますね」
達也の反応にハーフェン組は首を横に傾げる。
「どういう事達也?」
珍しく分からないセラに少し驚く達也。
だが、達也は咳ばらいを1つしてから、
「現状、こっちの兵数と機体数が見合っていないんだ。それを踏まえて聞いて欲しい、この砦と都市の配置、どこに行っても援護が来る」
「……この配置いやらしくない?」
ジト目でベルクラースとムルジナに視線を送るセラ。
「いやらしい、と言う訳ではございませんが……相対して見ると、ここまでこの配置が恐ろしい物とは……」
濁す言い方だが、本音を零すベルクラース。
「伝統的だと言ってくれ、セラの嬢ちゃん」
「まぁ、初代のサームクェイドの陛下は良く考えているっていうのが分かったかなぁ」
テーブルの上で肘を立てて、顔を乗せながら言うセラ。
一区切り終えた所で達也が口を開く。
「さて、この配置の問題もそうなんだけど、実はさっき言った事も問題ではある」
「補給線と分散の事ですか、達也殿」
「そうです、ベルクラースさん。現状でデウン、エルトーサと守っている状態。それに占領なら人でも出来ない事はない」
「補給線も伸びていますからね……」
「このグレイプニールでも、物資の消費を考えると……とてもではないが何回か補給の必要がある。その補給時は一番弱い時」
「正直な所、相手はエルトーサを我らに簡単に手に入る様に仕向け、この補給線と戦力の分散が目的だったのでは?」
ベルクラースが確信的な事を口にすると、全員が沈黙し達也だけが頷いた。
「……間違いなく、自分は最前線に居なければならないですね」
「……確かに達也が最前線を離れたら相手の士気にも関わるし、主力が抜けるのは……」
「この状況はあまりよろしくないね」
「ジークの言う通りだ。何か無いか、達也にみんな」
達也が言うとセラに続き、ジークとカイル言う。
そしてカイルの答えは返ってくることは無く、沈黙の無言。
だが、達也はもう一つ気づいている点がある。
「ジーク先輩の言う通り、この状況はあまり宜しくない」
「何か案でも思いついたの? 達也」
「いや、違うよセラ。この状況……俺が相手の状況で考えて、次にやる行動って何だと思うみんな」
達也の唐突な質問に全員が首を横に傾げながら考えた。
そして、この状況でいち早く気づき、手を上げた者が――
「――ロイ、答えは?」
「……王女暗殺」
「正解」
ハーフェン組はまさかの回答者に驚くが、それよりもロイの放った言葉の方が驚く。
「そうか……! 我らは王女も殺されてしまわれればそこで終わりだ……!!」
「こうしちゃいられん!! ワシは王女の元へ急ぐぞ!!」
ムルジナは席から降りて王女の元へ向かおうとする。
それをベルクラースが止めようとしたが、ロイがムルジナの前に立つ。
「退くんだ、ロイ殿」
「いえ、そうは行きませんムルジナ殿」
「王女の身が危険なんですぞ」
「知っています」
「なら、そこを退くんだ」
「退きません」
「――ッ!! 退けと言っているんだ」
「いえ、ムルジナ殿には前線に居て貰わねば困ります。貴方の兵は貴方の指揮では無いと真価を発揮しません」
「ぬ、ぬぅ……で、では誰が王女の身を」
ムルジナが言うとロイはいつになく真剣な表情で達也を見る。
達也はロイの瞳を見てから、
「言いたい事は分かるよ、ロイ」
「……すまん」
「いいさ、んじゃ……黒曜騎士団団長として命令する。ロイ・ダキアヌ、サームクェイド王女を護衛しろ」
「了解」
受け答えをしてからロイは口角を上げると、達也も同じように上げる。
ロイは作戦会議室から出て格納庫へ向かった。
その後、ベルクラースが達也の顔を伺う。
「自分が聞くのもあれですが……何故、彼なのでしょうか? 彼は前線で厚い信頼と戦績を持っている騎士です。そんな有能な騎士を前線から離させるのは……」
「良いんですよ、ロイはあれで。それにロイの抜けた分は自分が補いますので。さて、王女はロイに任せて、問題はどの砦から攻めるか、です」
「……北東はどうだ達也?」
黙っていたカイルが口を開く。
「義兄さんどういう?」
「グレイプニールを南東よりに配置、ジーク、レティにムルジナ殿にはタルシェン、南東の砦の増援を抑える。その隙に、達也と私で北東の砦を落とす。どうだ?」
「カイル、南東の砦からでも良いんじゃないのか?」
「いや、この南東の砦は正面が高い壁が立っている。攻めるなら迂回をして横に回り込んでからじゃないと無理だ。その間にこっちの戦力を減らされてしまう。東北の砦は道が過酷だが、南東よりも楽だ」
地図に呼びを差しながら解説していくカイル。
その後、達也の方を向き、
「どうだろう、達也」
「……現状どちらかを攻めなければいけない状況なら……北東ですね。ただ、中央都市タルシェンを攻めるタイミングを合わせなければ、この作戦は難しい」
現在地と目的地にゆびを差しながら地図をなぞる。
……俺だけなら、1日あれば辿り着く。だが、義兄さんや他のサームクェイドの人達を連れてとなると……と思い、
「約4日」
口に出すと、全員が一斉に達也の方を向き、何が約4日なのかと疑問に思う。
「到着が約4日程、早くて3日には北東の砦に着く予定」
「では、達也殿。3日後に増援が行かぬ様、3日後に攻撃を仕掛ければ宜しいですか?」
「出来れば、4日目に差し掛かる時刻で攻撃して頂きたい。もしこちらが3日で辿り着けなかった場合、北東と南東からの増援で間違いなく中央戦線は壊滅に陥ります.
後、作戦時間は12時間以内、12時間過ぎたら即時撤退」
「招致致しました。でしたら、4日目に差し掛かる段階で攻撃を開始します。作戦の決行は?」
「明日には出ます。サームクェイドの人選はムルジナ殿のお任せします。義兄さんはいつでも出れる準備を。セラはグレイプニールに残り指揮を取ってくれ」
「「「了解」」」
「それじゃあ解散」
達也の掛け声と共に全員が作戦会議室から出る。
直ぐに達也は旦那の元へ駆け、物資と装備を頼む。
「了解した、達也。エクスカリバーのパックはどうする?」
パック、サームクェイドに来る前にすでに達也はセラと旦那に新しい装備を頼んでおいた。
現状で3つある。1つがキメイル製の剣が2本とウイングブースターの近接戦。
2つ目が両肩に2門のキャノンとロングカノン・ライフル装備の射撃戦。
3つ目がマナタンクを装備し、ブースターを追加した汎用戦。
今回、少しでも戦える様にする為、
「汎用でお願い」
「おし、任せとけ! オイ、テメェら!! エクスカリバーのパックは汎用だッ!! 直ぐに換装させろ!!」
「「「了解ーッ!!!!」」」
グレイプニールの格納庫で元気な声が響く。
「ハ、ハックショイ!! うぅ……誰か噂したなー!?」
「「「してなーい!!」」」
「あ、サーセン」
突如くしゃみが出て冗談で疑ったが、まさかの回答に思わず変に謝るのであった。
その後、達也は既にエルトーサに向かってそろそろ着く頃であろうロイへ、
「……ロイ、頑張れよ」
応援を送っている達也であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます