45 王位真偽戦争Ⅱ 8.5


 サームクェイド軍とジンガーム軍は緊急会議を開いていた。

 正直、相手を甘く見ていた事がここにきて大きく響いている。


「……想像以上ですね、黒曜騎士団」


 まさかの事態にセッコクは本音を漏らす。


「ハッ! 俺っちのオクトーを大破させた奴らだぜ! それで判断しとけって!」


 テーブルに足を乗せ、背もたれに体重を預けながら言うゾルドラ。


「……オゥルオ、貴様なぜエルトーサに我らを送らなかった? あれはお前の指示だろう?」


 ガゼットの右斜めに座っているオゥルオへ聞く。


「ええ、私の指示で皆さんをあの場に行かせませんでした」

「オゥルオ、貴方ふざけているのですか!」

「声を上げないで下さいセッコク殿」

「声を上げるなと言われる方が難しいです!!」

「……では、何故エルトーサを渡したのか。その後説明をしましょう」


 オゥルオは騎士服の内ポケットから四つ折りに畳んだ地図を広げる。

 そして、地図に黒丸と赤丸を記していく。


「良いですか、皆さん。エルトーサを渡したのは確かに痛手では有ります。東へ押し込める地理ですから、ここは」


 地図で記したエルトーサに向かって人差し指で2回叩く。


「分かっているなら!! 何故――」

「――落ち着いて下さい、セッコク殿。ご説明します」


 一旦間をおいてから地図を見返すオゥルオ。

 ガゼットは占領された赤丸をよく見てから気づく。


「ほう? オゥルオ、そういう事か」

「気付いてくれましたか、ガゼット殿」

「どういう事だ、親父?」


 ゾルドラが顔を覗かせ、地図を見るが首を横に傾げる。


「どういう事だ?」

「説明いたします。エルトーサは失ったのは大きいですが、反サームクェイドは大きなデメリットを抱える事となりました」

「……デメリット、ですか?」


 地図を差しながら言うオゥルオ。未だ分からないゾルドラとセッコク。

 しかし、セッコクは再び地図へ目を向けると気づく。


「……なるほど、確かにこれは大きいデメリットですね」

「でしょう?」

「え?」


 分からないのがゾルドラのみとなった。

 オゥルオとセッコクの顔を交互に見てから地図を見返す。


「ゾルドラ殿、ご説明します」

「お、おう」

「まず、反サームクェイド軍はデウンを拠点としています。しかし、今回の事でエルトーサに乗り換えるでしょう」

「エルトーサの方が大きいからな」

「ええ、しかしデウンとエルトーサは多少距離があります」

魔装騎兵フレーム・ストライカーを走らせて3日だな」


 答えるが、ここで全員が沈黙する。

 ゾルドラは何か間違った事でも言ったのかと思い、全員の顔を見る。


「戦力差は未だ有利で有り、人数も勝っております」

「相手は3000機、こっちは5000機だもんな」

「デウンとエルトーサの行き来には3日掛かります。もし、補給が必要な場合は3日必要とします。いえ……相手のあの速さを考慮すると1日半でしょう」

「補給が遅れるのか、なるほど」

「それだけで無く、兵士の数もこちらが上。街に送り込む事も可能です」

「……なるほど、読めてきたぞ」

「分かってきましたか?」

「ああ、相手は補給線が伸びただけでなく、守る拠点が増えた事でそこにも戦力を割く必要がある、と。それに強襲は魔装騎兵フレーム・ストライカーだけじゃない、人でも出来る」


 やっと分かった所でオゥルオは先の事を話そうとする。


「この時点で私達は比較的、補給線も伸びていません。それに相手は安全な策で行くなら北東の砦と南東の砦を落としてから、タルシェン。そしてここ、王都へ来るでしょう」

「デウンにも戦力を割き、エルトーサにも戦力を割く。そして、攻めてくるなら精鋭部隊でしょう」

「白き死神はどちらに来るかです」

「……白き死神の部隊は少数でしょう、あれがその分だけ補えます。他が多くなる仮定で行きますと、かなり楽ではあります」

「何か、策でもあるのかオゥルオ?」

「ええ、女王陛下から承った物があります故」


 笑みを浮かべるオゥルオ。

 ゾルドラは拳を握ってから自身の手のひらに打ち込み、


「いよぉしッ!! 白き死神は俺の獲物なッ!!」

「いえ、ゾルドラ殿は別部隊で動いてほしいのです」

「あ? オイ、てめぇ……俺ッちの獲物横取りしてんじゃねぇぞ」

「いえいえ、白き死神も良いですが、噂ではあの赤い魔装騎兵フレーム・ストライカーと並ぶ強さを持った者がいるらしいですよ? そいつらを倒してからメインディッシュの死神を倒せば宜しいかと」


 するとゾルドラは鋭い眼光に変わり、オゥルオを見ながらゆっくり近づく。

 オゥルオの両肩を掴み、


「お前……天ッ才だなぁッ!!!!」


 満面の笑みを浮かべ、目を輝かせながら言うゾルドラ。

 そんなゾルドラにガゼットは大きなため息を1つ。


「楽しみだなぁ……! 赤いのと同等の奴!!」


 まだ見ぬ相手に期待を持つゾルドラであった。


「影牙の団長、ロゥエンいるかな?」

「……ここに」


 声を掛けると、影牙騎士団団長が何処からともなく姿を現す。


「ロゥエン、君に暗殺を頼みたい」

「相手は?」

「偽の女王、ティアリーズ・クレン・サームクェイドの暗殺を」

「確かに今が最高のタイミングだ」

「行けるか?」

「可能です、では……」


 ロゥエンが一言言った瞬間、姿を消す。


「では、皆さん行きましょう。サームクェイドとジンガームの未来の為に」


 オゥルオがまとめ上げ、会議室から出たのであった。

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