43 王位真偽戦争Ⅱ 6


 西門に魔装騎兵フレーム・ストライカーが1機。

 白を基調とし、一部黄色と青の入った魔装騎兵フレーム・ストライカー

 後世、この戦争とこの戦いで語り継がれる事になったその通り名は――


 ――白き死神。


 西門を守るジンガーム軍とサームクェイド軍の騎士達は、東門へ戦力を回す。

 少数で西門に現れた魔装騎兵フレーム・ストライカーの討伐へ向かう。


「へ、魔装騎兵フレーム・ストライカー1機で何が出来る」

「こっちは新型の上に4機だぜ?」

「囮だとしても、その策は余りにも無謀だな」

「まぁ、珍しそうだから高く売れるぜ、これ」


 エンキドゥに乗る騎士達は余裕を見せながら、白き魔装騎兵フレーム・ストライカーへ向かう。

 すると、白き魔装騎兵フレーム・ストライカーが歩き出し、エンキドゥへ向かって来た。


「バカが、死ね」


 先に付いた1機のエンキドゥが重圧なハンマーを振り上げ、間合いに入った瞬間に1歩力強く踏み込んでから、腕を振り下ろした。

 振り下ろされたハンマーの柄が遠心力で曲る程の力で振り下ろす。

 だが、振り下ろした筈が白き魔装騎兵フレーム・ストライカーに当たる事は無く、エンキドゥの両腕が大地を揺らし、轟音を鳴らす程の勢いで地面へ叩きつけられていたのだ。


 この時、何が起きたのか操縦していた騎士には理解できていなかった。

 唖然とし、現状が飲み込めずその場で立ち尽くす。

 そこに、


『お疲れ様』


 1つの通信が入ると同時にエンキドゥの頭部が宙を舞い、操縦席の映像が突如切れた。

 

「え?」


 思わず声が漏れた瞬間であった。

 まさかの出来事に3機のエンキドゥが止まり、ゆっくりと近づいてくる白き魔装騎兵フレーム・ストライカーへ構える。

 先程までの余裕は既に騎士達には無く、少しでも気を緩めれば倒されると感じた。


『別に俺は戦っても良いんだけど、痛い思いをするから今すぐ投降した方が身の為ですよ』


 相手、魔装騎兵フレーム・ストライカーからの通信が入る。

 だが、その言葉はジンガーム軍からすれば挑発としか受け止められず。


「くたばれぇえええええええええッ!!!!」


 ハンマーを振り上げ相手、魔装騎兵フレーム・ストライカーへ勢いよく振り下ろす。

 突如片腕だけが宙を舞う。

 映像を見直すと魔装騎兵フレーム・ストライカーが剣を振り下ろそうとしている。

 ジンガームの騎士は、重圧な装甲を付けた右腕で受け止めようとした。


 しかし、次に目にした光景は余りにも信じられない出来事であった。

 右腕で受け止めようとしたが、それが叶わず振り下ろされた剣は、装甲の間。

 関節部へ振り下ろされ、切断されていたのだ。


「――ッ!! そ、装甲と装甲の間を狙ってやがるッ!!」


 切り落とされた腕は地面をえぐり、砂煙をあげる。

 ジンガームの騎士は信じられないが、現状起きた事を叫んだ。

 一度距離を取ろうとレバーを後ろに引くが、時すでに遅し。

 既に間合いに入っていたのか、左肩から切り落とされ、地面に落ちた。


 残った1機へ突如、急加速し距離を詰める。

 ジンガームの騎士は反応が出来ず、一瞬だけ驚愕した。

 その瞬間には持っていた2本の剣を使い、膝から下を切り落とし、武器を持っている右腕を切り落とした後、左腕を切り落とした。

 エンキドゥは足を切り落とされ、態勢を保てず地面へ吸い込まれるように倒れつ。


 4機、それも新型3機を相手に対してカイル、ジーク、ロイは接近戦で5分以内で倒せるだろう。

 レティは射撃専門であるので除外とするが、接近でも5分。

 だが、これは相手の事を考えずに倒した場合。

 生死を問わないなら5分と言う事だ。


 カイル、ジーク、レティ、ロイは生かして戦うとなると、10分以上掛けることとなる。

 その中で達也は倒した敵を殺さず、ただ武装と腕と足を切り落としただけ。

 命のやり取りをしている中、相手を殺さず生かす。

 この行動がどれほど難しいか、ここにいる敵味方含め想像絶するだろう。


 多少強く胸部、即ち操縦席を殴れば、強い衝撃により操縦士は重傷を負うか、死亡する。

 切った箇所、突き刺した箇所が悪ければ破片が操縦士に刺さり、死亡。

 魔撃の当たり所も間違えれば死亡する。

 様々な要因で死に直結する最中、達也は誰1人として殺しては居ない。


 ましてや戦争、どんなに気を使い戦っていたとしても、不意に加減を間違えてしまう事も多々あるだろう。

 だが、達也だけはそのミスが無い。

 凄まじい程の操縦技術と機体の構造を頭の中に入っているからこその神技である。

 そして達也はその条件下の中で1機に対してかかった時間は30秒。


 30秒で対面した相手を生かしたまま倒したのである。

 遠目で見守っていたジンガーム軍とサームクェイド軍。

 まさかの事態に困惑した。

 それもその筈だ。たった1機の魔装騎兵フレーム・ストライカーに3機のエンキドゥが3分以内に倒されたのだから。


 城壁に待機していた部隊長は歯を噛みしめ、音を立てる。


「西門城内にいる全魔装騎兵ぜんフレーム・ストライカーを出撃させろ!! 我々はここで援護魔撃を行う!」

「了――」


 突如、エンキドゥの頭が吹き飛ぶ。衝撃で立っていられず、エンキドゥは倒れる。

 部隊長はまさかと思い、操縦席から投影されている相手魔装騎兵あいてフレーム・ストライカーへゆっくりと顔を向けた。

 そこには何かを構えてこちらを見ている魔装騎兵フレーム・ストライカーが1機。

 それも白い魔装騎兵フレーム・ストライカーであった。


「し……」


 口元が震え、その白き魔装騎兵フレーム・ストライカーに恐怖を植え付けられていく。


「死神……」


 言った瞬間だろうか、突如映像が光に包まれると、エンキドゥの頭が吹き飛ばされた。

 そして、西門の城壁が開かれ、20機のエンキドゥが1機の魔装騎兵フレーム・ストライカーへ走り出した。

 大地を揺らし、土煙を上げ、轟音と共に駆けるその光景に思わず、気持ちが高揚する。


「くぅううううううううッ!! これは楽しめるぞ!!」


 この状況であり得ない発言をするのは新海達也だけであった。

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