37 王位真偽戦争 10


 扉が開かれると姿を現したのはベルクラース。


「ベルクラース、ありがとう」

「いえ、新海様がいなければ、今頃どうなっていたか」

「そうね、それよりもベルクラース。ティアは?」

「ご一緒に来ております」

「そう、でしたらここに呼んで」

「承知いたしました」


 アメリアに頭を下げてから、達也達にも頭を下げてから部屋から出る。

 それから直ぐに、


『嫌です!』

『姫、それではなりません』

『私は……もう、見たくありません!』

『アメリア様にですか?』

『違いますッ!!』


 扉の向こうでティアとベルクラースの会話が聞こえる。


『血を……人が死ぬのを……』


 その一言に全員が黙り込む。

 だが、ロイだけが立ち上がり部屋から出る。


「おい」

「あ、貴方……」

「人は死ぬ」

「……ッ!!」

「簡単に死ぬ生き物なんだ」

「――さい」

「刺されれば死ぬ」

「――さいッ」

「空腹で死ぬ」

「――さ、いッ」

「血を流して死――」

「――うるさいッ!!」


 ロイへ一喝するティア。涙目でロイを睨む。


「死ぬ死ぬ死ぬって! うるさい!! 貴方は何なの!!」

「俺は騎士だ」

「貴方みたいのは騎士何かじゃないッ!!」

「騎士だ」

「騎士ならもっと姫を……!! 主を守り、労わりなさいよッ!!」


 息を荒げながら言うティア。


「私をいじめて楽しいの……?」

「……」

「返答してよ……」

「楽しくない。だが、俺はアンタを労わっているつもりだ」

「……ッ」


 ティアは早足でロイへ近づき、手を上げロイの頬を叩いた。

 ロイは何事も無かったかの様にティアを見る。


「大ッ嫌い!」

「構わない」

「――ッ!! 出ます、出ますよ! でも、貴方はこの部屋には入らないで!」

「招致した」


 そのまま扉が閉じられ、ロイは部屋の外で待つことになった。

 そんなロイにベルクラースが近づく。


「……何故、他国である君がそこまでする必要があるんだい?」

「……こう見えて俺は貴族何です。それにこの国の行く末は暗く閉ざされている」

「……ええ」

「この先、大公妃様だけではどうにもならない事が多々ある筈」

「……」

「王としての血を引くものが、倒れては国が倒れる。なら、王が立てば、国は立つ」

「……黒曜騎士団は素晴らしい人材の宝庫だね」

「いえ、俺はただ、真っすぐ自分に忠実で、尚且つ広い心持つ達也を見習っているだけだから」


 ベルクラースはロイの肩に手を置き、


「それでも君はよくやっている」

「……どうも」


 ロイへ称賛の言葉を送った。


 ―――――――――


 ロイへ一喝し部屋から閉め出したティアは部屋に入り、まず達也を睨む。


「騎士団長!」

「何でしょう?」

「貴方の所の騎士は礼儀作法も知らないのですか!」

「これは失礼。私の騎士団は1人1人が主役である騎士団です」

「何を言って――」

「――脇役なんていません。私が何故騎士団長をやっているのか、それは私自身が自由だからです。だから、他をしっかりしろ、とは言えません」

「……」

「ご理解いただけましたか?」

「出来る訳ないじゃないですか……」


 深いため息を1つしてから、


「正直、皆さんには助けて貰っています。ですが、私は……指揮能力がありません。ですかので、叔母様にお願いしているのです」

「ええ、ですが女王陛下も御参加して貰わねば、今後に関わります」

「……招致いたしました」


 席に座り、アメリアを見ると頷く。


「新海君、今の状況を説明させてくれてもいいかな?」

「ええ、構いません」

「はい、でしたら――」


 現状、反サームクェイド軍はジンガーム軍の新型に圧倒されており、周辺から加勢があっても敗退している。

 何より、サームクェイドは広大で東と西に関所があり、更に東と西に大きな街があるのだ。

 そして、サームクェイドの中心街タルシェン。ここはサームクェイド軍とジンガーム軍に占領済み。


 問題なのは反サームクェイド軍は西側に退避しており、関所が既に落とされて居るという。

 時間を稼ぐもそれはほんのひと時、圧倒的な数と性能に反サームクェイド軍は最後の砦として、このデウンに全戦力が集結していたのだ。


「……因みにこちらの兵力としては?」

「……魔装騎兵フレーム・ストライカーが50、騎士が200」

「ふぅむ……」

「新海君、無理を承知でお願いしたい。君の騎士団をどうか……私達の主戦力として、戦線に活路を開いてはくれないか?」

「ああ、いえ、それに関しては良いと思います。ですよね?」


 達也が後ろを振り返り、全員に確認する。


「我らは騎士であります。ご安心を」

「任せて欲しいです」

「我らは守るために居ますので」


 カイル、ジークにレティがそれぞれ答える。

 そんな回答にアメリアは頭を下げた。


「他国であり、加勢組なのにも関わらずありがとうございます」

「ですが、大公妃様。騎士の人数と魔装騎兵フレーム・ストライカーの数が合いません。これでは……」


 問題の部分をつつくカイル。


「義兄さん、そこなんだけど」

「何か案でもあるのか、達也」

「まぁ、あります」


 達也の一言にその場にいる者たちが「おぉ……!」と声を上げる。


「その方法とは、新海君」

「鹵獲と改修です」

「し、しかし……それは至難では?」

「鹵獲は難しいかもしれませんが、改修は簡単です」


 笑いながら言う達也に全員が首を傾げる。


「達也、改修って言っても50機分のパーツは持ってきてないよ?」

「うん、だからこそ敵を倒せば良いんだ」

「敵を倒す? 何で?」

「ん? 相手は新型だから」

「――ッ! あぁーなるほどー」


 セラが理解をするが、他が理解していない。

 それを感じた達也は、


「パーツが無いなら、奪えば良い」

「ど、何処からだ? 達也」


 思わず達也に聞くカイル。 


「倒した敵から」


 この日を境に、サームクェイド軍とジンガーム軍が追い詰められるとは、味方である反サームクェイド軍すら知る余地も無かった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る