36 王位真偽戦争 9


 脅威を退けた反サームクェイド軍は、勝利の宴を開いていた。

 それもその筈だ、今まで反サームクェイド軍はサームクェイドとジンガーム軍に敗退してきたからである。 

 エクトール同士ならともかく、ジンガーム軍のエンキドゥとエクトールの性能が天と地の差があった。

 その中での戦いだったのだ。因みに達也達はアメリア大公妃の元へ来ていた。


「いやーおば様、本当に無事で良かった」

「ええ、レオ助かりました」

「まぁ、俺1人じゃどうしようも無かったけどな」


 その後、目配せをして達也の方へ向く。


「……そなた達が黒曜騎士団であるか」

「はい、アメリア大公妃様。私がこの騎士団の団長、新海達也です」


 聞いたことの無い名前に眉を寄せ、レオに視線を送るアメリア。

 頷いて「本当だ」と伝えると、


「……イクシフォスターの隠れ蓑としてかね?」

「正真正銘の騎士団長でごさいます」

「それは失礼した。では新海殿、イクシフォスター殿は?」

 アメリアに言われると、セラが1歩前に出る。

「大公妃、お久しぶりです」

「ああ、久しいな。イクシフォスター……しかし、何故そなたが団長を降りたのだ?」「簡単な理由でございます」

「ほう? それは?」

「彼の方が団長としての資格があるからです」

「なるほど」


 達也の方へ一目見てから、セラへ視線を戻す。

 そして、アメリアは気になっている事、


「今回事……何故あちら側に付かなかった?」

「一言で申しますと……直感にございます」


 その一言に全員が固まり、静寂を産む。


「プッ……! アッハッハッハッハッ!! そうか、直感か! 間違いなく、その直感は正しいな!」

「一応、それ以外の理由としては、父や信頼の厚い騎士に裏切られるとなると、傷心する物ですが……あちら側はそれの気配が全くありませんでしたから」

「よく見ているね。うむ、今回反サームクェイド軍への加勢誠に感謝します」

「いえ、お気になさらず」

「だが、しかし……」


 アメリアは達也達を見てから、


「何故、君達の騎士団だけなのだ?」


 何故達也だけの騎士団しか来ていないのか疑問に思った。

 しかし、その疑問は直ぐに解消される。


「おば様、爺ちゃんから黒曜騎士団だけで良いって言われたんだ」

「何故ですか? 加勢は嬉しい限りですが、明らかに兵力としては数が足りない」

「コイツ、この新海達也は単機でストーンドラゴン、ボワートリドンを討伐している。それに新型開発の発案は達也なんだ」

「た、単騎で……超弩級魔獣に新型開発の発案者……!?」


 そこで気付いた。何故、兄のオルシェンが1個騎士団しか送って来なかったのか。

 そもそも、1個騎士団〝しか〟ではなく、1個騎士団〝だけ〟でどうにかなる、と判断した。

 それも現ハーフェンの最高戦力の騎士団で事が足りる程。

 どれ程の実力なのか、今のアメリアでは未知数である。

 ただ報告では、単騎でジンガーム軍のエンキドゥを12機撃破と聞いている。


「……新海君」

「はい、何でございましょう?」

「……君達は、この戦争に勝つことが出来るのか?」

「……正直な所申してもよろしいでしょうか?」

「構いません」

「では、正直な所。未だ相手の本気を見てはおりません。もし、この状態が続くのなら間違いなく、勝てると確信があります」

「聞かせて欲しい、君程の猛者が警戒している理由を」

「……我が国の技術が流用されているからでございます」


 達也の発言に思わず耳を疑う。


「どういう?」

「昨年、我が国で新型機が奪取された事件がございました。そこで扱われた技術が、ジンガーム軍の魔装騎兵フレーム・ストライカーに流用されているからです」

「そうか……だから、ジンガーム軍があれほどの力を……だが、君はあの魔装騎兵フレーム・ストライカーを1機で12機を倒せるのだろう?」

「ええ、〝あの程度の敵であれば〟です」

「……君程の猛者が相手にもいるという事か?」

「分かりません。ですので、今の現状ならば、という事になります」


 アメリアは黙り込んでから達也達を見る。


「……それでも、加勢に関しては非常に感謝する」

「いえ、お気になさらず」

「さて、新海君。この戦いにおいて、君たちにお礼をしたい。しかし、今は戦争中だ……君たちの望んだ額は用意は出来ない、が待って欲しい」

「でしたら、大公妃。私から1つ提案があります」

「なんだい?」


 達也はニコッと笑い、


「今回の戦いで倒したジンガーム軍の魔装騎兵フレーム・ストライカーは、全て私達の物にしても宜しいですか?」

「……それで構わないのであれば、私達としても嬉しいが……本当に良いのかい?」

「構いませんッ!」


 目を輝かせながら言う達也に、セラとアメリア以外がため息を付く。


「そ、それにしても……よく私達がここにいると分かったの?」

「それは――」

「――アメリア様、それは私から説明いたします」


 扉が開かれると、ベルクラースが姿を現した。

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