35 王位真偽戦争 8



 東の街デウン、この日占領にやってきたジンガームとサームクェイド軍。

 デウンには反サームクェイドの騎士と残った魔装騎兵フレーム・ストライカーで防を現在行っていた。


 エクトールは敵である魔装騎兵フレーム・ストライカーへ魔撃を放ち、騎士達は投石機で少しでもと、攻撃を行う。                    

 だが、攻撃は虚しくも重装甲の敵魔装騎兵フレーム・ストライカーには効くことは無かった。

 街では市民の非難が行われていた。


「皆さん焦らずに!」

「騎士様! 私の、私の子供がいないのです!」

「騎士様! 妻が!」


 首都から逃げた者、中央街タルシェンから逃げてきた者が一斉に流れこんで来て、デウンは現状パンク寸前。

 そんな中、ジンガーム軍の襲撃、流石の騎士達も対応しきれずにいる状況であった。

 そして、戦力差は一目瞭然で有り撤退戦を余儀なくされる。

 ここには王都から逃げ延びたアメリア大公妃達がいたのだった。


「お母様……お逃げ下さい」


 避難誘導の指示、騎士の防衛の指揮を下しているアメリアに娘のアイリスが一言。

 アメリアは一目視線を向けてから、手元の地図に再び戻す。


「私が逃げる事は許されません」

「でも、お母様ッ!!」

「良い事? アイリス、私達は王族の血を引いてるの。民を見捨てて先に逃げる事は出来ません。それが上に立つ者の責務だからです」

「……なら、お母様……私が出ます」

「貴方、な、何を!?」


 これまで冷静沈着であったアメリアが声を上げ、我が子を見つめる。

 目を瞑ってから愛おしい母を見つめ、


「逃げれないのなら、逃げる時間を稼ぎます」

「ば、バカな事を言うんじゃないの! 貴方が死んでしまったら、ティアにレオリクスはどうするのですか!」

「大丈夫ですよ、お母様。ただ時間を稼ぐだけです、死にに行くのではないのですから」


 それだけを言い、部屋を急いで出るアイリス。

 その足で魔装騎兵フレーム・ストライカーのある倉庫へ向かう。

 騎士達は倉庫に現れたアイリスに注目してから、


「エクトールの修理は終わっていますか!?」

「え、ええ……お、終わっております……」


 アイリスは急いで階段を駆け上がり、整備士の前に立ち、


「ありがとう!」


 言ってから颯爽とエクトールに乗り込むアイリス。

 乗り込んでから倉庫に現れたアメリア。


「おやめなさい!」

「大丈夫よお母様! 私は死にませんから」


 エクトールを起動後、倉庫から出て戦場となっている正門へ向かう。

 何もできず、ただ見送るしか出来ないアメリアは心から、無事で戻ってくる事だけを願う。

 正門を開け、外に出た瞬間魔撃が放たれる。


「キャッ!」


 少し驚いたがただの流れ弾で、狙われている事では無いと分かり戦場へ出た。

 アイリスは改めて現状の状況を確認する。

 既に敵は目前、防衛などとうに間に合う事は無い、それを確信した。

 しかし諦める訳にはいかないアイリスは杖を構えて魔撃を放つ。


「クッ……相手の性能差がここまで……グッ!!」


 一撃肩に被弾するがまだ動けるエクトールに、最後の手段と思い、


「私は!! アイリス・イリム・サームクェイド!! 大公妃の娘です!! 私を捕まえれば、さぞ報酬も美味しいでしょう!」


 アイリスが言うとジンガーム軍は静まり返り、エンキドゥ同士顔を合わせてから、アイリスの乗るエンキドゥへ一斉に魔撃が放たれる。

 アイリスは狙われると事前に予測していた為、何とか魔撃を避けてから街から遠ざける様にエクトールを走らせた。


 後方を確認し、エンキドゥ達がエクトールに釣られている事を確認してから必死に走らる。

 しかし、走りながらの魔撃による攻撃にエクトールは成す術が無く、被弾していく。

 肩がが撃ち抜かれ、次は頭、最後に片足を撃ち抜かれて倒れる。


「キャアアアアアアア!!」


 その後エンキドゥが追い付き、いつでも迎撃出来るよう槌を構える。

 映像を見るとエンキドゥが手を伸ばし、エクトールを捕まえようとしていた。


「助けて……レオ兄……!」


 目を瞑り呟くが一向に掴まれる気配が無く、何かと思い目を開ける。

 すると、何か走って来ている音と風を切る音と共に、轟音が辺りを響かせているのに気づき、エンキドゥが空を見上げていた。

 何かと思い、アメリアはエクトールを操作し、空を見上げると太陽に何か小さい黒い影が重なった。


「……何?」


 言った瞬間だろうか、徐々に小さい影から大きくなっていき、その正体が明らかになっていく。


「……魔装騎兵フレーム・ストライカー?」


 思わず見つめていると、魔装騎兵フレーム・ストライカーが何かを構えると同時に一瞬輝くと、手を伸ばしていたエンキドゥが貫かれて大破した。

 大破し、倒れた瞬間には続いてエンキドゥが3機大破したところで、


「敵襲ゥウウウウウウウウウウウウッ!!!!」


 大群のエンキドゥからの魔撃を当たる事なく、華麗に避けながらエンキドゥを撃破していく。


「な、何だあれは!?」

「ば、化け物!!」

「落ち着け!! ただ、高いと所から跳躍しただけだ!! 必ず着地する!! 着地した所を狙え!!」


 高いところからの跳躍とあり得ない話だが、隊長機の指示で混乱を未然に防ぎ、降下している魔装騎兵フレーム・ストライカーへ魔撃を放ちつつ、着地を狙うジンガームとサームクェイド軍。

 しかし、エンキドゥの頭上で軌道を変え、空を飛び続けた。

 その後、空を飛ぶ魔装騎兵フレーム・ストライカーが空へ魔撃を放つと、


「空に気を取られ過ぎだぜッ!!」


 レオルハートが現れ、アンカーで固定後、接続して構える。


「ヴァリアントォオオオオオオオオオオオオ!! ブラスタァアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」


 高火力照射魔撃をエンキドゥの大群へ放った。

 大半のエンキドゥが光に飲まれ、大破している所へ、ロイ筆頭で魔装騎兵フレーム・ストライカー部隊がジンガームとサームクェイド軍へ追い打ちを掛ける。


「俺に続けぇッ!!!!」

「「「オオオオオオッ!!!!」」」


 この攻勢にジンガームとサームクェイド軍の戦線が崩壊。

 戦況は一気にひっくり返り、ジンガーム軍は撤退を余儀なくされた。

 撤退をするジンガーム軍を尻目にレオルハートが倒れたエクトールに近づき、操縦席から降りて操縦席を開ける。


「よぅ、アイリス。助けに来たぜ? てか、あんな無茶すんな?」

「……あ……あぁ……」


 レオリクスのニカッと笑う笑みを見たアイリスは、今までの恐怖から解放され、涙を止められずにそのままレオリクスに抱きつく。


「レオにぃ……! レ、オにぃ……!」

「よしよし、怖かったな……けど、安心しろ。俺と俺の国で最強の騎士団を連れて来たからな」

「はい……ッ! はい……ッ!! アイリスは……アイリスは、信じてました……必ず……必ず、レオ兄が……! 来る事を……!!」

「おう! あーそうそう、叔母様は?」


 優しく問いかけるレオリクスに涙を拭い、


「はい! お母様なら街にいます!」

「そうか。なら、叔母様に会うか」

「はいッ!!」


残ったエクトールと共にデウンに戻り、レオリクスと達也はアメリア大公妃と対面する。


 因みに勝手にエクトールで出たアイリスはきつくアメリアに叱られるのであった。

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