15 天才と新型機 6


「私、セライラ・ベロウズはこの名も無き騎士団団長の座を降ります」

「はぁ!?」


 思わず声を上げるが、砦にいる者達は何故か黙り込み、騒ぎすら起きない。

 分かっているのだろうか、団長が降りると言う事はこの騎士団が無くなると同じ意味を含めているのだぞ!?

 達也は内心、焦りと心配が入り混じりながら思う。


「そして私は、新海達也に団長を譲ります! 異論があるものはこの場で言ってください!」


 だが、誰も異議を申し立てる事は無かった。


「では、団員の総意と言う事で、新海達也お新たな団長と決定ッ!!」

「「「おおおおおおおおおおおお!!!!」」」

「え?」


 周りがお祭り騒ぎで声を上げる中、達也だけは状況がしっかり理解できず抜けた声が漏れた。

 その後、意味が分からずにいるとセラに団長室へ連れられる。

 そこにはカイル、ジーク、レティにロイ、旦那が既に中にいた。


「……セラ、説明してくれ」


 どうして俺が団長なのか? と言う問いと理解しているセラは、


「貴方はこの騎士団に新しい風を吹き込んだ」

「それは俺が新入りだからだろう?」

「いえ、そんな小さな風じゃない、もっと大きな風なの。それも貴方が思っている以上にね」


 いつものセラでは無く、今は元騎士団長として話して、新騎士団長、新海達也に語り掛ける。


「この場にいる者全てがこの提案に同意済み」


 達也は全員を見渡す。


「私はこの前に新機体で出し尽くした。新しい技術として魔鉱繊維を捻じり、一つにして強度や魔素の流れをより良くした束型たばがた魔鉱繊維と、魔撃に使われる杖を内蔵式にしたり取り付けた」


 これだけでも十分と言える程の物だろう、と達也は思う。


「けど、貴方は新機体の発案に全員の士気を衰えさせる事無く、機体開発を完成させた」

「でも、それはセラだって同じだろう?」

「私は設計、実験に2年掛った。でも、貴方はたったの9ヶ月」


 この差が分かる? と言わんばかりの空気が流れる。

 達也のやったとこはまさに奇跡とも言える事だ。新機体開発が想像する絶する程難題であり、根気のいる作業か。

 それはセラと旦那は痛いほど分かっている事だ。しかし、達也の設計は未熟で多少の問題を抱えるが、セラ達が1から作るよりもずっと簡単であった。

 そして、全員無意識であったが達也の後に着いてきていたのだ。


「……大きな風が吹けば、それを見上げるんじゃなく、その風に乗らなきゃいけない。貴方にはその風に乗る資格がある。だから翼を、その大きな風に乘る為の翼を貴方に授けます」

「……本当に良いんだな?」

「はい」

「……はぁ、分かったよ。俺で良いんなら、この騎士団の団長として頑張らせて貰うよ」

「お願いします」


 セラが頭を下げると同時に全員が頭を下げた、が、


「さぁて! みんな! 新団長にお祝いしましょう!」

「ああ!」

「そうだな」

「そうね!」

「しゃ!」

「しゃーねぇなぁ」


 直ぐに頭を上げると達也をお祝いすることになった。

 達也は1つため息を付いてから、


「よろしく」


 優しく微笑んだ。

 その後、団長補佐はセラは団長補佐としてロイは団長補佐代理。

 カイル達は面倒事に巻き込まれるのは御免と言う事で、セラとロイに押し付けた。

 別にカイル達は、達也の下に着くなら何も言う事は無いという事らしく、丸く終わった。

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