14 天才と新型機 5
この日、初のジルフートの稼働テストが行われた。
操縦士は今回、ロイが一任されていた。
「それじゃあロイ、起動させろー!!」
旦那の大声と共にロイは
『起動確認した、じゃあ歩いて見てくれ』
通信魔法で達也の声が操縦席にいるロイへ伝わる。
「了解……」
『ロイ』
「何だ……?」
『楽にやってくれて構わない。むしろ壊れても構わない』
『なッ!? バ、バカヤ――』
『――はいはい、旦那少し静かにね』
操縦席内に外の景色から見ると、セラが旦那の口を押えている。
その横に達也がロイの方を見ながら、
『その
その言葉にロイはペロッと唇を下で舐めてから、
「どうなっても知らねーからな!」
ジルフートを走らせる。
達也とセラはその計測に入った。旦那は肝を冷やしながらジルフートを見守る。
『ロイ、エアブロウの起動をしてくれ』
「了ー解!」
ロイは専用バーを後ろに引き、エアブロウを起動させる。
ジルフートの太い足元から空気を吸い上げ、数秒後にブースターが起動。
それと同時に、セラ特製のエアブロウの起動する刻印に魔素が流れ起動する。
ロイは浮いた感覚に少し戸惑うが、倒れる事は無く微々横に流されるが、止まったと言える程の速度。
その光景に砦にいる全員が口を開け、目を丸くした。
「浮いた……」
「浮いてる……」
「浮いてるぞ……」
それぞれが口から零れ出し、
「「「しゃあああああああああああああああああッ!!!!」」」
歓喜の声を上げた。
そんなロイも嬉しくなり、思わずガッツポーズを取る。
『ロイ、そのまま動いてみてくれ!」
「了解ッ!!」
前進することが出来、整備士達は涙を流す。
ロイは楽しくなり、エアブロウの出力を最大にしてジルフートの持てる最大速度を出す。
その光景を見た達也、セラ、旦那は笑顔でジルフートを見る。
『ロイ、少し遊ぶと良い』
「あいよ!!」
達也に言われ、ロイはそのまま横に曲がるため、機体を横に少し傾け足元のエアブロウがジルフートを横に流す。
もっと面白い事が出来る、と確信したロイはその場で機体を回転させた。
高速で回転した後、急カーブして体勢を整えると最大全速。
『楽しんでいる所悪いが、ロイ時間だ』
「マジかよ……とりあえず、戻るよ」
ジルフートは倉庫前で止まる為に体を後ろに傾け、足元を前に出すと勢いが収まり、エアブロウとブースターを切って床へ着地。
定位置に戻り、操縦席から降りると、
「よくやったな! ロイ!!」
旦那から称賛が送られ、整備士達は涙を流しながらロイへ拍手を送った。
恥ずかしくなったのか、頬を軽く掻きながら目を反らす。
「ま、アンタの御陰じゃなく、私達整備士達の御陰なんだけどね」
「素直に褒められねぇのかよ」
「フン」
セラはロイの前を通り、テストで出た結果を確認しながら、
「けど、頑張ったんじゃない?」
ロイへ称賛を送ったセラ。そんなセラに鼻で笑うロイ。
「まぁ、あんがとな」
2人のやり取りを見ながら微笑む達也。
セラにとって友と呼べる存在はロイと達也しかいないからだ。
それにここまで文句の言い合いで離れて行く事無く、ほぼ達也とセラ、ロイと3人いるでいる事が多い。
昔の事を改めて考えると、達也は少しだけ嬉しくなる。
だが、それは口にせずに胸にしまっておく。
「さて! 次の課題だ!」
達也の掛け声と共に、砦にいる者達が声を上げた。
次の課題は至って単純。それは消費マナの問題であった。
エアブロウだけではやはり浮かす程の力は無いと分かり、一部ブースターを使う事で浮く事が可能となったが、ブースターは消費が激しい為この問題を解決せねばならなかったのだ。
マナタンクを増設する話は出たが、機体にマナタンクが入るスペースが無い。
これ以上の改造は余りにも時間が足りなさすぎるのだ。
「結局、この問題へぶつかっちまったか……」
旦那が顎に手を付けながら呟く。
セラは構造を見直し、組み込むスペースが無いか図面と睨み合う。
だが、頭を抱えながら机にうつ伏せた。
「……無理」
「小娘もお手上げとなると……本格的に手詰まりだな」
整備士達がため息を付く中、ロイが一歩前に出る。
「動くんだし、最悪このまま出すってのも……」
「それは最悪の手だ」
「それに模擬戦もあるのよ。この新型発表には多くの貴族、陛下もご覧になるの。完全未完成を出す訳にはいかない」
だが、それでも最悪は出さなければならない。
例え出せたとしても模擬戦では間違いなく活躍は出来ないだろう。
それが分かっていたセラと旦那は頭を抱えた。
「……」
何か名案が無いか考える達也だが、一向に出る気配は無い。
ここで女性整備士がレンチを落とす。
全員がその女の子へ振り向き、
「コラァッ!! しっかり置くか腰にしっかり付けておけッ!!」
「ご、ごめんなさーいッ!!」
旦那が怒鳴ると女の子は涙目でレンチを腰に取り付けた。
「それだッ!!」
ここで達也は思いつく、
「外部に腰に! 取り付ければいいんですよッ!」
「そうか……その手があったなッ! そんじゃ小僧、設計図の方は頼んだぞ」
「はいッ!」
それから達也は設計図を描き、それをセラに清書して貰ってから旦那に渡された。
増設されたマナタンクは腰に着けられ、それを保護する形で装甲が着けられる。
そして模擬戦まであと3日と迫った所で新型2機が完成した。
「出来たな……!」
「ええッ!」
旦那、セラに整備士達が新型機を見上げながら呟く。
砦にいる者全てが集まる中、突如セラが一段高い台に乗る。
「えー……ここで皆さんに重大発表がございます」
何だ何だ? と少し騒がしくなるが、直ぐに静まる。
い。
「私、セライラ・ベロウズはこの名も無き騎士団団長の座を降ります」
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