転移後編

2 転移後編 1

 頭を下げお願いをする。まさかの願いにオーキンスは戸惑う。

 何故彼がここで働きたいのだろうか? 実は彼は賊で家の物を奪う為だろうか? とそんな事を思っていた。


「お願いします」


 ふと、彼が顔を上げその真っすぐな瞳を目にしたオーキンスも決心する。


「……良いでしょう。この屋敷の執事として頑張りなさい」

「ありがとうございます!」

「付いてきなさい」


 そして達也はオーキンスに付いて行き、一つの部屋に案内された。

 だが、埃まみれで、蜘蛛の巣も張っており本が所々に積まれている。


「最初の仕事だ、ここを綺麗にしなさい」

「分かりました!」


 それからオーキンスは部屋を後にして、大広間へ向かう。

 椅子に座り、ブロンドカラーのかみをした美女。

 オーキンスの妻であるエレノア・ベロウズが紅茶を飲んでいた。


「あらアナタ、召喚の儀は良いのかしら?」


 召喚の儀とは1年に一度行われる儀式であり、毎年召喚の儀を行う貴族が変わり、今年はベロウズ家であった。

 確認方法としては魔法陣に魔力が切れている事。

 そして、エレノアに伝えなくてはならない。


「エレノア、召喚はしたんだが……」

「はい、どうしたのでしょうか?」

「誤召喚で……人を召喚してしまった……」


 そっとカップを置いてからオーキンスへ真剣な表情で近づく。


「その人はどこにいるのかしら?」

「……空いている部屋で掃除をしている」

「なら、行きましょう」


 何とも言えぬ気迫をオーキンスに見せながら、早足で達也のいる場所へ向かう。

 歩いて3分程で達也のいる部屋の近くまで到着する。

 近づくに連れ、少し騒がしい音が強くなる。

 部屋の前には物が置かれており、そこから身長150sm程の男の子が汚れた本を持って出てきた。


「ふぅ……後は埃を落として、床を拭いて……ベットは干す場所を聞いといて……うん、綺麗になるな」

「あ、貴方……」


 声を掛けられ、そちらの方を向く、


「あ、初めまして、俺は新海達也です」


 礼儀正しく頭を下げて挨拶すると、突如走ってきて抱き締められる。


「わっぷ……え?」

「ごめんなさい、夫が誤召喚で帰れなくなったのですよね……まだ、幼いのに……」

「え、えーっと……」

「大丈夫ですよ、この家で暮らして行きましょう」

「え、あ、はい」


 何が何だか分からないが、心優しいエレノアに抱きしめられながら言われた。

 それからオーキンスが説明し、納得したエレノアである。

 そして執事生活が1週間が経った頃、屋敷内は大体覚え掃除も料理も覚えて行った。


 仕事が終わると魔法の勉強、この世界の言葉を覚える、筋トレの毎日。

 そんな中、誰も使われていない倉庫を見つけた。

 重いスライド式の扉を開け、薄暗い倉庫内を進んでいくと作業台を見つける。

 作業台の上に乗っている物を手に取る。


「……なんだこれ?」


 見た目は銃、だが弾倉を入れる所もなければ発射口もない。


「うーん……ん? トリガーがあるな、これを引けば……」


 トリガーを引くが、何も起きない。


「ありゃ、不調かな?」

「な、なにして、るの!」

「――!!」


 突如扉の方から声を掛けられ、ゆっくりそちらの方を向くと、髪がボサボサで手入れされておらず、前髪が目元を隠れている女の子が立っている。

 見慣れないな……誰だろう? と思っていると女の子が走って来て、手に持っていた物を乱暴に取られた。


「あ、ご、ごめん……」

「……」


 ジロッと睨まれながらこちらを見ている女の子。


「え、えっと……」

「……あ、貴方……最近、入った……ばかり、のし、執事、よね?」

「そ、そうだね……」

「わ、私はセライラ・ベロウズ……」

「あ、俺は新海達也です! で、さっきのあれ!」

「……こ、ここに、は……もう、こ、来ない、で……!」


 何故、そんな事を言うのか分からなかった。

 ふと、女の子手を見ると黒く汚れている。


「……もしかして、それ作ったの君?」


 ビクッと体を一瞬震わせてから、背中をこちらに向ける。

 女の子はギュッと銃の様な物を抱きしめながら黙り込む。


「出て――」

「――作ったとしたら凄いよ!!」


 予想外の言葉に驚愕してゆっくりと達也の方を振り返る。


「え……?」


 達也は女の子に近づき、今の気持ちを伝える。


「凄いよ!! だって、これこの世界で見たことが無いもん!!」


 目を輝かせながら言う達也に女の子は、


「でしょ! これ、実は小型の魔撃を放つの! でね――あ……ご、ごめん、なさ、い」


 やってしまった……少し興味を持った者に対していつもこうしてしまう……そして、その度に離れていく。

 思いながら黙り込み俯くと、


「何で謝るの? 教えてよ! これ!」

「……気持ち悪くないの?」

「何が? 気持ち悪い所か、すっごいじゃん! だから、教えてよ!」


 女の子は達也の満面の笑みに心が動いた。何故なら、女の子は学園の小等部に通って居らず、家で開発と実験の毎日であった。

 通っていない理由は簡単で疎外にされてきたからだ。

 女の子は思う、この人なら……この人なら、大丈夫。と、


「うん……でね、これはここに剣も付けられるの」

「凄い!! 凄いな! も、持ってもいい!?」

「う、うん……」

「うおおおおお!! やっぱり、この形……いいな!」


 満面の笑みを浮かべる彼に女の子は初めて好きと言う感情を抱いた。


 そしてこの2人の出会いが世界を震撼させる程の偉業を成し遂げるとは、この時誰も知る事はなかった。

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