第16章 エルフの森へ


昨夜は『瘴気渦巻く屋敷跡』踏破の慰労会をロークが開こうと口うるさく言うので、みんなで参加してきたが・・・さすがに飲み過ぎたか、今朝は寝起きから体がだるいし頭痛もする。俗にいう二日酔い状態に陥っていた。


もう今日は目的を持った何かをするでなく、窓から吹き込んでくる風にあたりながら、リビングでゴロゴロしようと俺は決めた。

例え、アニーに『怠け者』と言われようが・・・




「ご主人さま~起きてますか?」


「うん?起きてるよ。一応だけど・・・」


「あはっ、一応なのですね~」


アニーはそう言いながら自室のドアを閉め、リビングのソファーに寝転がる俺に笑った。


「うん、昨夜飲み過ぎたみたい・・・」


「うんうん。盛り上がったですもんね~ぷぷっ」


「あいつら本当に笑わせ過ぎ!おかげで、朝からこんな有様に・・・」


俺は目頭を押さえながら苦笑いを返した。


「あはっ、そうなんだぁ~~あっ、冷たいお水でも持ってきましょうか?」


「ありがとう・・・助かる」



王立図書館で書物を漁っていた時に見つけた文献によると・・・

この世界の町という町は『魔脈』と呼ばれる水脈の流れのような「魔力の存在」を感知できる場所に作られているようだった。

魔力自体がどこから涌いて来るのかはいまだ以って解明されていないようだが、川の流れのように尽きることなく流れているらしい。


その魔脈を利用すれば、街全体に外敵から守る為の結界が容易に張れるだけでなく、街中の灯火トーチや水道ポンプとしての水の汲み上げなど生活魔法としても誰もが利用できる仕組みになっているようだった。

あくまで、それは単なる一例に過ぎないが、簡単に言えば元の世界の発電所や水道事業所のような役目を魔脈が担っていることになる。

まぁ、管理費として魔脈利用税は徴収されているようだが・・・


俺は当然この世界に存在しない家庭用の『冷蔵庫』もどきを創造変換を駆使して作ってみた。

素材を上位変換しながら、扉付きの木箱の中に薄く加工した大理石を全面貼り付けし、魔脈を利用した氷結魔法を掛けておく・・・ただそれだけなのだが、常時魔法が発動しているので保管物を冷蔵保存できるわけである。

この世界の食堂などでは氷魔法の使い手による氷漬けにした食品物を倉庫に閉まっておくのが主流のようである。


アニーはその冷蔵庫もどきから冷やした水を取り出し、俺に手渡してくれた。。



・・・・・・・・



「あのね、田舎からマジックメールが届いたの~」


「田舎って・・・エルフの森から?」


アニーはアイテムBOXから、マジックメールを取り出した。

俺はソファーに寝転んでいた体を起こし、彼女を正面に見るよう座り直した。


「そうなのです。一番上の姉の結婚式に帰ってきなさいって・・・」


「そうなんだ~それはお目出度いことじゃない~ははっ」


「うん・・・」


彼女は視線を下げながら、俺の言葉にどこか肩空かしな素振りを見せた。

そんな素振りを感じ取れば誰だって気になる。


「ん?・・・帰りたくないの??」


「いえ、そうじゃなくって・・・」


「ん?・・・」


「・・・・」


「・・・?」


何だ?何だろう・・・この沈黙の空間は。

俺としては全く以って意味不明であった。頭の上に『?』が3、4個付きそうな感覚になった。

アニーは少し言いにくそうに、俺を下から覗うような視線を投げかけ口を開いた。


「わたしバサラッドで『ご主人さま』と呼べる方のもとで修行してるのと以前伝えていたの・・・」


「へっ?」


「そしたらね・・・」


「うん・・・」


「お世話になっているその『ご主人さま』もご招待したいって!」



「えぇぇーーーー!」



彼女はそう言うと、恥ずかしそうに頬染めながら俯いてしまった。

俺はと言えば、絶句したのち・・・ポカ~~ンと開けた口が塞がらず、間抜けヅラをアニーに晒し続けていた。



・・・・・・・・


・・・・・・・・



木々の間から木漏れ日が射し込む。

草原や岩肌の続いた景色から森の中へと馬車が向かっているのがわかる。

エルフの森は、王都バサラッドから約150Kキルカ西南に位置しているエルフ族が主流で暮らしている集落であり、アニーが生まれ育った故郷だった。

月に数度、エルフの森近くの町まで行く定期便が走っている。

俺は、俺の意思とは関係なく、今その馬上にいる。



アニーはいつもの機能性が高い軽装ではなく、いつになくオメカシしてすましている。

久しぶりの森への帰郷に心も弾んでいるんだろう。

そんな彼女が可愛くも可笑しくも見えた。


出掛ける数日前、結婚式というお姉さんの祝いの席に、さすがに普段着ではまずかろうと・・・依頼報酬もそこそこに貯まっていたし、街のショップでそれなりの正装着を二人ともあつらえることにした。

何せ、気乗りはしないが、アニーが使える『ご主人さま』役が、あまりにもみすぼらしくては逆に彼女が可哀そうだし、簡単にウソだと綻ぶのも親や親族に対して気が引ける。

気持ちに晴れぬ憂鬱ゆううつさはぬぐえなかったが、これも成り行きかと半分あきらめの境地になっていた。



・・・・・・・・



「もうそろそろ、エルフの村ですよぉ~」


馬車を降りてから1時間近く歩いたような気がする。

エルフの森というイメージから鬱蒼うっそうとした森の中にあるもんだと思っていたが、森は周りだけで割と開けた所に集落が見えた。

昔は外敵から身を守る為に木の上に住まいを作りそこで生活していたようだが、今は時代の流れとともに平地での生活が主となったとアニーから聞かされた。



「ついに着てしまったかぁ・・・うぅ」


「ご主人さまはイヤなのですか?」


「いや、嫌やって言うより・・・どんな顔してアニーのご両親に顔を合わせたらいいのか・・・」


俺は恥ずかしながら緊張していた。

アニーに伴われたこの状況をどう説明・・・いや釈明かもしれない。

何て答えれば良いのかと考えれば考えるほど緊張が高まった。



「大丈夫ですよぉ~あはっ」


「何が大丈夫なんだよぉ~~俺、腰が引けてるかも~」


「あはっ、以前話しましたよね。『えにし』のこと・・・」


「うん・・・」


「父も母もわたしがいい加減な人を連れて来るなんて思っていませんよ?きっと『縁』で繋がってる大切な人を連れて来るってわかっています!」


アニーだけでなくエルフ族の人たちは、天と地から与えらえる自然の恵みや『森羅万象』のコトワリを大昔から代々伝えてきているんだろう。

そして、それがすべての言動における基本理念となっているんだと感じた。



「えぇ?~~何か、余計に重圧が圧し掛かってくるんだけど・・・」


「あははっ・・・大丈夫です!」


「・・・・」



エルフの子供たちが遊んでいる姿が見える。

会話を続けながら歩いていた二人は、村の入り口に辿り着いたようだ。









「あっ!姫さまだぁ~~!」

「ほんとだぁ~~姫姉ちゃん~~おかえり!!」

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異なもの奇なもの異世界録~この世界の理(コトワリ)~ 村主降星 @falling40

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