第15章 瘴気渦巻く屋敷跡 ②


部屋に入ると、扉はすぐに閉まった。

すでに部屋中には薄紫色の瘴気しょうきが渦巻いている。

即効性は無いものの、長時間触れていると正気を失い気絶や混乱状態へと陥ってしまう。


俺たちは正面に控える『ロードオブデーモン』を見据えた。

取り巻きは見当たらない。

ただ毒々しい瘴気だけが漂っている。



「ボス云々より、この瘴気がヤバイなぁ~」


「うん、そうだねぇ~体にまとわりつく感じが・・・」


「瘴気に触れないってのは無理だし・・・時間掛かるとこっちが自滅しちゃうかもですね!」


ロークもフローラも、そしてアニーも立ち込める瘴気をかなり気にしてるようだ。

実体が無い分対処に困るというのが本音だろう。



「できるだけ短時間で勝負を決めたいなぁ~・・・」


「そうだな。取り巻きも見当たらないし、まずはボスの様子見で遠目から仕掛けてみようか!」


「了解しました!」


「了解なり~」




ボスの取り巻きがいない分、こちらも慌てることもなく、十分に体勢を整える時間があった。




「クロエ、大変だと思うけど、状態異常耐性魔法中心にみんなのフォロー頼む!」


「高位神官に任せるなり~ププッ」


「うん、期待してるよ~ははっ」


クロエはメンバー個々へと状態異常耐性呪文を唱えていく。

範囲バリアはバリア内に瘴気を含んでしまう惧れがあるので発動を見合わせたようだ。



取り巻き代わりに漂う瘴気だけが曲者だったが、みんな攻撃体勢に着いた。



「よっしゃーー!それじゃ攻撃開始だ!!」


フローラとアニーがまず中距離から初撃を放った。



ボンッ、ボボッボ~ン



ボスはその挨拶替わりの攻撃に怯むことなく、俺たちの方へとズカズカと歩を進めてきた。



まずはロークが正面からボスとガップリ組み合った形でバッシュを発動し続け動きを止める。

俺はボス側面から火球を放ったのち飛び込んで斬撃をお見舞いした。


同じナイト系職ではあるが、ドラゴンナイトのロークは盾を片手に、ルーンナイトの俺は、盾は持たず右手のみの片手剣とし、左手は魔法を使う為に開けておいた。



「フローラ、アニー~、2撃目を頼む!」


俺とロークは転がるように両サイドに回避した。

ボスはヘイトスキルに釣られたようにロークの方へと体を向けた。

クロエはロークに杖を振りながら防御力アップの呪文を唱える。


フローラとアニーは連射でロークに絡む前のボスに攻撃を仕掛けた。

さすがにボスだ。『ロードオブデーモン』は削れいく素振りも見せず足を進めてくる。



・・・・・・・・



瘴気がキツイ・・・

徐々に体をむしばんでくる。

いくら状態異常耐性魔法をもらっていても、その効果は短時間だ。



クロエのMP消費が半端無い。

それが一番の気がかりになった。


「アニー、クロエのポーション補給までガード頼む!」


「了解しました!」


アニーは即座に移動しクロエの前に立ちはだかった。

俺は、ロークに攻撃を仕掛けるボスの背中へと炎弾を撃ち込んだ。

フローラも俺の後ろへと場所を移しバレットを放つ。


ボスは後方からの俺たちの攻撃に振り返った。

ターゲットが、どうやらこちらへ切り替わったようだ。


ロークはすかさずボスの反転に反応し、俺たちの前まで移動して盾を構え直した。


それを確認した俺とフローラは逆サイドへと走りだした。


フローラがよろけた・・・


「きゃーー、ゴメン!」


「クロエ、フローラに異常解除を頼む!」


超越した身体能力を持つ俺と比較すれば当然と言えば当然なのだろうが、フローラはこの瘴気にじわじわ侵されているようだ。


「了解なり~~フローラ後ろへ下がって!」


「フローラ了解です~」



・・・・・・・・



ロードオブデーモンは、ロークに鋭いタワールで幾度となく斬りかかる。

じわじわと・・・瘴気に侵されだしたロークも守勢に回りだした。



「アニー、俺の後ろに回って、ボスに攻撃かけてターゲットを引き受けてくれるかなぁ~!」


「は~い、了解です!」


さすがに俊敏なエルフ族・・・アニーは瞬時に俺の後方へ回り、矢にダメージ大の呪文を付与しマグナムショットを発動してくれた。

効果は絶大だった。ボスは膝を折りひざまずきながら怒りの顔付で視線をこちらに向けた。



「ローク下がって補給しろ!しばらく俺が引き受ける~~!!」


「了解した、ショーヘイ頼む~!」


ロークは転がるように、一旦後ろに下がった。



アニーと俺を目掛けて動き出したボスは、瘴気を載せたソウルマジックをおもむろに撃ってきた。

俺は身体能力でかわせたが、アニーは回避しながらも体に貰ってしまった。


「大丈夫かぁ~~アニーー!」


「大丈夫です。掠っただけですから~あはっ」


そう言うとすぐさま立ち上がってくれた。

アニーの防具は創造変換による上位素材から作製していたので、状態異常に対する耐性は他のメンバーの装備とは比較にならなかった。



・・・・・・・


削り削られの攻防がしばらく続いた。


ロークもフローラも、そしてクロエも・・・瘴気に少しあたり気味になってるのが見受けられる。

これ以上戦闘を長引かせることはできない。

俺は意を決した。


「アニー、疲れてるだろうが、ボスの足を床に釘づけにして止めてくれるかな・・・できるか?」


「了解!ご主人さま~~任せて!」


彼女は微笑みながら、ボスのタゲを取るようにサイドへと走りだした。

その動きを見ながら、俺は上位スキルの『バーサーカーストライク』を発動する為、アイテムBOXから大剣を呼び出した。


アニーは移動を続ける不安定な姿勢ながらも弓を引き絞り、移動不可呪文を付与した影縫いを放った。



ビシッ



矢はボスの右足甲を見事に刺し貫いた。

ボスは体勢を崩すように前かがみに膝をつきその場で動きを止めた。

アニーは転げるように、後ろに下がっていたみんなの方へとそのまま体をかわした。




「よぉ~~し、後は任せろぉ~~~!」




俺は動きの止まったロードオブデーモン目掛けて突撃した。

そして飛び掛かるように両手に握った大剣を、相手の耐性を無視して大ダメージを与えられる『バーサーカーストライク』を・・・ボスの脳天から叩き込んだ。



ドガッ、ズズ~~ン、ズカッ



上から下まで鮮やかなまでに斬り抜けた。

瘴気の中、みんなは唖然とした眼差しで、俺に両断されたボスをただ凝視していた。



ドタッ、ドスン、ジュジュジュル、ジュジュジュ・・・



『ロードオブデーモン』は真っ二つに両断されたその体を床へと崩していく。

そして・・・溶けるかのように、しだいに消滅していった。


ボスの消滅と同時に、部屋に渦巻くように立ち込めていた瘴気も消え去った。



・・・・・・・・



「おぉ~~スゲェーーー!」


「やった~やったぁ~~ショーヘイ凄い!!」


「ひゃ~~~~やった、やったなり~!」


「やったですぅ~~!」


みんな飛び上がって喜んでいる。

俺はコソッと使った上位スキルの威力に自分自身驚いてしまった。

あんなにアッサリと一撃で・・・まだ検証も研究も曖昧な未知なるスキルが少し怖くなった。



「ふぅ~~~みんなお疲れさま~!」




「お疲れさまでした。ご主人さまぁ~~~!」


アニーはそんな言葉とともに俺を目掛けて臆面もなく飛び込んできた。

そんな彼女を笑いながら胸に受け止め、やさしく抱きしめた。





『アニーもお疲れさま!』

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