第13章 時空を越えた出逢い


窓を開ければ遠くない先に青い海が見える。

その海から吹く風が、かすかに漂う潮の香りを乗せ爽やかに吹き込んできた。

なかなかに風光明媚な場所だと思えた。


部屋の鍵らしきマジックカードを渡された俺たちは、バサラッド東側の坂道に建つ3階建て集合住宅の2階の一室に立っていた。



「何か、迷惑かけてしまったみたいで・・・ゴメンなさい~」


彼女はペコッと申し訳なそうに頭を下げた。


「いやぁ~驚いたけど、部屋も借りれたし・・・結果オーライってことで!」


俺は頭を掻きながら、そんな仕草の彼女へと笑顔を返した。


「・・・・」


「でも・・・よくあんなことを思いついたね。本当にビックリしたよ。アニーさんが真面目な顔で言うからオヤジも呆気にとられていたし!ははっ」


「・・・・」


笑いを含んだ俺のその言葉に、アニーは恥ずかしそうに頬を染めながら俯いた。

思いつきとはいえ、咄嗟とっさの機転の速さには本当に驚かされた。

彼女は美人なだけでなく頭もいいんだろう・・・『天は二物』を与えるんだと思ったら急に可笑しくなった。



「でもね、アニーさん・・・俺と同居でもイイの?」


「だ、大丈夫です!ちゃんと家賃も半分払いますから・・・」


アニーは慌てて顔を上げ、俺の意図を理解しているのかしていないのか・・・判断に悩む返事をした。

でも、その表情がとても可愛く面白かった。


「いや、家賃じゃなくて、何て言うのかな・・・俺たちって男と女だよ?」


「・・・・」


「何か、出逢って間もない俺なんかと一緒に住んじゃっていいのかなぁ~って思ってしまうし・・・お互いの事何も知らないじゃないですか・・・」


俺のその言い回しは、単なる気遣いだけじゃなく・・・アニーという不思議な女性に対する興味から出た言葉のように自分でも思えた。


「普通はそうなんでしょうね~・・・一緒に住むっていうことは、やっぱりご迷惑なんでしょうか?」


「いえいえ、俺はアニーさんのような美人と一緒なのは逆に嬉しいんですけどね~」


「・・・・」


確かに部屋はリビングを挟んで両サイドにひとつずつあるし、うまくシェアできそうな気はしたが、如何いかんせん男と女の同居となると・・・

元の世界でも経験したことのない事柄だけにどう対処したら良いものかと俺は頭を抱えた。



・・・・・・・・



何もないガラ~~~ンとしたリビングの床の上に二人座って、これから揃えなきゃいけない物などを考えていた。


「エルフ族はね・・・って言うより、わたしの代々のご先祖様から伝えられてきたお話があってね・・・」


アニーは優しい笑みを浮かべ、俺の顔を見つめながら急に口を開いた。


「うん?・・・」


「万物の事象は『えにし』によって始まるって。縁は『偶然』ではなく『必然』なんだって!」


「・・・・」


それは俺も思っていた。思っていたというより今も感じている。


「何かするのも誰と出逢うも、どんなに望むことでも・・・お互いがお互いを惹き寄せ合うものが無ければ成就しないって・・・」


「うん・・・」


「何かと何かを繋いだり、誰かと誰かを結んだり・・・偶然のようによそおうけれどそれは偶然じゃないって・・・それが『えにし」だって!それが、この世界のコトワリなんだよって教えられたの・・・」


確かにそうだと思う。彼女の言うことは真理だとも思えた。

出逢ってからの時間も月日も関係ない。

縁が無ければ、どんなに想い描こうとも自分の考えるようにはならない。




「あの時ね・・・助けられたこと、本当に嬉しかったです。街道かられたあんな森の中を人が歩いていること自体が奇跡だったもん・・・」


「・・・・」


「ここでこの人に救われたこと・・・これは『えにし』が惹き寄せた出逢いなのかも知れないと感じたの。偶然じゃなく必然って・・・あはっ」


「うん・・・そうかも知れないなぁ~」


「だから、過ごした過去の時間なんて関係ないんです。助けてくれたこの人が、これからのわたしにとって何なのか知りたかったのです」


「・・・・」


彼女の言葉は、まるで俺が頭の中で感じていた事と同じだった。

俺もアニーという存在が俺にとって何なのか知りたいと思っていた。


「そして・・・許されるなら、少しでも多くの時間を一緒に流してみたかったのです」


ここへ結びついていたのか・・・

これまでの俺に対する彼女の言葉や仕草や素振り・・・接し方すべてに『合点』がいった。

不思議さや疑問も、不可解に思えたことも・・・

みんなこの想いに集約されていたんだ。

俺は益々アニーという女性に興味を抱いてしまった。



「だから・・・『ご主人さま』と出逢ったのは、出逢うべくして出逢ったんだと感じているのです~」


「そ、その『ご主人さま』ってのやめようよ~~あの場の詭弁(きべん)だったんでしょう?」


臆面もなくそう呼ばれるのに何か抵抗を感じてしまう・・・やっぱり恥ずかしい。

ニコッとしながら、そう口にするアニーの真意もわからない。

実際に奴隷でもメイドでも何でも無いんだから。


「ダメです!わたしはご主人さまの『メイド』だからココに一緒に住めるのですよ?~あはっ」


「うぅぅ・・・」



俺は時空を飛び越えて彼女と出逢う為にこの世界に来たのかも知れない。

そしてそれは・・・「偶然」ではなく「必然」だったのだろう。



「だから、わたしのことはアニーさんではなく、これからはアニーとお呼び下さい・・・」



『ご主人さま!』



・・・・・・・・


・・・・・・・・



「へぇ~~~何かロマンティックな話だよね~いいなぁ~」


フローラはどこか『うっとり』するような表情を浮かべ遠くを見つめた。


「あはっ、ちょっと恥ずかしいです~」


アニーは、そんな彼女の言葉に照れて視線を下げていた。

俺はと言えば・・・そんな遠くない回想なのに、どこか懐かしさにけてしまった。


「あぁぁ~~俺にもアニーちゃんのように『ご主人さま~』って呼んでくれる女性現れないかなぁ~」


「無理、無理~~きゃははっ」


「現れないなり~プププッ」


「何でだよぉーー!」


ロークは無粋な表情を浮かべふてくされる。


「だって、安宿暮らしのロークの雑魚寝部屋で、どこの女性がひざまついて『ご主人さま~』って言うのよ~」


「そんなの絶対、お断りなり~ププップ」


「何でクロエに断られるんだよぉー!」


みんなの疑問に答えが出せたのかどうかは判らない。

でも、こうしてみんなで笑える時間は心から楽しいと思える。

いつまで流せる時間かわからないが・・・できる限り流してみたいと思う。




「ところで・・・二人の仲はどこまで進んだの?」


「おっ!それも気になるわぁ~!!」


「二人はホント仲がいいもんねぇ~~アツアツだし!きっとベッドでも・・・あんなこと、こんなこと~~きゃー恥ずかしい!!」




「クロエ・・・お前、もう退場ぉーー!」

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