第5章 備えあれば憂いなし
ロークの半ば強引なる誘いを断り切れず、俺とアニーはパーティーに参加することになった。
出発日をメンバー全員の日程調整から2日後と設定した。
移動の往復に2日、ダンジョン攻略に1日・・・近場とはいえ小遠征となりそうだ。
「2日後か・・・そんな遠くない場所と言えど、それなりに準備もいるよなぁ~」
「ロークさんはいつも勝手です!」
アニーはそう言って膨れ面になった。
「ははっ、そう怒るなって!これもいい機会だから・・・新しいことに挑戦してみようよ」
俺は彼女をなだめるような言葉でやさしく頭を撫でた。
アニーは俺のそんな行為に笑みを浮かべながら目を閉じた。
今から準備となると時間は足りないが・・・
アニーには遠征に必要な雑貨一式を段取りしてもらうようお願いし、俺はこの機会に装備一式を新調することにした。
武器は以前作ったものを使うとしても、特に身を守る装備だけはしっかりしたものを用意しておきたかった。
これはゲームでなく、『命のやりとり』なんだから・・・
俺は採集スキルで集めていた鉱石やなめし皮をベースに『創造変換』を駆使し、まずは装備の基本パーツを作製した。
口外できないが・・・もちろん、鍛冶スキルも縫製スキルも熟練MAXなので、同程度の内容の装備なら街の専門職のドワーフよりも良品が作れる確率は高い。
ただ、どうしても現保有の収集物では、装備ランクの中途半端さは否めないが、『創造変換』で利用できるベースになる素材が違うというメリットは大きかった。
当然、付与される攻撃に対する耐性も格段に違うのだから。
今のアニーのLvから考えれば相当な上位装備になっているはずだ。
「後はポーション類か・・・やること多いなぁ~」
俺はそんな独り言で苦笑いを浮かべた。
『備えあれば憂いなし』・・・やれることはやっておこうと思った。
・・・・・・・・
・・・・・・・・
夕方と呼ぶにはまだ早い時間帯だったが、俺たちは鉱山手前のキャンプ地にたどり着いた。
「よ~し、今夜の寝床を設営しとこうか!」
ロークは疲れを知らないのか・・・着く早々、場所の確保と設営をみんなに指示した。
フローラ・バシュラール 18歳♀(ウィザード)・・・ダークエルフ
ローク・カートライト 21歳♂(騎士)・・・ヒューマン
クロエ・ラウティオラ 18歳♀(神官)・・・ヒューマン
アニー・ベルハート 17歳♀(狩人)・・・エルフ
そして・・・
ショーヘイ・クガ 20歳♂(魔法剣士)・・・ヒューマン
冒険者ギルドへは当然「ヒューマン」で登録している。
希少種な上に唯一無二とか称される存在なら、「ハイヒューマン」であることを尚更公開できない。
「ブーブー!少し休ませなさいよ~脳筋男!」
クロエやフローラが文句を言ってる。
そんな、平和的且つ、のんびりした会話が場を
・・・・・・・・
今回の遠征目的「
冒険者Dランクばかりで構成されている俺たちのパーティーで言うなら上位ダンジョンにあたるのだが、基本的にC級までは基本職でもクリアーできるようになっているらしい。
あくまでギルド受付でもらった攻略本の受け売りだが。
俺たちは食事を済ませた後、全員で攻略ルートについて、出現モンスターについて念入りなるミーティングを行った。
経験値が、熟練値が、ドロップがと色気を出しつつも『命のやりとり』なんだ。
生死を賭けたやりとりに、舐めたり、油断したりすると即全滅しかねない状況に陥る。
みんな、それはヒシヒシと感じているようだった。
・・・・・・・
夜の
テント前の赤い焚火だけが、月明かりに照らされ、まるでスポットライトを浴びたように闇に浮かんでいる。
みんなは、明日の為に早く体を休めようとするでもなく、装備や武器の手入れに余念がない。
初ダンジョン攻略という興奮と、上手く立ち回れるだろうかという不安が、頭の中を交差するように混じり合っているんだろう・・・
何かしていないと落ち着かない、そんな素振りを見せていた。
少し離れた場所にキャンプを張っている他の攻略パーティーからは、賑やかな笑い声が飛び交っていたが・・・あの軽いノリが信条のロークでさえ、無言のまま黙々と作業を続けている。
たぶん緊張に神経が高ぶって眠りに就けないんだと思う。もちろん・・・俺も同じ部類なのだが。
・・・・・・・・
寝付けないなら寝付けないで、初秋の風にあたるのも良いかと、月が照らす道を小高い丘へと一人歩いた。
そして辿り着いた先の草むらへ『大の字』に寝転がってみた。
大自然の中に包まれていると、まるでその息遣いまでもが聞こえてきそうな一体感が味わえる。
澄んだ空気の中に広がる満天の星空・・・
「綺麗だなぁ~~星空って、こんなに綺麗だったんだぁ~」
実感としてそんな独り言が自然に洩れた。
元の世界では星空を見上げる余裕もなかったし、見上げたいと思うことも無かった。
ただ機械仕掛けの人形のように、殺伐とした時間を、毎日毎日自分のルーティンとして流していただけだった。
俺は偶然起こった出来事にせよ、この世界に来れてホント良かったのかも知れない・・・
「そうですねぇ~、本当に綺麗~!エヘッ」
アニーは少し照れながらそう言って寝転んでいる俺の
「ん?どうしたんだ?・・・眠れなかったのか?」
「うん。寝返り打ったとき、ご主人さまが歩いているのが見えたの・・・それで、コソッと着いてきちゃった!」
「そっか~」
しばしの時間、ただただ二人して、星が散りばめられた夜空だけを見つめていた。
そこに言葉なんかいらなかった。
・・・・・・・・
「なぁ~アニー・・・」
「えっ?」
「お前さ・・・今、生きていること楽しいか?」
寝そべる俺の横で星空を見つめ目続けるアニーに訊ねてみたいと思った。
こんな大自然の中に抱かれてしまうと、俺たちの存在は、虫けらのように小っぽけなものだと実感させられてしまう。
転移したことで、俺は二つの異なる世界を知っている。元の世界では、自身の存在価値も生き甲斐も感じることが出来なかった。小っぽけな自分に気づきさえもしなかった。
くだらない質問だと思えたが、みんなが何を感じて生きているのか・・そんなことに触れてみたいと思った。
「何それ?アハッ 楽しいに決まってるじゃないですか!・・・じゃあ、ご主人さまは?」
「俺か・・・」
「うん・・・」
「もちろん楽しいさ・・・でもな」
「でも?・・・」
「何て言うんだろう・・・言葉にするの難しいんだけど、無性にさ・・・』
「・・・・・」
アニーはただ黙ったまま、俺の言葉を待っていた。
『嬉しいんだ!』
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