第3章 宝の持ち腐れ
王都バサラッドの冒険者ギルドは、さすがに大都市のギルドらしく、1Fホールは達成報告や依頼書を求める冒険者たちで大いに賑わっていた。
立ち替わり、入れ替わり押し寄せる人波に、カウンターの受付嬢も慌ただしそうで気の毒に思えた。
クエストの報告を済ませ俺たちは、買い物がてらに街をぶらつきながら食事に行くことにした。
今日はランク上位の採集クエストを達成できたので、報酬も経験値も想定以上に獲得でき、お陰で懐もそれなりに潤ったし・・・
こんな日は、少しばかりの贅沢なら許されそうだと2人笑い合った。
アニーは俺の傍らで「ステータスボード」を開き、鼻歌まじりに今日の成果を確認している。
このボードは本人以外には見ることのできないシステムになっているようだ。
「あっ、Lvアップ!レベルが1上がりましたよぉ~!!」
アニーは
「そっかぁ~おめでとう!今夜は祝杯だな!!」
「やったぁ~!」
端正な顔立ちと天然ぽい少女を匂わせる素振りとのギャップが・・・俺には、何ともたまらなく可笑しく思えた。
俺の場合、取得経験値や熟練値はスキルに全く反映されない。ただ上限を突き抜けている身体能力に関しては、今もって微少ながらも加算されているようだ。
彼女のように自分の成長に一喜一憂できるわけでもなく、意味を為さないボードを確認するという作業自体が
「お~~い、ショーヘイ!」
ギルドホールを後にしようとした時、突然、名指して呼び止められた。
声のする方へと視線を移すと、ホール右手にある軽食堂から小走りで駆け寄ってくる人物がいた。
「うん?ロークか・・・」
「ロークじゃねぇーだろ~お前、今日も採集クエストの報告か?」
『大きなお世話です』とでも言いたげな顔つきになるアニー。
そんな彼女の顔を横目で見ながら、俺はロークへと苦笑いした。
「ああ、アニーと一緒にホビットの丘まで出向いていた」
ローク・カートライト 職業:騎士 ヒューマン♂
この世界に来て、アニー以外にできた最初の友だちと呼べる男。
気さくで大ぴろっげな性格で、いつもどこかのグループに顔を突っ込み、
仕切りたがり屋的な面もあるが、利害関係においては概ね良好な関係が続いている。
「俺たちさ~まだ冒険レベルDだぜ!ランクアップ目指すならもう少し稼げるクエ選んだ方がいいんじゃないか?」
ロークは、何か含んだような言い回しで俺の顔を覗き込んでくる。
「はは、そうかも知れないなぁ~」
「そうだろ?そうだよなぁ~・・・そこでだが、コホッコホ、今度一緒にダンジョンに行かないか?」
彼はわざとらしい咳払いをしながら俺の肩へとおもむろに手を回し、アニーとの間に無理やり割り込んできた。
ロークの厚かましくも横柄な態度に、アニーは顔を
その悪態のつきようが、言葉にできないくらい可笑しくもあり、可愛くもあった。
毎度の事ではあるのだが、ズカズカと2人の関係に踏み込んでくる態度に好意的になれないんだろう。
「ダンジョンかぁ・・・俺とお前で?」
「いや、アニーちゃんも含め仲間内でパーティー組んで行ってみようぜ!」
「・・・・・・」
俺は正直気乗りしなかった。
何か事あれば自分の能力が露見してしまう恐れがある。
実際、まだスキルの発動加減が上手く調節できない。それなりに研究はしているが強弱加減は非常に難しい。
ローク自体のLvは、上級職へ転職していないこと考えれば、たぶんアニーと大差ないと思われた。
俺の場合、何の職業にだって就こうと思えば就けるのだが・・・今は研究の為に基本職の『魔法剣士』ということにしてある。
きっと同Lv帯だと思われてる俺が、あまりにも飛び抜けた力を発揮してしまうと「称賛」が「
「
ロークはそう言って、クロエやフローラが座っているテーブルに顎を向け、俺の視線を促した。
・・・・・・・・
・・・・・・・・
木々の葉の間から零れる光が何となく優しく感じられる。
俺はそんな木陰に座り込み、ステータスボードを再確認するかのようにスクロールさせていた。
目に留まったスキルの説明を見てみる。
武技スキル 熟練度MAX:所持している武器に関係なく熟練で派生。
魔術スキル 熟練度MAX:自身の相性(地・水・火・風・光・闇)や魔力量、熟練で派生。
そんなスキルを見つめながら、ふと大きな壁にぶち当たってしまった。
確かに総てのスキルにおいて熟練度はMAXと表示されている。
でも考えてみたら、数値がMAXなだけでプロセスのない俺には発動方法も発動内容もわからない。
所謂(いわゆる)『宝の持ち腐れ』状態であることに気づかされた。
誰かに教えを請うか、図書館のようなところで知識を得るしかない。
そうなれば・・・まずは施設や専門知識のある人物のいそうな所を探さなくてはいけない。
俺はステータスボードからMAPを開いた。
自分の現在位置と思われる場所に赤い点が表示されている。
「ここから一番近い町は・・・バサラッドって所か・・・」
そんな独り言をつぶやきながら木陰から腰をあげた。
「さぁ~て、異世界へ旅立ってみるか!」
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