第2章 微睡みのひととき
「おっと危ねぇ~~!お兄ちゃん、お姉ちゃんゴメンなさい~!!」
けたたましく走り回る獣人族の子供たち。まるで暴風が慌ただしく通り過ぎたような感じだ。
こんな
「そんな勢いよく走ったら危ないよぉ~!」
「はぁ~い、お姉ちゃん!」
「本当に子供たちって元気があっていいですよねぇ~何か羨ましい!その元気分けて欲しいかも~あはっ」
子供たちに注意を促した後、俺を横目にみながら、アニーはやけに年配染みた言い回しをして笑った。
おいおい、お前はそんな大人なのかよぉ~ってツッコミを入れたくもなったが、
俺たちだって肉体年齢から考えば・・・
長命種の多いこの世界では、先ほどの子供たちと同じでヒヨっ子の部類に属するんだろう。
近道をするために大きな通りから離れ、路地裏通りをカフェに向け歩いた。
目指す「かれん亭」は冒険者ギルドの2軒隣で、報告前の休憩には打ってつけの場所だった。
「今日は何のハーブティーにしようかな?カモミール風味にしようかな~・・・ねぇねぇ~、ご主人様は何にします?」
上機嫌のアニーは俺の前へと回り込み、そして後ろ歩きしながら小首を
端正な顔立ちに似つかわないその表情と仕草・・・俺はそのギャップが可笑しくて仕方なかった。
自称17歳も、こういう天然ぽい素振りを目の当たりにしていると真実に思えてくる。
すましていれば近寄り難いほどの美人なのに、エルフ族の女性って皆こうなのだろうか?
「俺?俺は何でもいいよ~~味音痴だし。アニーみたいに詳しくも無いし・・・」
「味音痴?何か引っ掛かりますね~その言葉!」
知識も乏しい分野に適当な返事でアッサリいなしたのが悪かったのか、思慮もなく発したその言葉に、彼女は妙に引っ掛かりを憶えてしまった。
「へっ?」
「それって、いつも『美味しいよ』って食べてくれていた私の料理・・・あれって
アニーはそう言って、口を尖らせながらほっぺをプゥ~と膨らませた。
「違う、違う!アニーが作ってくれる料理は本当に美味しいから~」
俺は予期せぬ展開に慌てた。そして、膨れっ面の彼女に必死に弁明した。
「・・・怪しいなぁ~怪しすぎる」
疑惑満載の目つきで俺を下から睨んでくる。
でも、そんな彼女の表情も仕草も、俺にとってはたまらなく癒される清涼剤なんだと思った。
「いや、本当だから!ほんと、本当だから!!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「はぁああ~・・・まぁ、今日は許してあげます。お茶に連れて行ってもらえるから~ウヒッ」
大きな溜息をひとつ吐いた後、尖った耳をピクピク上下させながら満面の笑みを浮かべてくれた。
もう俺は苦笑いしか返せなかった。
まるで
外見20歳、思考回路は30歳
ハイスペックな能力を誰にも言えない、悟られてもいけない。そんな
元の世界では味わうことができなかったこういう時間を
心許せる女性と流せることがたまらなく嬉しかった。
「着きましたよ~~!」
アニーはまるで子供のように俺の手を引き、店の扉を勢いよく開けた。
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
扉を抜けた先は、木漏れ陽が薄っすら射し込む森の中だったが、木々の間から垣間見れる遠景に城壁らしきものが小さく映った。
転送されたこの場所は、きっと町からそんな遠く離れていなんだろうと感じた。
管理人に教えられた通り、自分が何者なのかを確認するため手を軽く横に振った。
不意に目の前へと半透明なボードが現れた。
そこに記されていた項目と内容に目を凝らした瞬間・・・俺は卒倒しそうになった。
「え?!これが俺なの?」
名前:
性別:男
年齢:20歳
種族:ハイヒューマン
職業:未登録
言語:習得済み
・・・・・・・・・
数値化されないスキルに関しては総てMAX表示、数値化されるLvやHP、MP、STなど身体能力に関しては上限の数値を遥か突き抜けている。
「ハイヒューマン」ってどれほど超人なのかと驚愕するより、逆にこのステータス値に飽きれを通り越して馬鹿々々しくなった。
「これは人間じゃない。こんなのでいいのか?」
しばし放心状態のままボードを見つめていた。
もうどうでもイイや!急にそんな気分になり、早送りのようにスクロールさせた瞬間、一番下のスキルを見て釘づけになった。
ユニークスキル:『創造変換』・・・万物を脳内変換により実体化させる能力
俺は、俺は・・・
俺は・・・神にでもなったのか?
「異世界にポンと放り出されてはお前も困るだろう」
そんな配慮から付与された「贈り物」
人間の上位種ハイヒューマンとして転移してきことはステータスで確認できた。
「唯一無二」の存在であると聞かされた意味も何となく理解できた。
だが、常人を遥か超越した能力・・・
暮らして行くだけなら持て余してしまうほどのオーバースペック・・・
管理人と称する男は、この世界で俺に何をさせたいんだろう?
「贈り物」として授けられたこの能力を何に使えと言うんだろう?
晴れそうにもない、そんな疑念だけが身体全体を覆った。
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